アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝8
〜覆面の探索者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝8 〜覆面の探索者〜
    〜第1部・第3話 大都会の喧騒2〜
    その後も各種依頼を見て回っていると、入り口付近が騒がしくなる。そちらを伺うと、複数
   の人物が入ってくる。実際に見たのは初めてだが、恐らく連中が勇者一行だろう。ミツキTが
   偵察通り、向こうは7人の構成である。

ミスターT(おいでなさったか、一応は警戒してくれ。)
ミツキT(了解。メカドッグ嬢達もヒドゥン状態で展開させます。)
    どういった流れに至るか、一応警戒はしておいた方が良いだろう。あの雰囲気からして、
   とても同調できる存在には到底思えない。問題は、この大都市では英雄的存在なのが痛い。
   下手に手を出してよいものかどうか。

    そんな考えを巡らしていると、案の定こちらに接近してくる。掲示板を見ている妹達の前で
   立ちはだかった。何ともまあ・・・。

勇者「・・・お前達が噂の英雄気取りの連中か。」
ネルビア「・・・お噂は兼ねがね、想像通りの様相ですね。」
カネッド「なるほどねぇ・・・。」
    勇者一行の様相は、既に承知済みの妹達。予想通りの気質が当たって、余計ゲンナリして
   いる。少しは立派な人物を想像していたのだろうな。
勇者「ふん、生意気なガキ共だ。あまりでしゃばらない方が身の為だ。」
ダリネム「最初に突っ掛かって来たのは誰なのやら・・・。」
アーシスト「もっと偉大な存在かと思いましたが、ガッカリですよ。」
   うーむ、普段は大人しそうな妹達も、この勇者の気質には怒り心頭のようだ。かく言う俺も、
   生理的に受け付けない事が痛感できる。

    妹達の挑発応酬に、自前の獲物を抜き向けてくる勇者。剣先が目の前に迫るも、一切動じ
   ないネルビアとカネッド。特にカネッドは気性が粗いため、この様な挑発行為には一番激昂
   しそうな気がしていたが、成長したものだわ・・・。

ミスターT「おいおい、ここで一戦交える気か? もう少し落ち着きなさいな。」
勇者「誰だ貴様は?」
ミスターT「彼女達の“警護者”でね。万般に渡って補佐をしている優男さ。」
勇者「ならば、コイツ等の態度を改めさせろ。他所様に向かって無礼な醜態だ。」
ミスターT「無礼な醜態ねぇ・・・。」
    徐に一服しつつ、その煙草を左手に持った瞬間、右手で腰の携帯方天戟を颯爽と展開する。
   それを勇者の首元に近付けた。絶対にそこには格納されていないと思われる場所からの出現、
   度肝を抜かれているのは言うまでもない。
ミスターT「お前さんこそ、余り舐めた真似をするなや。仮に勇者なら、総意に模範となる行動を
      示すのが筋だ。会頭直後から挑発行為をしだしたのは、一体どちらが先なのやら。」
勇者「ぐっ・・貴様・・・。」
   俺の行動に殺気立つ勇者一行。他の6人も武器を抜き構え出す。が、俺の十八番の殺気と闘気
   を目の当たりにし、恐怖に慄く表情となっていく。

ミツキT「一旦退かれてはどうでしょうか? 勇者という存在は、謹みが大切ですよ。それとも、
     どちらかが倒れるまで・・・殺し合いをされますか?」
    既に我慢の限界を超えている様子のミツキT。背中に背負っている携帯十字戟を手に持ち、
   俺に匹敵する殺気と闘気を放ちだした。特に彼女の場合は超ドギツイため、俺以上に恐怖に
   慄いた表情を浮かべだす勇者一行。
勇者「・・・この借りは必ず返す・・・。」
ミスターT「借りた憶えも返す気もない、とっとと失せやがれ阿呆。」
ミツキT「マスター、始末した方が良いと思いますけど?」
   不気味な声で語るミツキTのそれを聞き、脱兎の如く去って行く勇者一行。ドスが利いた声を
   放っていた勇者だが、逃げ足は凄まじく速かった。何と言うか、ある意味見事である。

    一触即発の状態だった場が白け、静寂さが戻ってくる。店内にいる人物は黙って行動を再開
   しだすが、俺達に向けて小さく親指を立てていた。これを窺うに、どうやら勇者一行の悪行が
   相当酷い証拠だろう。表向きは黙っているが、同調してくれたようである。


カネッド「・・・はぁ、肝を潰しましたわ・・・。」
ミスターT「ハハッ、お疲れさん。」
ダリネム「勘弁して欲しいですよ本当に・・・。」
    一気に緊張が解かれ、深い溜め息を付く妹達。逆に、今の様相が結構な修羅場だったのに、
   平然としている俺やミツキTは変人だろうな。
ジェイニー「よく・・平気でいられますよね・・・。」
ミスターT「んー、向こうでは今以上の修羅場を潜って来たからな。激昂軍服男事変なんか、今の
      よりも酷かったが。」
ミツキT「あー、皆様方が何度もボヤいていた、最初の大きな事変ですか。」
ミスターT「ああ、絶対悪を持ち出してきやがったしな。」
   地球での各事変を振り返り、懐かしい気分になっていく。それだけ、今は異世界にいるのだと
   否が応でも痛感させられる。同時に、目の前の妹達は確かに存在しているのだとも、改めて
   痛感させられた。
ミスターT「とりあえず、今後の行動プランも同じでいこう。お前さん達は10人一組で行動を。
      ミツキTさんも加勢してくれ。」
ミツキT「ですねぇ。あの様子だと、何処で要らぬちょっかいを出してくるか分かりませんし。」
カネッド「兄貴は1人で大丈夫で?」
ミスターT「俺が掴まったりすると思うか?」
   俺の言葉に首をブンブン振る彼女達。そもそも、彼女達にも付与しているバリアとシールドの
   防御機構。これは放射性物質やガンマ線すら防ぐのだ。特殊的な攻撃など効く筈がない。
ミスターT「ただ、言い方は悪いが、使い魔的な存在が欲しいか。」
ミツキT「メカドッグ嬢達ですか? 筐体さえあれば、再現可能なのですけどね。お嬢様方、防具で
     何か良いものはありますか?」
アクリス「お・・お嬢様ですか・・・。」
   意外な言い回しに顔を赤くしだす妹達。以前は妹達と言っていたと思われるが、元来はメイド
   気質のミツキTだ、こうした言動の方が性分に合うと言っている。

ネルビア「す・・すみません、呆気に取られて。お話を窺う所、そのメカドッグさん達は多分、隠密
     行動を取られると思います。ミツキTさんと同じ全身鎧だと、機動性の問題が出てくると
     思いますし。」
カネッド「となると・・・スーツとかの方が良いのかな。」
アーシスト「スーツと言うも、鎖帷子的な感じしかないと思いますが。」
    メカドッグ嬢達の筐体を考え始める一同。そもそも、まだ姿を見た事がないのに、どうして
   そういった発想が出てくるのかが不思議でならない。まあ、ミツキTの甲冑姿を見ているから
   なのか、精神体の類であると把握できたのだろうな。
ファイサ「依頼は後日に回して、今は装備などを整えますかね。」
ルマリネ「その方が良いかも知れませんね。それに、連中の横槍に備えねばなりませんし。」
ミスターT「ある意味アレだ、モンスを相手にする方が気が楽だわな。」
   俺の言葉にウンウン頷いてくれる。人間ほど嫉妬深い生き物はいない。まだ魔物達の方が野生
   的に動いているとも言える。連中の長たる魔王や大魔王は、野生の王とも言えるのだろうな。

    依頼の吟味を中断し、俺達は防具屋と武器屋に赴く事にした。先ずは防具屋で、メカドッグ
   嬢達の筐体となる一品を探してみる。上手い具合に合うものが見付かるかどうか・・・。


    防具屋への移動の道中、声を掛けられる事が多かった。それは、例の勇者一行に怖じずに
   撃退した事への感心だろう。どうやら、連中の悪行は相当なもののようである。しかし、連中
   の実力も確かなもので、誰も抵抗する人物がいなかったとの事だ。

    唯一あるとすれば、各冒険者ギルドと自警団と騎士団、そして王城だろうか。どんなに強い
   連中だろうが、組織的に動かれた場合は為す術がない。これは地球での警護者での活動時にも
   思い知らされている。

    まあ今のこの異世界では、警護者の役割はサブ的要素。メインは探索者としての活動だ。
   それに、主役は10人の妹達である。俺がでしゃばるのは無粋だしな。



キャイス「へぇ・・・結構ありますね。」
メラエア「私達の装備も一新しましょうか。」
    大都会の広さに翻弄されつつも、何とか防具屋に辿り着いた。この大都市での一番の規模を
   誇る店舗だ。その品揃えは、他に類を見ないほどのものである。
ミスターT「お嬢さん達は自身の装備を整えてくれ。俺はメカドッグ嬢達の筐体を見繕ってくる。」
カネッド「お嬢さん・・・ですか。」
   俺の言動に不服そうに見つめてくる。先のミツキTの言動もそうだが、その畏まった様相に
   違和感を感じているのだろう。
ミスターT「向こうでの言動はこれが当たり前だったよ。今までは形作っていたが、お嬢さん方の
      強さがモノホンだと分かったんでね、当然の流れさ。」
ミツキT「ですね。それに私達は嘘は付けないクチなので。元来から敬語の連発でしたし。」
ミスターT「正に“敬語者”そのものだわな。」
   簡単なボケを言い笑い合う俺とミツキT。それに呆気に取られる妹達。だが、何処か安心した
   表情を浮かべだしつつ、それぞれの行動をしだした。

    さて、問題は山積みだ。先ずはメカドッグ嬢達の筐体となるものを見つけねばならない。
   彼女達の超絶的な行動力をすれば、ミツキTの様な全身鎧では隠密に適さない。かと言って
   防御力を減らすのは得策でもない。

    ここは可能な限りの静音性を維持しつつ、ウィークポイントとなる胸・腰・両腕・両脚を
   守る防具を選ぶべきだろう。全身鎧はスーツ的なものがいい。俺が着込んでいる万能スーツと
   同じ感じが無難か。

ミスターT「宿屋に10人ほど待機させているんだが、それだけの防具は揃うか?」
防具屋店主「倉庫も掻き集めれば、100人規模もご用意できます。臨時のご注文が入った際に、
      直ぐに対応できるようにしておりますので。」
ミスターT「助かるわ。」
    流石は大都会一の防具屋、その規模自体もケタ外れだった。これなら、10人分の防具が
   揃える事ができる。

    何故最初に全身鎧を選んだのか。それは身体の脹らみを再現させるためだ。ミツキTの場合
   だとそれが叶ったが、今度のメカドッグ嬢達は事情が異なる。隠密行動をさせるのを主題と
   するからだ。

    ミツキTとメカドッグ嬢達の精神体は、実体がないため幽霊的な存在となる。何らかの筐体
   に付着できるなら、それを動かす事は可能だ。問題は、生物らしさを表現できるかどうか。

    そこで選んだのが、狩人が装備する全身服。金属性の装備は胸と脛しかないが、その布地は
   何層にも折り重なれているため、かなりの硬さを誇っている。つまり、下手に潰れる心配が
   ない事だ。

    試しに1着ほど見繕い、ミツキT・アクリス・ジェイニーにご足労して貰った。試着室に
   入り、ヒドゥン状態のメカドッグ嬢1人を表に出し、その彼女に見繕ったものを着て貰う。
   結果だが、布状の衣服でも生物らしさを表現する事は可能だった。

    当然、外部から表情を窺わせる訳にはいかない。目元は可能な限り黒い状態を維持し、頭は
   頭巾で覆い被さるようにする。精神体故に実体がないのだが、付着する事で“元となる存在”
   は具現化できる事が判明もした。これなら、ミツキTも軽装備に換える事ができるだろう。


    防具の方は何とかなったので、次は武器の方になる。こちらはメカドッグ嬢達の機動力を
   考えて、ダガーに弓矢で良いだろうか。俺達地球組は魔法が使えないため、物理的な遠距離
   攻撃を行うしかない。

    幸いにも、メカドッグ嬢達の戦闘ロジックは、地球でデュヴィジェ達が色々と組んでくれて
   いた。万般に渡って行動ができるようになったとの事なので、ダガーと弓矢で十分だろう。
   彼女達のウリは、機動力による高速戦闘になるしな。

    妹達は既に選び終えている。シュリーベルで装備を整えた武具を、よりアップグレードした
   感じだ。それでも、自身が強くならなくては意味がない。そこは把握しているようである。



    全ての装具が揃ったので、宿屋へと向かう俺達。冒険者ギルドが手配してくれた、大都会で
   一番大きな宿屋である。そこで、改めて10人のメカドッグ嬢達を具現化させる。予め、主軸
   となる防具をソファーに置き、そこにメカドッグ嬢の精神体を付着させていく。

    ただ置かれているだけの狩人服が、一気に膨らみだしていく。女性特有の身体のラインを
   醸し出していく様を見て、妹達は驚愕の表情を浮かべていた。かく言う俺も驚愕している。
   他の9人も同じ作業を行い、精神体から実体化させていった。

    そして、残りの防具全てを装備させ、晴れて異世界版メカドッグ嬢達が完成した。地球での
   機械兵士の筐体を使っていたのとは別の姿である。これなら、この異世界でも縦横無尽に活躍
   ができるだろう。

    宿屋の方には追加10人分の代金を支払った。後から駆け付けると言っていたので、それを
   実行した感じである。あのまま黙っていたら、無賃宿泊状態だったしな。

    ちなみに、メカドッグ嬢達10人とミツキTは、食事などの外部の補給が一切いらない。
   元から無限大の行動力を得た精神体なため、無尽蔵に動き回れる。疲れ知らずの完全無欠と
   言えた。

アーシスト「何と言うか・・・マスターの常識は、私達の非常識と言うべきか・・・。」
ミスターT「まあそう言いなさんな。これで不測の事態の対策は申し分ない。お嬢さん達に1人ずつ
      メカドッグ嬢を護衛に着ける。これなら単独行動も可能だろう。」
キャイス「勇者一行の横槍対策ですね。」
ミスターT「悪党は、陰でコソコソと暗躍するのが通例だからな。何時何処で襲撃されても大丈夫な
      ようにしないと。」
    隠密メカドッグ嬢達の具現化は、今後の戦力には欠かせない存在になる。異世界への対策は
   万全にしておかないといけないしな。
ミスターT「ただ、最低でも2人一組で動いた方がいい。メカドッグ嬢達が2人着くから、4人での
      行動となる。これなら連中にも引けを取らないだろう。」
メラエア「他の10人の方はよろしいのですか?」
ミスターT「残り10人のメカドッグ嬢達は、ミツキTが指導で情報収集に動いて貰う。ヒドゥン
      状態・・・つまり姿隠し状態なら無限大に動ける。」
ダリネム「10人が姿現し、10人が姿隠し、見事な布陣ですよ。」
   最初は付いて来れなかった彼女達も、今では俺達の世界観が定着しつつある。そもそも、護衛
   などを長期間行うと、それが警護者の礎になるのは言うまでもない。つまり、彼女達も警護者
   の訓練を受けていると言っていい。

ネルビア「ミスターTさんは単独で行動されるので?」
ミスターT「俺は誰かと組んで動こう。中心で据わる人物が必要だろうし。」
ミツキT「連絡なら、メカドッグ嬢同士での意思の疎通ができますから、問題はありません。」
カネッド「便利っすよね、それ。」
    メカドッグ嬢達の連携に感心する一同。まあこれは、意思の疎通たる念話があってこその
   ものである。各ペンダント効果を持つ俺が、ミツキTとメカドッグ嬢達とリンクする事で発揮
   できる業物だ。今の妹達にはできないものである。だからこそ、専属の護衛を着けたのだ。
ミスターT「よし、明日からはここで修行を繰り返すか。掲示板にあった依頼も、相当な難易度の
      ものばかりだったしな。」
アクリス「ゆっくり進んで行きましょう。」
カネッド「やったりますぜ!」
   カネッドの言葉に雄叫びを挙げる妹達。出逢った頃の初々しさは全くなく、今では歴戦の傭兵
   軍団のようである。

    さて・・・今後どう出るか・・・、変な興味が湧いてくるわ・・・。

    後半へと続く。

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