アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝8
〜覆面の探索者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝8 〜覆面の探索者〜
    〜第1部・第4話 襲撃と召集3〜
    大都会内部から走る事数分後。襲撃されている小さな集落へと到着した。そこには既に先客
   がおり、孤軍奮闘を繰り広げている。出で立ちからして青年のようだ。

ミスターT「大丈夫か? 加勢するぞ。」
青年「すみません、助かります!」
    腰の携帯方天戟を展開し、青年に肉薄する魔物の攻撃を受け止め、殴り付けで一蹴する。
   超怪力の力のお陰で、素手でも獲物を持った状態と同じ火力を叩き出せている。と同時に気付
   いたのは、青年だと思っていた人物は女性だった。また周りを見ると、この場には3人しか
   いない。
ミツキT「危ないですよ、一歩下がって様子見を。」
   2人の人物に襲い掛かる魔物を、飛び蹴りで蹴散らすミツキT。背中の携帯十字戟を手に、
   その2人を守りながら戦いだした。俺は1人の女性の背中を守りながら奮闘する。そして、
   この2人も青年ではなく女性であった。
ミスターT「どうしてここに?」
女性1「採取クエストを受けて回っていたのですが、丁度その時に魔物の襲来があって・・・。」
ミスターT「皮肉な到来という訳か。」
   現状を伺いつつ、襲い掛かる魔物を蹴散らしていく。この女性、気迫は維持しているが、腕の
   方はまだまだ半人前なのだろう。相手の力に圧倒されている。

    緊急事態という事で、この3人にバリアとシールドの防御機構を施した。身体に纏う力に
   驚きつつも、その効果を身を以て思い知る。支援直後に敵の一撃を喰らうも、相手の獲物を
   破壊する事で窺い知った。

    そして、彼女達が善悪判断レーダーにより、悪心が一切ない事が証明された。つまり、信用
   できる存在である証拠だと言う事だ。

女性1「こ・・これは・・・シュリーベルの奇跡・・・。」
ミスターT「・・・お前さん、この正体を知っているのか?」
女性1「遠巻きから薄っすらとですが・・・。当時、冒険者ギルドで集まっていまして・・・。」
ミスターT「その時に窺っていた、か。」
    うーむ、見られていた訳か。まあ、隠し立てするような事はしていなかったので、これは
   致し方がないとしか言い様がない。となると、当時はシュリーベルで待機中だったのだろう。

    防御面が磐石だと分かっても、まだまだ未熟な彼女達は、敵の攻撃を受けつつ反撃する姿が
   目立つ。無傷ではあるが、肉を切らせて骨を断つ戦法である。ただ、相手の急所を狙う術は
   あるようで、反撃は致命の一撃と化していた。

    どうやら、彼女達は実戦自体が初めてのようだ。しかし、一切逃げずに戦いを挑んでいる。
   この姿勢は見習うべきものだわ。


    暫くすると、増援として駆け付けてくる妹達。彼女達とメカドッグ嬢達のみで到来した所を
   窺うと、独断でこちらに来たようである。直ぐさま俺達と共同戦線を張る姿に、一切の迷いが
   感じられない。

    それなりの規模の魔物の襲来だったが、集落自体への到来は阻止できている。先に善戦して
   いた3人が、魔物達の集落内部への侵入を防いでいたからだ。初心者的な感じがする3人では
   あるが、その勇敢さは勇者そのものだな。



カネッド「終わったぁ〜・・・。」
ダリネム「結構来やがりましたねぇ・・・。」
    激闘を演じる事、数十分後。無事魔物達を撃退する事ができた。集落へのダメージは一切
   ない。見事なまでの完全勝利である。
アクリス「あれ・・・こちらのお3方、例の防御支援が・・・。」
ジェイニー「となると、信じられる方という事ですね。」
ミスターT「その言い方は何だと思うが・・・。まあ・・無事だったから問題はない。」
   自分達の言葉に悪いと頭を下げる2人。それを見た3人だが、それが何の事かは理解できて
   いない様子だ。まあ、この3人は、バリアとシールドの防御機構の真の意味合いを知らない。
   だが、それを語っても信頼に値する人物なのは確かだがな。
ミスターT「自己紹介がまだだったわ。俺はミスターT、こちらは・・・。」
   俺を皮切りに自己紹介を始める一同。それに急に畏まりだし、深々と頭を下げて自己紹介を
   してきた。

    3人はエメリナ・フューリス・テューシャ。何と王城での啓示を受けた、正真正銘の勇者
   一行だった。それに驚愕する妹達だが、あの勇者共を見てきた手前からか、この3人には何処
   か共感する部分があるみたいだ。

    何でも、遥か遠方の農村から出稼ぎに出たのが発端らしい。何とかカルーティアスに到着
   するも、そこで例の勇者共に横槍を受けたようだ。運良く騎士団に助けられ、王城に来たと
   いう流れとなったとの事。そして啓示を受けるというのだから、人生は何処でどう変わるか
   分からない。

    しかし、勇者の掲示を受けても、基礎能力を高めようとする姿勢は崩さないでいたようだ。
   元から戦闘には不向きだった3人は、採取クエストなどをこなしつつ、冒険者ランクを上げる
   事を試みていたと言う。その最中に、この魔物の襲撃に遭遇したようだ。

    ちなみに、勇者の啓示を受けたのはエメリナとあるが、フューリスとテューシャも同じく
   啓示を受けたようである。フューリスは騎士として、テューシャは賢者としてだ。職業として
   の役割はあるものの、2人も正真正銘の勇者である。

    また、先程シュリーベルの奇跡を知っていると話したのは、当時周辺での採取クエストを
   行っていたからだと言う。一歩間違えば、黒ローブ共に襲われていたのだが・・・。その場に
   立ち合わせた事が、バリアとシールドの防御機構を知る事になったのだ。実に皮肉である。

ネルビア「本当の勇者様にお会いできるとは・・・。」
エメリナ「止して下さい・・・。今の戦闘でも、まともに戦う事すらできませんでしたし・・・。」
フューリス「お2人に助けて頂かなかったら、やられていたと思います・・・。」
テューシャ「本当に感謝しています・・・ありがとうございました・・・。」
    再度、深々と頭を下げだす3人。この姿勢を見ると、否が応でも妹達の心情が理解できた。
   あの“偽”勇者共との対比だ、雲泥の差過ぎるとな。
カネッド「とりあえず、街中に戻りますか?」
ミスターT「集落の方は大丈夫そうだしな、戻るとするか。」
アクリス「集落の方々には不謹慎ですが、今回の襲撃を感謝するしかありませんね。」
   彼女の言葉にウンウン頷く他の9人。俺とミツキTも頷くしかない。本当に、何処でどう縁が
   発生するか分からないものだわ・・・。



    再度集落の状況を確認し、大都会内部へと戻る。行き着けの冒険者ギルドに報告した方が
   良いだろう。すると、丁度ギルド前に差し掛かった時、例の偽勇者共が待ち構えていた。

    相変わらずの7人組で、以前よりも増して表情が悪役そのものとなっている。こちらも、
   人は何処でどう変わるか分からない典型的な例である。

偽勇者「貴様等、与えられた任務を途中で放棄するとは、いい度胸をしているな。」
カネッド「はぁ?! 変な言い掛かりは止めろ!」
ダリネム「テメェ等、さっきの合同警備には居なかっただろうが!」
アーシスト「何処までも薄汚い連中だな・・・。」
    うわぁ・・・開口直後から暴言の応酬だ・・・。特に妹達の方は我慢がならない様子で、
   物凄い勢いで食って掛かっている。まあ、最初に突っ掛かって来たのは偽勇者共の方だが。
偽勇者「ふん、何処までも教育がなっていないカギ共だ。それより、そこの偽勇者共を渡せ。」
アクリス「渡してどうするというのですか?」
偽勇者「我々に妨害工作を働いた罪だ、自警団に突き付ける。」
ネルビア「ご冗談を。お3方こそ、騎士団が警護し、王城にて勇者・騎士・賢者の啓示を受けた、
     正真正銘の勇者様ご一行だ。数々の妨害工作を働いているのは、貴様等の方だ!」
キャイス「あまり、でしゃばらない方が身の為だぞ、偽者諸君さんよ。とっとと失せな!」
   うーむ・・・まるで騎士道精神で動いていらっしゃる。妹達の気質は、今では立派な騎士に
   近いものになっていた。それに、3人を擁護する理由が多々有り過ぎる。極め付けが、この
   偽勇者共の存在だろう。

    一触即発のこの場、見事なまでの修羅場と化した。まだ肝っ玉が据わらない3人は、この
   様相を見て顔を青褪め震え上がっている。念話を使わずとも、その脅えが本当のものである
   事は明白だ。

ミスターT「はぁ・・・1つずつ片付けようか。1つ目、お前さん達が先の周辺警備時にいたとの
      事だが、これは本当なのか?」
偽勇者「当たり前だ。丁度運悪く、東側の警備に当たっていただけだ。」
ミスターT「んー・・・それが事実なら、妹達が出会う筈がないが? 彼女達は西側の、先日襲撃を
      受けた近くを回っている。お前さん達が妹達を認知するのは、この街の規模と距離から
      からして、非常に難しいのだが。」
    俺の言葉に絶句する偽勇者共。数日前、カルーティアスの様相をメカドッグ嬢達に探索して
   貰ったが、街の直系が軽く10kmを超えている。端から端までの距離を考えれば、全速力
   でも結構な時間が掛かる。双眼鏡などの道具がない限り、反対側を認知する事は不可能だ。
ミスターT「それか・・・予め偵察者を紛れ込ませていたか。それならば、可能性は出てくるが。
      ともあれ、偵察者のプランを除いたとしても、お前さん達が直接見た訳ではない。」
偽勇者「ぐっ・・・。」
ミスターT「2つ目だが・・・。」
   そう言うか否か、帯刀中の剣を抜き、俺に斬り掛かって来る偽勇者。それを見た仲間達が一気
   に殺気立ち行動をしだす。その中で、いち早く動いた人物がいた。エメリナである。

    傍らに居た彼女が、鞘に剣を収めてある状態でその攻撃を受け止めた。しかし、偽勇者との
   腕力の差から押され気味だ。そこに加勢しようとするが、気迫で待ったを掛けてきた。

エメリナ「・・・ここまで言われて、退き際を見極めないのですか・・・。」
偽勇者「知った事か! 邪魔する奴は誰であろうが容赦はしない!」
ミスターT「邪魔・・・邪魔ねぇ・・・。」
    流石の腕力差に押し切られ、鞘ごと剣を吹き飛ばされる。そのまま一太刀を浴びせられた。
   だが、先の戦闘でバリアとシールドの防御機構がなされている状態だ。受けた剣は見事なまで
   に圧し折れてしまう。
偽勇者「なっ・・・何だとっ?!」
ミスターT「言わんこっちゃない、“警護者の加護”が発生した証拠だ。どんな攻撃だろうが、一切
      受け付けんよ。」
偽勇者「ぐっ・・・洒落臭いっ!」
   ついに血迷ったらしく、今度は魔法を使い攻撃をしてきた。超近接で炎の魔法を放ってくる。
   詠唱こそない部分は、それなりの実力はある証拠だろうか。

    放たれた炎はエメリナと俺を巻き込み大爆発を巻き起こす。その直前、偽勇者は結構な距離
   を離して離脱していた。逃げ足だけは表彰物である。その場は修羅場所の話ではなくなった。
   正に襲撃現場である。

    しかし、爆炎が収まった頃、全く以て無傷なエメリナと俺が現れる。近場に携帯方天戟を
   突き刺し、態とらしく一服をして見せた。その真ん前には仁王立ちの彼女という構図だ。

偽勇者「な・・・何だと・・・。」
ミスターT「何だとは失礼な、勇者エメリナの警護者だと言ってるだろうが。」
エメリナ「退きなさい、これ以上の狼藉は許しません。」
    獲物がないため、傍らにある俺の携帯方天戟を手に取り、その矛先を偽勇者に向ける。重力
   制御がない状態の彼女からか、結構な重さがあると思われる。しかし、今は気迫がそれを凌駕
   しているのか、問題なく片手で持って見せていた。
ミツキT「あー、これには流石にカチンと来たんですけど・・・、殺しちゃっていいですか?」
ミスターT「ゴーサインを出したいんだが・・・どうするかね。」
   仁王立ちのエメリナの背後から、ワラワラと出るように現れるミツキTとメカドッグ嬢達。
   凄まじいまでの殺気を放っていた。それはミツキTだけではなく、メカドッグ嬢達も放って
   いる。本来なら意思の疎通は難しいのだが、どうやらミツキTと同期しての業物らしい。

    炎の魔法まで使っての攻撃は、流石に殺人である。そして、ミツキT達の殺気もあって、
   その場から逃げるように去って行く偽勇者共。見事なまでの悪党である。

    だが、問題があった。それは、討伐戦に参加していた自警団と騎士団が追わなかった事だ。
   実力からして、連中よりも彼らの方が遥かに上手だろう。しかし、誰1人動かなかったのだ。

    推測するに、偽勇者共が貴族出身なのが要因だろうか。となると、自警団と騎士団は上層部
   から圧力を受けている事になる。故に、偽勇者共の愚行を野放しにしていると思われる。


エメリナ「すみません、勝手に武器を使ってしまって・・・。」
ミスターT「いや、構わんよ。むしろ、よく持てたと思ってね。」
    俺の言葉に気迫が戻ったのか、突如として重さを感じて両手で持ちだした。エメリナの腕力
   からして、携帯方天戟を片手で振り回すのは難しいだろう。だが、気迫が勝っていれば、重量
   の問題は払拭できるようだ。言わば、火事場の馬鹿力である。
ミスターT「見事なまでの啖呵だったわ。勇者とはこうでなくてはな。」
ミツキT「勇ましい者、ザ・マーヴェラスですよね。」
   一服しつつ、エメリナの頭をポンポン叩いた。それに呆気に取られるも、嬉しそうな表情を
   浮かべている。その彼女に弾き飛ばされた愛剣を手渡すミツキT。俺に携帯方天戟を返し、
   頭を下げつつ愛剣を受け取っている。
カネッド「本当に正真正銘の勇者だよねぇ。」
ダリネム「あの情況下で怯んでなかったし。」
エメリナ「そうは仰いますが・・・。」
   そう言いつつ、自分の足を指し示すエメリナ。今になって両脚がガクガクと震えだしていた。
   緊張が解かれた後の恐怖心だろう。それでも、あの気迫は素人では出せないレベルである。

フューリス「いざと言う時のエメリナさんは、凄い力を発揮しますからね・・・。」
テューシャ「私達は怯んでしまいましたし・・・。」
ミスターT「謙遜しなさんな。お前さん達も、連中の暴言に怒り心頭だっただろうに。エメリナさん
      よりも強い怒りを感じてたわ。」
ミツキT「逆を言えば、エメリナ様は自重心が抑えられなかった証拠ですよ。」
エメリナ「そんなぁ・・・。」
    フューリスとテューシャを擁護する発言をすると、それに便乗するミツキTとエメリナ。
   そのやり取りに周りは笑い合う。本当に女性は強いわな・・・。

    突発的に発生した偽勇者共事変だったが、周辺への被害は皆無だった。更に近場に自警団と
   騎士団がいたため、現場検証的な事は行わなくて良いとの事になる。まあ、先程も連中を追跡
   しなかったぐらいだ、お咎めなしの状態だろう。

    一応解放された形になった俺達は、行き着けの冒険者ギルドへと向かった。後はここへの
   報告だけとなる。まあ、この街全体が偽勇者共の愚行を黙認し切っているため、表向きは何を
   言っても意味はなさそうだが。



ネルビア「報告終わりました。」
ミスターT「お疲れさん。」
    全ての報告を済ませて戻ってくる一同。3人の方も今回は被害者側になるため、一応の報告
   を済ませたようだ。俺とミツキTは部外者扱いなため、店内一番奥のテーブルで寛いでいる。
ミスターT「すまんな、お前さん達も巻き込んじまって。」
カネッド「さっきの馬鹿共ですか? うちらも巻き込まれた側だと思うんですが・・・。」
ダリネム「あの野郎共、ホンッとに腹が立つわ・・・。」
   思い出しただけでこの様相だ。怒り心頭の姿からして、彼女達の災厄とも取れる。しかし、
   それで3人と出逢えたのが皮肉な話だわ。
エメリナ「あの・・・私達も同席させて頂いてても、よろしいのでしょうか?」
アクリス「気にしないで下さい。もはや一蓮托生ですよ。」
ジェイニー「逆にお3方の問題から、今後も要らぬ横槍が入るのは間違いありません。ここは一緒に
      行動した方が良いと思います。」
   そう言いつつ、俺の顔を見つめてくる妹達。建前的には仲間であると豪語しているが、最終的
   な判断は俺に一任して来るようだ。主役は彼女達だというのに・・・。

    落ち着いた状態となったので、改めてお互いに自己紹介や詳しい経緯などを語り合った。
   驚いたのが、この3人も10人と同じく15歳でタメとの事だ。しかし、生まれは山奥の農村
   のようで、孤児院出身だった妹達とは境遇が異なる。だが、その農村は既にない。

    話によると、数ヶ月前に故郷が魔物の群れに襲撃を受けたとの事だ。それにより、育ての
   親や知人は全員死去。問題なのが、その襲撃は魔物達だけではなく、人間も関与していたと
   分かったらしい。魔物達と精通する人間がいる事、ここが重要だ。

ネルビア「そうでしたか・・・。」
フューリス「私達は丁度、山中に薬草などを取りに行っていて、その間に襲撃に遭いました。」
テューシャ「私とフューリスは、その村で孤児として引き取られたのですが、エメリナさんは育ての
      親の方がいらっしゃいました。」
エメリナ「今思うと、当時物凄く取り乱したのは私だけでしたね。」
    淡々と語るエメリナだが、そこには激しい怒りが込められているのが分かった。しかし、
   憎しみの一念は感じ取れていない。普通ならば憎しみも抱く筈である。
ミツキT「憎しみを抱かないぐらいの激しい怒り、ですか。」
エメリナ「いえ、怒りはあるのですが、憎しみはありませんでした。それよりも、私達みたいな境遇
     の方々がいる事に、遥かに怒りが湧いてきます。」
ミスターT「勇ましい者、ザ・マーヴェラスか・・・。」
   勇者の何たるかを思い知らされた感じだ。自身に降り掛かった境遇よりも、他者への思いが
   強いのだ。利他の一念そのものである。

    徐に一服しながら思い耽る。俺の場合だと、ミツキTの病死の時に激しい怒りと憎しみを
   覚えた。彼女が病死する前に至った、要らぬ横槍や何やらに対してのものだ。しかし、彼女は
   それすらも物ともせず寿命を全うしたのだ。

    もしそれが殺害となっていたら、自我を失い阿修羅の如く暴れ出したであろう。エメリナに
   降り掛かった災難は、俺には到底理解できない境涯である。

エメリナ「・・・あの、ミスターさん。私達を皆様の仲間に加えて頂けませんか?」
ミスターT「・・・お前さんの真の目的、それが魔物に復讐する事なら断るが。」
エメリナ「それはありません。私達に降り掛かった事を、他の方々にはさせたくないのです!」
フューリス「私からもお願いします・・・。」
テューシャ「あの様な悲惨な思いは・・・絶対にさせたくありません・・・。」
    真剣な表情で見つめてくる3人。その目線は、確固たる一念が据わっているのを感じた。
   そして、その決意に当てられたのか、同じ様に懇願する表情を浮かべる10人。
ミスターT「・・・お前さん達は構わないのか? 勇者達と共にあるのは、その道筋が熾烈を極める
      事になるが。」
ネルビア「マスター、私達が怖気付いたとでも? 見縊って貰っては困ります!」
アクリス「あの力がお3方に効いたのは、それだけ善心に溢れる証拠じゃないですか。それは、胸中
     の一念が不動である証拠です。信じなければ失礼ですよ!」
カネッド「偽勇者共には分からない境涯、ここで退いたら女が廃るってもんですぜ!」
   凄まじいまでの気迫で迫ってくる10人。彼女達が3人と同じ境遇である事が、全てを後押し
   しているのだろう。今まで見た事がないものだ。

ミツキT「ここはお嬢様方の勝ちですよ。小父様が折れるまで、ずっとこの気迫だと思います。」
ミスターT「そうだな・・・。」
    即決できない俺を見かねて、トドメの一撃を放ってくれるミツキT。俺自身は既に回答を
   決めているのだが、彼女達の本当の決意を知らねばならない。まあ、この気迫からすれば、
   全て杞憂だと言えるが。
ミスターT「分かった。覆面の探索者こと覆面の警護者が、お前さん達を最後まで守ろう。」
3人「あ・・ありがとうございます!」
   俺の答えに感極まり、そのまま抱き付いてくる。その勢いは俺を押し倒し、床へ倒れ込んだ。

    凄まじいまでの勢いに圧倒されたが、自然と3人の頭を優しく撫でてしまう。そう、自然的
   である。その厚意に今度は泣き出してしまった。

    家族同然の人物を殺されてからは、今まで我慢してきたのだろうな。胸の中で泣き続ける
   3人から、安堵による一念を感じ取れた。


    本当に女性は強い。上辺は弱く見えても、心中の一念は凄まじいまでの力を持っている。
   そして、いざと言う時の力強さは、野郎なんざ足元にも及ばないぐらいだ。

    地球にいる身内の女性陣の力強さを、この異世界で改めて痛感させられた。世界は違えど、
   女性の強さは何ものよりも強いと・・・。

    第5話へ続く。

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