アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝8
〜覆面の探索者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝8 〜覆面の探索者〜
    〜第1部・第6話 魔王の力3〜
    冒険者ギルドへの報告を済ませ、俺の元に戻って来るエメリナ達。西門と南門では既に防衛
   が始まっているとの事。しかし、連中は街中に入ろうとはしないらしい。

    また、エメリナ達の報告で、冒険者ギルドに駐留する冒険者達も動き出してくれた。この
   工業都市にいる自警団と騎士団もである。この姿勢は、大都会の同軍団とは全く異なる。

テューシャ「召喚魔法でしたか、それによる不意の襲来を想定との事ですが・・・。」
フューリス「誰も来ませんね・・・。」
ミスターT「・・・・・。」
    周辺の警戒をする3人。俺はトリプルマデュース改を展開しつつ、静かに瞳を閉じている。
   各ペンダントの中の、広範囲生体センサーの効果を感じ取るためだ。更に、バリアとシールド
   の防御機構にもある、善悪判断センサーも併せてみている。

    自分がいる場所を中心に、広範囲レーダー的な様相が脳裏に描写される。生体センサーは、
   人間サイドや魔物サイド全てを投射し、善悪判断センサーはその中の善悪全てを投射する。

    妹達とミツキT、そしてオルドラは2つともプラス面を向いているが、他の人間サイドには
   善悪判断センサーがプラスとマイナスに働くのが感じられた。つまり、根っからの善人では
   ないのがいるという事だ。流石にこれには溜め息が出てくる。

    逆に、魔物サイドで善悪判断センサーがプラスに傾くのが感じられた。魔物達が完全悪では
   ない証拠を垣間見たのである。まさかここまで判別できる事が可能とはな・・・。

    ちなみに、瞳を閉じるのは一種の演出で、実際には開眼状態でも問題はない。ただ、集中
   するという点では、瞳を閉じた方が効率が上がる。何ともと言った感じである。

ミスターT(人間の中での、善悪判断は普通だと思っていた。だが、魔物達の中にもそれがある。)
ミツキT(当然ですよ。本来ならそれは、見る事も感じる事もできませんし。)
エメリナ(正しいとは思えませんが、その概念を用いれば、世上からマイナスの存在は全て根絶が
     できますよね。)
アクリス(確かに。ですが、実に烏滸がましいと言うか何と言うか・・・。)
    エメリナとアクリスの言葉に、一同小さく目を伏せる。何処からが善で、何処からが悪か、
   そんな事は実際に分かるものではない。それを感じ取れる自体、正に異常者そのものである。
ミスターT(・・・参考程度に留めるが、それで何をするかまでは至らない。これはもう、警護者の
      常識の範疇を超越している。いや、生命体の常識を超えている。)
ミツキT(大丈夫ですよ。それらを知ったとしても、間違った方に使わなければ良いのですから。)
エメリナ(ですね。知らないでいるよりは、知っている方が良い場合もあります。要は各々の受け
     捉え方次第ですし。)
ミスターT(そうだな・・・。)
   改めて、己の立ち位置を考えさせられた。これはもう、とんでもない領域に至っている。

    一介の警護者であれば、ただ漠然と依頼などをこなすだけでいい。しかし、それ以上の力を
   持つ場合は、最悪は破壊者となりかねない。特に5大宇宙種族が力を持てば、この概念への
   到達は必然的だ。

    5大宇宙種族の面々が、その力を出したくなかった事を、身を以て痛感させられた。あまり
   にも超大過ぎる力により、全てのバランスを崩し破壊させる。故に、調停者と裁定者を担う
   事を徹底しているのだと。

    となれば、魔王と大魔王の存在は、マイナス面での調停者と裁定者なのかも知れないな。
   勇者達以上に力を持っているため、その役割を担っているようなものだ。



ミツキT(・・・小父様のその推測、当たった感じですよ。)
ミスターT(・・・嫌な当たり方だわ・・・。)
    物思いに耽りつつ、周辺への警戒をし続ける。そんな中、ミツキTが到来を告げてくる。
   俺と同期しているため、同じ状態を維持しているからだ。

    直後、目の前の広場に凄まじい魔力の渦が出現する。同時に、召喚陣が引かれだしていく。
   この力強さを誰かと挙げるなら、とある人物しか該当しない。

ミスターT「・・・魔王自ら出現、か。」
エメリナ「こ・・これが魔王・・・。」
    召喚陣の発動が終わると、忽然と立ち続ける人物がいた。禍々しいローブを纏うも、表情を
   隠さないでいる。黒ローブとは異なるものだ。と言うか・・・。
ミスターT「魔王は女性だったのか・・・。」
3人「ええっ・・・。」
   突っ込む所はそこなのかと、呆れ雰囲気の3人。更に遠方の女性陣も、念話を通して同じ思い
   を抱いていた。かく言う俺の方も、魔王は男性が通例だと思っていたのが実状だが・・・。
魔王「・・・お主が報告にあった、人知を超える力を持つ者か・・・。」
ミスターT「これはご丁寧に。一応“覆面の探索者”で通っている。」
魔王「フッ、そうか・・・。」
   手始めといった感じで、“左手”に魔力を込めだし拡散しだす。それが周りへと放たれだし、
   周辺に凄まじいまでのマイナス面の渦を出し始めた。

    凄まじいまでの魔力の渦なのだろう、その力に圧倒されているエメリナ達。だが、その魔力
   の規模を比較しようにも、全くできないのが今の俺だった。黒いモヤ事変のあの波動と比べる
   のなら、マッチ棒の火種と太陽の火力との差だ。

魔王「ふむ・・・我の魔力の渦に怯まぬか・・・。」
ミスターT「いや、お前さんの力と比較する対象がないのがね。確かに、お前さんの力は、超絶的で
      魅力的だろう。“マイナス面”の力を持つ存在なら、喉から手が出るほど欲しがる。」
    平然と語る俺に、言葉には出さないが驚愕しているのが分かる。魔王の力を以てすれば、
   この異世界の惑星の人物は確実に怯むだろう。エメリナ達が良い例だ。魔物達の方は言うまで
   もない。
ミスターT「それでも、お前さんの行動には敬意を表する。俺が知る魔王達は、一部例外はあるが、
      配下に勇者達を攻め入らせ、自身は城の玉座に踏ん反り返っているしな。お前さんは、
      その一部例外の魔王達と同じく最前線に出てきて、こうして対峙してくれている。本当
      に感謝するしかない。」
   “左手”のマデュース改を地面に刺し、その手を魔王に向ける。同時にそこから俺の十八番と
   なる殺気と闘気の心当てを放ってみせた。

    放たれた殺気と闘気は、先の魔王の魔力の渦とは比較にならないものだ。先に挙げた譬喩、
   マッチ棒と太陽の比較となる。その殺気と闘気を受けて、愕然とした表情で震え上がる魔王。
   今までその表情をした事がないのは間違いない。

魔王「こ・・・これが・・・。」
ミスターT「俺は魔力や魔法の魔の字すら分からん。比較できるなら、この殺気と闘気だけだろう。
      お前さんが小手調べで、“左手”から繰り出してくれた事への“左手”返しだ。」
    態とらしくニヤケ顔で語ってみる。とは言うものの、これで一応の比較になるなら問題ない
   だろうか。

    魔王自身のレベルがどのぐらいなのかが全く分からない。エメリナ達よりは遥かに強いのは
   痛感できる。いや、この異世界の住人全ての中の、最強クラスの実力者だ。俺が彼女とどの
   程度の差なのかも、この殺気と闘気だけでは分からない。

魔王「お主の力は・・・魔族寄りに近い・・・。」
ミスターT「魔王自ら評価してくれるとは・・・有難いものだわ。」
魔王「・・・変わり者だな。」
    俺の言葉に小さく笑う。その魔王の意外な言動に、傍らのエメリナ達が呆然としているのが
   分かる。相手との実力差以上に、一個人として見ている部分だろう。
ミスターT「今度、じっくり語り合いたいものだわ。」
魔王「・・・遠回しに退けを言うのも見事だな。」
ミスターT「今回は、相手の戦力分析での来訪だろうに。お前さんの本気は、まだまだこんなもの
      じゃないしな。」
魔王「それは、お互い様だろう・・・。」
   左手に込めていた、魔力の渦を収める。収まった力の反動により、その場に倒れ込むように
   しゃがむエメリナ達。それを窺い、俺の方も左手の殺気と闘気を収める。

    静かに歩み寄ってくる魔王。それを見たエメリナ達は殺気立つが、先の魔力の渦に当てられ
   動けずにいる。その彼女達に問題ないと合図を送った。

    目の前に立つと、マジマジと顔を見つめてくる。俺の顔は覆面と仮面に覆われているが、
   その奥底の力を見ているかのようだ。と言うか、この魔王は相当な美女である・・・。

魔王「フフッ、美女とまで言ってくれるのか。」
ミスターT「はぁ・・・お前さんにまで見抜かれるとは・・・。」
魔王「これでも一応、女だからな。その手の感情は容易に察する事ができる。」
    先程までの殺気に満ちた雰囲気は何処へやら。魔王自身が俺をどう見ていたかは不明だが、
   こちらは相手を1人の女性として見てきた。それに応じての物言いだろう。
魔王「敵にしておくのが惜しい逸材だな・・・。」
ミスターT「お得意の、仲間への誘いとかは言わないのか?」
魔王「今回は様子見の手前、お主に失礼であろう。それに、我の立場は一軍の将、己の私情で軍団を
   混乱させるのは道理に反する。」
   自分を見縊るなと雰囲気で語ってくる。自身は魔王の存在なのだと、まるで自分自身に言い
   聞かせているかのようだ。
魔王「今回は退こう。次は、“それ相応の力”で対峙したいものだ。」
ミスターT「分かった、楽しみにしているよ。」
   ごく自然と左手で頭をポンポンと叩いてしまった。そう、ごく自然とである。それに呆気に
   取られる魔王。だが、その彼女の目は何時になく優しいものになっていた。

    数歩後ろに引き、小さく会釈しながら去っていく魔王。来た時とは異なり、黒いモヤに分散
   しての去り様である。ドラキュラなどがコウモリになって去って行くのに近い。

    同時に、展開していた魔物達が去って行くのを感じた。転送魔法によるものかは不明だが、
   サッと消えて行く様がそれを物語るようだ。


    不意の襲来は、普通の雑談的な感じで終わりを見せた。一応の力の見せ合いはできたかと
   思われるが、あれは序の口に過ぎないだろう。

    魔王の力は、魔王自身の戦闘力だけではない。そのカリスマ的な存在により、軍団を指揮
   する部分にもある。特にあの魔王は、最前線に繰り出す姿勢を見せてきた。部下だけに指示を
   だして、自身は動かない存在とは異なる。

    これは恐らく、背後の大魔王も同じであろう。様子見と言う意味合いでは、こうした配下を
   送り付ける事はあるが、自身も動くタイプだと推測できた。

    同時に、何時何処で魔王決戦・大魔王決戦が起きてもおかしくない事を意味してきた。俺と
   ミツキTがボヤき気味に語っていた、親玉自ら出陣の事例も十分有り得るだろう。

    これは、常に最悪の状態を想定していた方が良さそうだ・・・。



エメリナ「何なんですかね・・・。」
ミスターT「に・・睨みなさんな・・・。」
    全ての雑用を終えて、オルドラ武器店に戻った一同。その中で、俺に詰め寄るエメリナ。
   フューリスとテューシャも詰め寄ってきている。
テューシャ「力の駆け引きは良いとして、最後のアレは何なのですか・・・。」
フューリス「相手を魔王ではなく、女性としてしか見てませんでしたよ・・・。」
エメリナ「アレが男性の魔王なら、問答無用で叩き潰していたとしたら許せませんが・・・。」
   凄まじいまでの気迫にタジタジである。魔王とのやり取りを見ていた3人は、そこに異性同士
   の姿を感じてヤキモチを妬いている。俺としては、普通の会話の1つだったのだが・・・。
ミツキT「はぁ・・・小父様のその姿勢に、地球でも数多くの女性陣が被害に遭っています。」
エメリナ「やはりそうですか・・・。」
ミスターT「誤解を招くような発言はやめれ・・・。」
   態とらしく語るミツキTに、より一層ヒットアップする3人。その彼女達を見つめ、呆れ顔の
   10人。だが、彼女達も嫉妬心を抱いているのが感じられた。

ミツキT「まあでも、相手を魔王やら敵やらと見るのではなく、その本質で見るのは正しいですよ。
     小父様の場合は女性として見てましたが、彼女にとっては特効薬のようでしたし。」
ミスターT「異性という部分は除くが、何か別の考えを抱いていたのは感じたがな。」
    3人を宥めつつ、徐に一服しながら語る。意図的ではなかったが、女性と言う点を突いての
   探りになったのは間違いない。魔王としての対峙だけなら、エメリナが語った通りに、攻撃を
   仕掛けたのは間違いない。
エメリナ「その姿勢・・・貴方でなければできませんでしたよ。」
フューリス「魔王の魔力の渦を受けて、動けず仕舞いでしたし・・・。」
テューシャ「貴方の殺気と闘気にも驚きましたが・・・。」
ミスターT「殺気と闘気ねぇ・・・。」
   魔力や魔法の力がない俺には、比較とする力は殺気と闘気の心当てしかない。それが同系列の
   力かは不明だが、相手に効果があったのは言うまでもない。

ミスターT「同時に確信した事がある。バリアとシールドの防御機構は、物理攻撃と魔法攻撃しか
      防げない。魔力の力当てや、殺気と闘気には為す術がないわ。」
エメリナ「確かにそうでしたね。」
フューリス「今も私達には、例の防御魔法が掛かっていますから。」
テューシャ「物理攻撃と魔法攻撃へは盤石でも、精神攻撃には為す術がない、と。」
    バリアとシールドの防御機構の弱点を窺い知った感じである。しかし、実質的に効果がない
   のは精神的攻撃であり、それは己の気力や気迫で十分対処が可能である。今現在でも防御機構
   自体の最強鉄壁は破られる事はないと思える。
エメリナ「それよりも・・・貴方の力が魔王寄りなのが気掛かりですが・・・。」
ミスターT「お前さん達、俺をラスボスにしてくれるなや?」
   態とらしくニヤケ顔で語ると、顔を青褪めて震え上がる妹達。魔王ですら厳しい相手なのに、
   それをも超越する存在は勘弁願うと言いたげである。
ミツキT「その場合ですが、女性力を使えば圧倒的に勝てますよ。」
ミスターT「またそれか・・・。」
ミツキT「フッ、女性を甘く見てはいけませんからね。」
   震え上がる妹達の肩を持つミツキT。俺が一番の弱点とする、女性の力を挙げてきた。それを
   窺った妹達が、何と態とらしく妖艶な目線で見つめてきた。それを見て悪いと思いながらも、
   爆笑してしまう。そして、その言動に今度は脹れ面になる彼女達であった。


    ともあれ、問題は山積みである。魔王の力は窺い知れたが、アレが真の実力でないのは明白
   である。その彼女の背後には、更に強い大魔王の存在も控えている。配下の軍勢の様相も、
   全て把握し切れていない。

    そして、敵は魔王軍だけではない。初対面時の魔王の印象は、悪党ではあるものの絶対悪
   とは感じられなかった。つまり、真の敵は人間側になるという事だ。偽勇者共や王城の連中が
   正にそれだろう。

    本来のゲーム作品では、魔王軍団が真の敵とされていた。しかし、この異世界の惑星では、
   完全に事情が異なっている。最悪は三つ巴の戦いになる可能性も出てくるだろう。

    俺がこの異世界に飛ばされた理由は、今の所まだ分からない。だが、人間側からの召喚では
   ないのは、何となく感じている。もし、魔王側だとすれば、それはそれで凄い事にはなるが。

    これは、相当厄介な様相になりそうな気がするわ・・・。

    第7話へ続く。

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