アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝8
〜覆面の探索者〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝8 〜覆面の探索者〜
    〜第1部・第9話 妙技を使う3〜
    どれぐらい治療して回っただろうか。既に日は暮れて、辺りは暗闇に覆われている。妹達が
   ランタンなどの光源を用意してくれており、その中での治療を繰り返し続けた。

    治療した女性達の絶望に溢れていた表情が、“半分だけ”希望に満ち溢れた表情に変わって
   いる。それに感化されたのか、暗かった妹達の表情も明るくなっている。しかし、それでは
   本当の笑顔とは言えない・・・。

ジェイニー「自警団の方々に伺いましたが、全ての方々への治療が終わったみたいです。」
ミスT「・・・すまんな、色々と調べてくれて。」
    俺が治療して回っている行動に、商業都市の自警団が関知して来る。すると、都市内の全て
   の傷付いた女性陣を調べるように、妹達が根回しをしてくれたようだ。俺は妹達と自警団に
   案内されつつ、治療に回る感じであった。
ミスT「・・・今の自分には、このぐらいしかできないが・・・。」
アクリス「十分過ぎるものですよ。皆様方に伺った所、“外面的な傷”は全て治癒したそうです。」
ミスT「・・・まさかとは思うが、暴行の極みたる痕跡も、か?」
   話したい内容の意図を察知したようで、静かに頷くアクリスとジェイニー。そこまでの治癒
   能力があるとは驚きだ・・・。

    確かに、“意図的に与えられた傷”であれば、ヘシュナの力なら治癒可能だと挙げてきた。
   “自らが望んで得た傷”の場合は、その限りではないとも。つまり、脳内の記憶の次元から、
   治療すべき箇所を特定したとも言える。

ミスT「・・・野郎の自分からして、女性の不可侵領域に触れた訳か・・・。」
テューシャ「貴方様、そこには私利私欲がお有りですか?」
    凄まじいまでの表情で俺を見入る彼女。今までに見せた事がないものだ。その彼女を押し
   留めるエメリナとフューリス。
テューシャ「どんな形であれ、貴方様は皆様方を治療された。そして、その過程において本来の姿に
      戻す事もできた、それで良いではないですか。」
ミスT「・・・そうだな。」
テューシャ「だから、自分を卑下しないで下さい。貴方様は無意識に行動をなされた。それが唯一の
      真実です。」
   真剣な表情ながらも、涙を流しつつ語る彼女。ここまでの雰囲気からして、過去にあった事を
   推測させる。しかし、それこそ不可侵領域であり、触れてはならないものだ。

ミツキT「ヘシュナ様のお力は、回復魔法などの意味合いではなく、遺伝子レベルで元の姿に戻す
     事をしているという事ですね。しかも、脳内の記憶も考慮しての治療と。」
アクリス「回復魔法や治療魔法の類ではなく、元の姿に戻すと?」
ミツキT「そうです。」
    改めて思い知らされる、5大宇宙種族の力。治療もできれば破壊もできる。正に万能の力と
   言い切れる。そして、その応用度は未知であり計り知れない。
ミスT「・・・お前さん達から、この商業都市の様相を聞いてから、我武者羅に動いていた感じが
    してならない。」
ミツキT「でしょうね。小母様の気迫が、並々ならぬものになっていたのを痛感しました。どんな
     力を用いようが、助け抜くのだという執念と信念も。」
ミスT「・・・身内に何と言われるか、恐ろしくなってきたわ・・・。」
   落ち着きを取り戻して来た頃に、自分が無意識に動いていた事を痛感させられた。自然的に、
   まともだと思っていたのが、実は暴走状態であったという事である。すると、再度凄まじい
   表情で睨んでくるテューシャ。その彼女に申し訳ないと頭を下げた。

    全ての治療を終えたのは、商業都市に到着してから数時間後、深夜を回った頃になった。
   現状からして、全ての女性を治療して回れた感じである。野郎の俺には本当に烏滸がましい
   行為だったが、今の俺にはこのぐらいしかできなかった。



    夜が明けてから、治療をした女性達を再度見て回った。絶望の表情しか浮かべていなかった
   彼女達が、今では活力ある表情を浮かべている。しかし、本当の治療はここからだ。

    トラガンの女性陣の時でもそうだった。彼女達は心に痛烈なまでの深い傷を負っており、
   それが癒えるまで数年は掛かった。話に聞く限り、リューヴィスにいる女性陣は相当な虐待を
   受けてきたと思える。時間は掛かるだろうが、その傷を少しでも癒せれば幸いだ。

    妹達は率先して彼女達の心のケアに尽力している。妹達も過去に何らかの虐待を受けた様子
   であり、目の前の人物を癒したいという一念が強く感じる事ができた。彼女達と初めて逢った
   時の、ゴブリン共への憎しみの表情。それはここに由来するのだろうな。

テューシャ「お疲れ様でした。」
ミスT「・・・ああ、すまない。」
    酒場の前の露天テーブル、そこにあるに椅子に腰を下ろす。妹達や3人は睡眠を取ったが、
   俺とミツキTは寝ずに都市内を回って歩いた。この不眠の様相だが、ペンダント効果による
   睡眠欲無効化状態である。後でとんでもない睡魔に襲われる事になるが・・・。
テューシャ「あの・・・昨日は本当に申し訳ありませんでした・・・。」
ミスT「ああ、例の戒めか、気にしなさんな。エリシェさんやラフィナさんにも、同じ様な戒めを
    受けている。ああやって、自己嫌悪に陥るのが俺だからの。」
テューシャ「そ・・そうでしたね・・・。」
   自身の行動が、エリシェとラフィナのそれと同じであった事に気が付いたテューシャ。その
   瞬間の戒めは、時と場合では無意識レベルでのものになる。後で過剰な行為だったと気付く
   のだが、言われた側は殆どが助かる事が多い。
テューシャ「・・・宇宙種族の治癒能力、回復魔法や治癒魔法の比ではないレベルと。」
ミスT「ヘシュナさんが言うには、生命体の遺伝子レベルから治療するとの事らしい。遺伝子に記録
    されている、限りなく近く元の状態に戻すと。」
テューシャ「魔法の概念は、その場での上辺的な治療ですからね。恐らくですが、その治癒能力は、
      身体の欠損すらも治療できると思います。」
ミスT「あー、ミュティナさんのアレか・・・。」
   彼女の言葉に、過去の事を思い出した。当時は強烈な印象を受けたが・・・。

    ミュティ・シスターズが次女ミュティナ。彼女がこの治癒力の力を見せるため、自らの腕を
   切り落とした事がある・・・。しかし、彼女の自己再生能力もあり、治癒能力も重なって腕の
   再生となったのだ。もはや人外レベルの話である・・・。

ミスT「身内にも言ったが、俺達警護者の戦闘力は、この異世界惑星で真価を発揮するのかもな。
    ホームベースたる地球では、有り得ない力になる。」
テューシャ「それでも、こうして皆様方を治療できたのは、貴方様がいたからこそですよ。当時の
      様相があったからこそ、ここに至ったと思いますし。」
ミスT「・・・切っ掛けは些細な事から始まるからな・・・。」
    本当にそう思う。何気ない行動から、大きく開花していく様を何度も見てきた。その結果に
   より幸か不幸かはさておき、行動する事にこそ意味がある。机上の空論では意味がない。
テューシャ「魔王イザリア様に感謝ですよね。」
ミスT「あー、彼女が俺を召喚してくれたからか。まあ、淵源は黒いモヤ事変なんだがね。」
   実に不思議な縁である。イザリアの言い分では、こちらを探知できたのは、黒いモヤを消滅
   させたあの事変がそれであると。つまり、地球での全ての行動には意味があったのだと心から
   思い知らされた。
ミスT「・・・俺の目が黒いうちは、可能な限り悲惨や不幸なんざ出させない。ありとあらゆる力を
    使ってでも阻止に走り抜くわ。」
テューシャ「・・・ありがとうございます。」
   再度振り返る、己の生き様。それに笑顔で頷く彼女に、心から癒される感じである。

    王城から勇者の啓示を受けただけはある。テューシャの場合は賢者の啓示だが、勇ましい者
   には変わりない。昨日、俺を戒めてくれた厚意も、正に勇ましい者そのものだった。それを
   自然に繰り出すエリシェとラフィナも、勇ましい者なのだろうな。

    俺の生き様を通し、目の前の悲惨や不幸を可能な限り取り除いていく。全ては今後の俺次第
   という事になる。頑張らねばな・・・。

    後半2へと続く。

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