アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第1話 創生者の願い事1〜
    粗方依頼を終え、喫茶店にて息抜きをする。本当に久し振りの休息だ。しかし、俺自身の
   “本当の休息の時間”はないのかも知れない。

    カウンター前に座ると、突如として視界が真っ白に変化する。眩い光に襲われたと同じ感覚
   に襲われたため、一瞬瞳を閉じてしまう。だが、その光が通常の閃光とは異なる事を感じた。

    どんなに眩い光であっても、瞳を閉じる瞬間に閃光を受ける。暫くは目の前に光のモヤの
   様なものが残るからだ。それがない事に気が付いたのである。

    徐に瞳を開けると、我が目を疑った。辺りが白色に染まった空間、そう例えるしかない。
   そこには何も存在しておらず、ただ真っ白な場だけが広がっていた。



    この場が何処なのか。そう思いを巡らせていると、目の前に白い衣服を身に纏った人物が
   現れる。忽然と現れた事に、本来ならば驚愕するだろう。

    だが、この白色空間に突然飛ばされたとなれば、最早何が起きても驚くべき事ではない。

    警護者の世界では、そういった臨機応変の対応を取らねば命取りとなる。一撃必殺の獲物を
   使う手前、本当に肝に銘じておかねばならない。

    まあでも、不可解な現実に対して冷静であれ、と語ってくれたのは、他でもない喫茶店に
   常駐する“身内達”ではあるが・・・。


ミスターT「・・・貴方は一体誰なのだ?」

    そう一言述べた。普通なら荒々しい言葉を述べるのだろうが、これも警護者界ではタブーと
   言うしかない。どんな状況であれ、先ずは相手を敬う姿勢を見せるのが警護者である。

    ちなみに、俺の名はミスターT。本名は別にあるが、今はコードネームで呼ばれている。
   それに警護者の世界では、コードネームで呼び合う事もある。

    今となっては本名で呼ばれる事はまずなく、今後もこれが使われる事はないだろう。俺自身
   としては、その方が望ましいが・・・。

謎の人物「お願いです・・・世界を救って下さい・・・。」

    その謎の人物は、ただそう述べだした。その声色からして、相手が女性であると思えた。
   腰回りにまで伸びる、長い金髪の髪から女性だとは判断できた。

    だが、目の前の環境を踏まえれば、相手が女性か男性かは不明となる。身内の面々がよく
   挙げるファンタジー設定を踏まえれば、この手の存在は俗に言う神的存在と言えるだろう。


ミスターT「あー・・・一先ず、俺はミスターTと言う。・・・そちらは?」
謎の人物「あっ・・・失礼しました・・・。私はティルネアと申します・・・。」

    オドオドしているティルネアと述べた女性。声色からして女性だと断定して良いだろう。
   まあ、もし神的存在であれば、性別などないかも知れないが・・・。

    と言うか、雑念にはなるが挙げたい。目の前のティルネアは、怖ろしいほどの美人である。
   今まで出逢った女性の中で、トップクラスだと思う。ただ、何処か儚げな雰囲気を醸し出して
   はいるが。

    先程までの言動を踏まえると、儚げな雰囲気はそこから至るのかも知れない。

ミスターT「ティルネア嬢か、了解した。先ず尋ねたいのだが、“まだ”時間はあるのか?」
ティルネア「あ・・はい・・・大丈夫です。」

    俺からの問い掛けに、その意図を察した返しをしてくれた。別段、嫌がる素振りは一切
   見せない所を窺えば、まだまだ時間はあると思われる。となれば、色々と尋ねておかねば
   ならない。



ミスターT「大変申し訳ないのだが、単刀直入に尋ねると・・・俺は死んだとか言うのか?」
ティルネア「い・・いえ、それはありません。貴方がお住まいの地球より、ご自身のみお呼びした
      形になります。」

    なるほど、とりあえずは死亡してはいない事になる。これで1つ、安心できた。だが、
   まだまだ懸念材料は存在している。ここも尋ねねばならない。

ミスターT「了解した。となると、俺が呼ばれたのは、先程の“世界を救って”と言う事に繋がる
      のか?」
ティルネア「そ・・そうなります。」

    再びアタフタする彼女。推測だが、あまりにも俺が冷静でいる事に驚いているのだろう。
   まあ俺自身も、いきなり今の環境に飛ばされれば、右往左往するのは言うまでもない。

    こうして冷静でいられるのは、身内が挙げていたファンタジー要素に酷使しているのと、
   警護者という職業柄だろう。常に冷静でいなければ、確実に不利になるのだから。

    それに警護者界では、冷静さを失った時点で敗北は決まったも当然だ。特に対象を護衛して
   いる場合は、要らぬ雑念は命取りになりかねない。

ミスターT「あー・・・すまない。俺の落ち着き度に関しては黙認してくれ。」
ティルネア「あ・・はい。・・・職業柄、冷静さを欠いた時点で死亡する恐れがある、ですね。」
ミスターT「・・・凄いな、心中読みか・・・。」

    俺の言葉を続けたティルネアに、ただただ驚くしかない。俺自身も直感と洞察力により、
   先読み程度は可能だ。しかし、彼女が挙げた言葉は、正に“寸分狂いなく”語られた。

    これに関しては、別段珍しい事ではなかった。過去に一例だけあったからだ。ただ、それは
   身内に伺った事であり、俺自身は“とある事変”で記憶を失ったため窺い知る事ができない。


ミスターT「・・・こんな変人だと言う事は理解して欲しい。」
ティルネア「い・・いえ、変人だなんて・・・。その強さは、常人では考えられないものです。」

    ただ、その様に挙げてきた。初対面の時の雰囲気から一変して、今は物凄く驚愕している。
   先の心中読みから派生させたのだろう。俺の何らかの部分を読んだと思われる。

    そう言えば、身内達からも同じ様な対応をされた事がある。俺自身に対して、何処となく
   読めない怖さがあるのだとか。ただ、それが俺の培った力ではないのは確かだ。

    現に身内の警護者達には、こちらを遥かに凌ぐ実力を持つ面々が多い。得手不得手こそ存在
   はするが、それでも彼らの実力は計り知れないものがある。

ミスターT「ところで・・・貴方は所謂、神様って存在なのか?」
ティルネア「いえ・・・その様な大層な存在ではありません・・・。」
ミスターT「となると・・・創生者という訳か。」

    ティルネアの返答からして、神という存在は好まないようだ。むしろ、付け加えた創生者の
   方が合うのだろう。雰囲気的にその気質が感じられる。

    それに、彼女の様な神秘的な力を持つ存在は、どちらかと言うと魔法使いなどの方が合う
   かも知れない。俺も地球で過去に会ったそうだが、“宇宙種族”とも言えるだろう。

ミスターT「・・・色々とすまない。どうしても疑問などは探る性質なんでな・・・。」
ティルネア「お気になさらずに・・・。むしろ、突然この様な場にお呼びしてしまい、本当に申し訳
      ありません・・・。」

    深々と頭を下げる彼女。確かにその通りだろう。いきなり未知の場所に飛ばされたのだ、
   不快な思いになるのは言うまでもない。ただ、幸いにも“時間は大丈夫”だと伺っている。

    これも身内から伺った事がある。フィクションの世界ではあるが、この手のファンタジー
   要因の場合は、初対面の存在と打ち解ける事が重要だとボヤいていた。

    まさか俺自身が実際に、その場面に遭遇しているのには大変な驚きでしかない。しかし、
   これが非現実ではなく現実である事には間違いない。

    ならば、身内が挙げた通り、初対面の人物と打ち解ける必要がある。今後の流れを踏まえて
   いくなら、必須条件とも言えるだろう。



ミスターT「まあ何だ・・・そろそろ本題に入ろうか。詳しい事を挙げてくれ。」
ティルネア「はい・・・色々と申し訳ありません・・・。」

    再び深々と頭を下げてくる。物腰が柔らかい創生者ではあるが、それだけ切羽詰っていると
   思われる。それに雰囲気からして、嘘偽りを語る様な人物には見えない。

    となれば、これから挙げられる内容は、十中八九全て真実であると言う事になる。


    ティルネアから語られた内容に、再度驚かされた。彼女が望む事とは、これから召喚される
   世界を救って欲しいというものだった。

    しかし、ただ救うだけなら、彼女の“半”全知全能な力を用いれば容易いらしい。だが、
   挙がった“半”全知全能故に、不可能な事があると言う。それは、人心掌握術だ。生命体の
   心の掌握術とも言える。

    幾ら創生者という存在であろうが、そこに住まう人物達を操る事はできないとの事だ。半ば
   強引にはできるらしいが、それでは全てを救う事には繋がらない。

    これは地球での、俺や他の警護者の活動にも当てはまる。最後は住まう地域の面々が、各々
   で解決しなければならないからだ。そこは弁えているようである。

    俺が呼ばれた理由は、創生者たる彼女の代理人として、理不尽・不条理な対応を強いられる
   人物を助けて欲しいとの事だった。何故俺なのかとは思ったが、この場合は無粋な考えになる
   ので気にしてはいけない。

    むしろ、警護者としての戦いが、ここでも役に立つのなら本望だ。今までも、そうやって
   戦い続けてきたのだからな。


ミスターT「なるほど・・・創生者もとい、“警護者”として活動してくれ、か。」
ティルネア「私が自ら動いた方が良いのは、百も承知です・・・。ですが、力の出し加減が難しく、
      過去に失敗した事もありました・・・。」
ミスターT「ハハッ、貴方は力をセーブする事が難しそうだしな。」

    バツが悪そうにするティルネアに、苦笑いを浮かべるしかない。その言葉から推測するに、
   彼女の総合戦闘力は相当なものだと痛感した。故に失敗してしまうのだろう。

    彼女が挙げた通り、自前の力量は力の出し加減が難しいと思われる。創生者の力だろうが、
   それが世界のパワーバランスを崩しかねない強大な力だと推測できた。

ティルネア「ミスターT様には、かの地での不幸なる人物を救い続けて欲しいのです。」
ミスターT「ああ、諸々は了解した。」

    俺の回答に驚きを示す彼女。他力本願的にも見えなくない願い事ではある。だが、この場に
   呼ばれたのも何かの縁であり、職業柄として断るのは無礼極まりない。

ミスターT「再び質問になるが、貴方が使える力は何だか分かるか? 身内が言うには、恒例的とも
      言えるらしいのだが、窺い知っておきたい。」
ティルネア「それに関してですが・・・。」

    決定打となる要因を尋ねてみた。彼女が持つ力を知るためだ。そして、それを俺に一時的に
   与える事も可能だとも。となれば、確実な下準備は必要である。


    創生者ティルネアが持つ力は、地球人からしてみれば超絶的なものばかりだった。それらを
   与る事ができるとあり、色々と吟味をしてみた。

    当然、彼女の代理人となるからには、与えてくれる力が何処まで可能なのかも把握する必要
   が出てくる。彼女自身が悩んでいる、力の出し加減の意味合いもあるからだ。

    これも身内のネタになるが、この様な場合の作品は、数個に及ぶ力の付与で済まされるとの
   事だ。だが、ティルネアが挙げたのは、実質的に無制限の力の与えとなるらしい。無制限の力
   など、恐ろしいにも程がある。

    まあそう聞けば、凡人が考えるなら無敵的な力を得ようとするだろう。しかし、現地で普通
   の人間として思わせる必要もある。ある程度の超常的な力は必要だが、力のセーブも必要だ。

ミスターT「はぁ・・・恐ろしいまでの能力群だな・・・。」
ティルネア「これでも一応、創生者の役割を担っていますので。それでも、私も生命体であるため、
      不死の存在だけは不可能ですが・・・。」
ミスターT「神様的な創生者でも、生命体には変わりないからな。」

    俺の言葉に、お互いしてウンウン頷いてしまう。神と言う存在は、確かに超常的ではある。
   だが、生命体には変わりない。内在する力自体が超常的なだけだ。

    それに、ティルネア自身は創生者という生命体である。端から見れば神的存在だが、実際
   には俺と同じ生命体なのだ。この部分を踏まえれば、幾分か親近感が芽生えてくる。

    言い方は何だが、まるで年上の妹を見ている感じがしてならない。



ミスターT「うーむ・・・最低で3つまでが候補となるか・・・。」
ティルネア「・・・なるほど、これらの力ですか・・・。」

    彼女が提示してくれた力の内容に、時間を掛けて吟味し続けた。こちらの内情を察知する
   術を持っているからか、思った事を直ぐに窺ってくれているようだ。

    この力などは、表示と言う形での具現化はできず、脳内にそれらの様相が現れる。実際に
   記述などができないため、何度も思い返して吟味を繰り返した。下手に選べば、大変な事に
   なりかねないと直感ができた。

    もし、各作品でも有名な“ステータス画面”があるのなら、そこから色々と吟味する事が
   可能だろう。だが、あまりにも非現実だと言わざろう得ない。

ミスターT「・・・これでいいだろう。」
ティルネア「了解しました。身体超再生能力、全状態異常無力化、全回復治癒支援魔法習得、と。」
ミスターT「俗に言う超チート性能だが、今は無難な所だろう。不死属性が無い分だけ、普通の人間
      に見られるしな。」

    改めて思うと、恐ろしいまでの追加能力である。だが、現状はこの3つがあれば、如何なる
   事態にも対応は可能だと思われる。


    “身体超再生能力”。頭と心臓が“完全”に潰されない限り、永遠に再生を繰り返す能力。
   両腕両脚の欠損は、数十秒ほど時間が掛かるが生え変わる。切り傷などは、ものの数秒で治癒
   してしまうらしい。そうなれば、継戦能力は各段に向上してくる。

    不死者に見えなくはないが、それでも不死者ではない。生命体故に、死ぬ時は死ぬのだ。
   それでも、この能力があれば、余程の事がない限りは耐えられるだろう。


    “全状態異常無力化”。毒や麻痺などといった、自身に不利となる状態異常を無力化する
   能力。先の超再生能力と合わされば、継戦能力は更に段違いになる。赴く先がファンタジー
   世界であれば、状態異常に関しては盤石でありたい。

    特に混乱などが顕著だ。警護者界でもそうだったが、凄腕の人物が混乱を引き起こした時
   ほど、驚異的な事はなかった。最強の存在ほど、敵になった時が脅威そのものだしな。


    “全回復治癒支援魔法習得”。全ての回復魔法と治癒魔法と支援魔法を得る。これも継戦
   能力を維持するには必須的な力だ。それにこれは、俺自身に用いるものではない。確かに自分
   自身にも用いれるが、あくまで重要なのは護衛対象に対して用いて守る事だ。

    ティルネアが語った、不幸に苛まれる存在を助けて回る。相手を確実に救うのであれば、
   如何なる手段を用いてでも守る必要がある。警護者での生き様も同じ様なものだ。それに、
   俺の気質からして誰かを守る方が性分に合うからな。


    ちなみに彼女が言うには、地球人の俺に魔力や魔法の概念は合わないらしい。それでも、
   魔力や魔法を使うようにするために一計を案じてくれた。そうである、創生者ティルネアの
   力をお借りする事にしたのだ。

    これは、どう考えてもとてつもない事になるのだが、この時の俺は知る由もない。むしろ
   知っていたとしても、俺自身の力ではないため気に止めなかっただろう。あくまで、俺自身の
   戦闘力に加算されるだけだ。

    俺自身がこれらの力に決して溺れず、正しく使うという事が求められる。もし、警護者の
   生き様がなかったのなら、間違いなく超絶的な力に溺れていただろうな・・・。



    与えられた力が機能するかどうか、その場で実際に試してみた。手持ちの武器で、自身を
   傷付けてみる。切り傷程度は、数秒で治癒を終えてしまった。

    部位の切り落としの実験は、怖ろしい事この上ない。しかし、この場でその力を知る事も
   重要だ。左腕の袖を捲くり、手持ちの“武器”で切り落とした。当然ながら、超絶的に痛みが
   あるのは言うまでもない・・・。

    だが、その痛みを凌駕する安堵感が現れた。切り落とされ失った左腕が、数秒足らずで再生
   を開始しだしたのだ。これには驚愕せざろう得ない。

    そんな俺を見て、自慢気に胸を張る彼女が実に腹立たしかったが・・・。


    状態異常の確認に関しては、手持ちの毒セットを用いた。物々しいものだが、警護者は全て
   の行動を考慮して動くのが定石だ。毒により相手を無力化させるのは常套手段である。

    ただ、毒を自身に投与してみたが、何も感じる事はなかった。と言うか、この毒自体を経験
   した事がないため、どの様なものかは全く以て不明である。まあ一安心と言う感じだろう。

    それに、毒を服用しても即座に中和され無効化される。試しに行った実験ではあったが、
   全く以て効果を発揮しなかった。虚しいにも程がある・・・。


    回復魔法と治癒魔法と支援魔法に関しては、ティルネアを実験台とさせて貰った。ただし、
   全ての回復と治癒と支援の確認ではなく、魔法が使えるかどうかの確認だけである。

    これらの効果は全く以て不明だが、相手の部位の欠損すらも完全回復させる万能回復魔法も
   習得しているらしい。既に身体の部位を失っている人物を、元の姿に戻す事だ。正に奇跡と
   しか言い様がない・・・。

    流石に蘇生魔法だけは存在しないが、心臓停止後から長時間を立たなければ、回復は可能
   との事だ。所謂、死亡という判断に見なされず、身体から魂が離れなければ問題ない、と言う
   感じらしい。地球でこれが実現されたら、恐ろしい事になるが・・・。

    ただ、できればそう言った場面には極力遭遇したくはない。だが、仮に遭遇した場合の対策
   は重要でもある。万般に渡って行動ができるのが、警護者たる所以だしな。


ミスターT「はぁ・・・地球人としては、この3つの力は異常過ぎるわ・・・。」
ティルネア「ま・・まあ確かに・・・。」

    粗方の検証実験を終えて、ただただ溜め息を付くしかなかった。そんな俺を見て、苦笑いを
   浮かべる彼女。それでも、自身が持つ力が役立つ事を知って、実に嬉しそうな雰囲気である。

    この3つの力があれば、完全なる支援者として行動が可能と思われる。非現実の力だが、
   今は認めざろう得ない。

    中半へと続く。

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