アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第02話 奴隷のダークエルフ1〜
    翌朝、蓄えてあった素材で朝食を作る。昨日狩猟した魔物の素材だ。魔物の肉は食べる事が
   できるのかと思ったが、下手をしたら地球での動植物よりも美味かも知れない。それだけ超越
   する旨味があった。

    ただこれは、簡易的に調理した状態ではある。それでもこの旨味なのだから、凄腕の料理人
   が手掛けた場合は恐ろしい逸品に化けるだろう。魔物の肉という存在を、改めて再認識させ
   られるしかない。

    食事時は、その美味を共に味わうべく、俺の身体に舞い降りるティルネア。創生者としての
   威厳は何処に行ったのだと思わされるが、彼女が望むのなら拒む必要はない。それに、起床
   してからの彼女は、より一層人としての自我が芽生えだしていると思われる。


ティルネア(食事というものは、実に素晴らしいものですね。)
ミスターT「はぁ・・・そうですか・・・。」

    キャンプを片付け、出発準備を整える。その際に、何時になく表情を輝かせて語る彼女。
   俺と同期しての食事を体験し、この上なく嬉しそうにしていた。初見時の彼女とは思えない
   様相である。

    ふと、何処かで記憶が囁いた。これと同じ光景を目にした事がある。だが、それが何時何処
   であったかは思い出せない。しかし、確実に経験している事である事は分かった。

    神的な創生者の役割を担う彼女の事だ。本来の生命体であれば出来たであろう、女性らしい
   行動ができずにいる。それは人間や魔物といった種族の場合である必要があるが、根本的な
   部分は何ら変わらない。

    俺との共闘で女性らしさを体感できるのなら、俺の存在も無駄ではないだろうな。



    出発準備を終えた後、再び平原を進みだした。キャンプの時は、魔力の渦によるバリアと
   シールドの恩恵により、魔物達は寄って来なかった。しかし、それが切れれば元通りだった。
   直ぐに各種の魔物と遭遇し、一戦を交える事になる。

    今後の活動資金を稼ぐ事もあり、襲来した魔物達を片っ端から撃退していく。彼らから得る
   事ができる素材群は、本当に大助かりそのものだ。


    ティルネアから伺ったのだが、ベイヌディートの通貨は硬貨を用いているとの事。材質は
   銅・銀・金・白銀らしい。ファンタジー世界観的な感じで、ある意味感動してしまう。また、
   4桁で繰り上がる計算を取り入れているらしい。

    銅貨1000枚で銀貨1枚、銀貨1000枚で金貨1枚、金貨1000枚で白銀貨1枚と。
   銅貨1枚は日本円の1円相当と推測できるので、銀貨1枚は1000円程度だろう。白銀貨
   1枚は10億円相当となる。宝くじを連想してしまう感じだ。

    一応、銅貨50枚で大銅貨1枚となり、大銅貨20枚で銀貨1枚ともなる。50を20で
   掛けた場合で1000となるため、硬貨の数を減らす場合は大硬貨を用いるのも良いらしい。

    まあ、銅貨・銀貨・金貨・白銀貨の単体はそれほど重くないので、大硬貨を用いる事は希と
   言われている。ただし、硬貨の所持数を減らす意味合いなら、用いるべきだろう。

    今は発明されていないが、紙幣が登場すれば更に楽になるだろうな。ただこの機構は、俺や
   ティルネアの管轄外となる。今は気にする必要はないだろう。


    ちなみに、白銀の材質は獲物にも使われるほど硬質なものらしい。特に魔力伝達率が凄い
   らしく、魔法使いや聖職者の触媒に用いられているとも。魔法を使う戦士や剣士ならば、獲物
   に魔力や魔法を付与する事も可能と思われる。

    この他にも硬貨には用いられていないが、黒銀という材質があるとの事。非常に扱いが困難
   とされる鉱物らしいが、それを用いた獲物は天下一品に化けると言われている。

    これ、もしこの獲物群と遭遇したら、是非とも携帯方天戟と携帯十字戟に打ち合わせたいと
   思う。警護者の手前、獲物の強度に関しては非常に敏感である。

    今は重火器の世界となっているが、近接戦闘に関しては刃物系の獲物の独壇場だ。特に俺も
   使う携帯シリーズの獲物は、今後の警護者界で旋風を巻き起こすかも知れない。使われる材質
   に関しても、異世界へ到来した事は良い経験になるだろう。

    まあ恐らくだが、ベイヌディートの技術力は地球のそれとは雲泥の差だろう。チタニウムや
   タングステンなどの鉱物から成される獲物には、間違いなく勝ち目はない。唯一の利点は、
   異世界仕様たる魔力や魔法による増強法か。

    となれば、俺が持つ携帯獲物に魔力を纏わせれば、異世界最強の鉱物たる黒銀を遥かに凌ぐ
   強度を誇るかも知れない。うーむ・・・実に楽しみだわ・・・。


ミスターT「そう言えば、お前さんは戦う事はできるのか?」
ティルネア(一時的に顕現化させれば、それなりに戦う事はできます。)

    良く遭遇するスピードハウンド達を蹴散らしつつ、俺の背中に張り付いている彼女に問う。
   創生者たる存在なのは承知済みだが、その気質からして戦闘力は相当なものだと確信できた。

    すると、精神体から実際に存在する姿に顕現化すれば、こちらと同じく戦う事ができるとの
   事である。生命体ではあるが肉体を持たない彼女としては、それなりに負担が掛かると思う。

ミスターT「食事の時のアレと同じく、筐体に同期すれば戦う事は可能なのか?」
ティルネア(同期・・・でしたか、それが合えば可能だと思います。)
ミスターT「なるほど。食事の時は旨味を共感するだけだったしな。」

    味覚の共有という部分だけなら、ただ同期するだけで済むだろう。しかし、身体を動かす
   行動となれば話は異なると思われる。特に彼女が挙げた通り、筐体との同期は非常に重要だ。

    もし筐体との同期が可能であれば、彼女は実際に行動が可能となる。ここにも変な興味に
   惹かれてしまう。こう言っては何だが、常に探究心を持つ事は大切だしな。



    倒した魔物を解体しつつ、それぞれを空間倉庫に格納していく。キャンプから出発して、
   かなりの魔物達を倒してきた。成長の度合いを測る事はできないが、今の俺自身の戦闘力が
   通用する事は理解できた。

    これ、身内が語る各作品の“ステータスウインドウ”などは、今の所全く出ない。それらが
   出現するなら、己の総合戦闘力を把握できるのだが、流石に非現実過ぎて無理な話か・・・。

    これに関して彼女に伺ってみたが、その様な超常的な力は存在しないと断言されてしまう。
   むしろ、その様な力があるなら、彼女の方も欲しいと豪語しているぐらいだ。地球での各作品
   で表現されるステータスウインドウは、特質的な力だと言わざろう得ない。

    流石の創生者たるティルネアも、ステータスウインドウの開発はできないらしい。この点は
   現実的な感じに思えてならない。まあ、これらの力があれば、今以上に動けるようにはなる。

    ともあれ、今は手持ちの各力で何とかしていくしかない。それに、創生者ティルネアより
   与った力があれば、どんな難局であろうが乗り越えられる。今はそう信じ切るしかない。


    解体作業と格納作業を終えて、再び行動を開始する。既に目的となる街が近くなっており、
   そろそろ魔物達との戦闘は行わなくて良いと思われる。

    こちらが何も構えていなければ、彼らの方から近寄ってくる。ところが、予め魔力を強めて
   おけば、不思議な事に近寄ってくる事がない。先日、ティルネアが魔力の渦を用いて、焚き木
   を守っていてくれた事がそれである。

    それに、資金に換金するための魔物の素材は、かなりの数を獲得できた。今の量があれば、
   問題ないと思われる。後はぶっつけ本番で挑むしかない。


    ちなみにティルネアが言うには、目指す街の名はラフェイドとの事。規模的には地球は地元
   の街並みクラスらしい。内部の施設までは詳しく知らないとの事なので、実際にこの目で確認
   してみるしかない。

    とにかく、今は戦力が欲しい。戦闘に関してもそうだが、情報不足が否めない。創生者たる
   ティルネアが加勢してくれているが、現地の細かい情報は持ち合わせていないと言っている。

    警護者の世界でもそうだが、戦闘力の大半は情報量に掛かっている。こちらが出揃うかで
   戦略の幅は多く異なってくるのだから。

    異世界に到来しても、動く事は地球でも何ら変わらない、か。実に皮肉な話である。



    魔物達を倒し、最後の素材獲得をしてから数時間後。“恒星”の位置が真上にある事から、
   恐らく正午であると推測できる。何故“恒星”と挙げたのは、ここが地球ではないからだ。

    仮にベイヌディートが、広大な宇宙に位置する星雲、その中の惑星の1つだったとする。
   それだとしても、太陽系ではないため中心の恒星は太陽ではない。そもそも、太陽と言う名は
   地球人が付けた名前であり、地球外の知的生命体からすれば別の呼び名かも知れない。

    となれば、真上に燦々と輝く恒星は、普通に恒星と言うべきだろう。変な屁理屈になるとは
   思うが、この世界の価値観が読めない以上、素直に輝く恒星だと言うべきである。

    話を戻すが、漸くラフェイドと言う街に辿り着いた。彼女が挙げた通り、かなり賑わった
   街である。色々な商品を扱った商店が各所に点在しており、どちらかと言うと街よりはバザー
   に近いだろう。

    ただ、治安の方はお世辞に良いとは言えず、人気が無い方からは不穏な雰囲気が出ていた。
   地球の各都市でも同じ様な闇の側面があるため、何時の世も変わらないマイナス面である。


ミスターT(最初から、“念話”を通して会話をすれば良かったわ。)
ティルネア(アハハッ、まあそう仰らずに。)

    異世界の初めての街とあり、色々と物色して見て回る。ただし、手持ちの資金は一切ない。
   本当に見て回るだけだ。そんな中、ティルネアが使っている対話法を知る。“念話”である。

    心中会話とも言えるそれは、言葉を発しなくても脳内の思いを伝える事ができた。見事な
   手法だわ。ただ、これと同じ手法を以前何処かで経験した事があるのだが・・・。

ミスターT(とりあえず、先ずは素材関連の売却だな。)
ティルネア(売却先ですが、冒険者ギルドが良いと思います。)
ミスターT(なるほど、了解した。)

    彼女が指し示す先を見つつ、小さく頷いた。そこには、地球での地区センタークラスの建物
   がある。周辺には色々な闘士が屯している事から、冒険者ギルドであると一目で分かった。

    そう言えば、身内が挙げてきたネタでは、カウンター事変と称する出来事があるという。
   新参者にちょっかいを行う阿呆の事だ。流石にそれはないとは思うが、一応警戒はしておいた
   方が良いだろう。

    ちなみに、俺の背丈は198cmある。大男と極まりない出で立ちだ。だが、身内の中には
   俺よりも背丈が高い人物もいる。端から見れば“レスラー”に見えなくもないが・・・。

    それでも、警護者の世界では身体が資本だ。継戦能力を維持できる体躯には、何度となく
   助けて貰っている。特に近接戦闘では、無類の力を発揮してくれるのが有難い限りだ。



    冒険者ギルドとなる建物に入店する。扉は木製の観音開きで、完全に封鎖するタイプの巨大
   さである。ティルネアが言うには、地方の小店舗だとウェスタン風の木製扉もあるらしい。
   俺が住む日本の今の建築技術からすれば、明治時代に近い感じだろうか。

    内部は非常に賑やかな様相だ。正面向かって左側は掲示板と思われる木盤か。その前には
   多くの冒険者が物色している。多分、ここに各依頼を貼り付けるのだろう。各作品の仕様と
   全く変わらない。

    逆に右側は酒場風になっており、依頼を終えた冒険者がテーブルで談笑していた。荒くれ者
   達もいるようで、昼間から酒を飲んでいたりする。雰囲気で分かるが、実力がある人物ほど
   ゆったりしているのを感じ取れた。

    その中の4人組、体躯が良さそうな冒険者と目が合う。ニヤリと笑みを浮かべてくるが、
   その目線に強者の雰囲気を感じ取る。挑発的というものではなく、それが挨拶代わりである
   事が読めた。その4人に対して、小さく右手を挙げて返した。

    この4人組が、後々の盟友的存在になる事を、この時の俺は知る由もない。


受付嬢「こんにちは、どの様なご用件でしょうか?」

    何人かの冒険者の対応が終わってから、受け付けへと足を運ぶ。カウンターには、緑色長髪
   の受付嬢がいる。かなりの美人さんだが、その雰囲気は冒険者に引けを取らない強さだ。

ミスターT「お初にお目に掛かる。撃退した魔物の素材を買い取って欲しいのだが。」
受付嬢「かしこまりました。向かって左側のカウンターまでお越し下さい。」

    各作品では、余程の事がない限りは、ぶっきらぼうな会話で済ます事が多い。受付嬢への
   対応も、挨拶抜きの内容を提示するものだ。それらはフィクション作品であり、リアル世界に
   生きる俺としてはできない芸当である。

    警察機構とは別になるが、規律軍団とも言われる警護者であるなら、挨拶ほど重要なものは
   ない。この異世界の住人に変に思われようが、俺は一介の警護者故の生き様を貫くまでだ。


    彼女に案内されつつ、目的の場所へと向かう。受け付けのカウンターより巨大で奥行きが
   あり、素材を置くスペースとして用いているようだ。

    指摘された場所に、異世界に到来してから今に至るまでの魔物の素材を出していく。空間
   倉庫からの取り出しに、受付嬢が目を見開いている。多分、アイテムボックスと勘違いして
   いるのだろう。

    ただ・・・撃退した魔物の素材は結構多く、カウンターに乗せられたものを見て俺も驚いて
   しまった。何気なく倒し続けていた魔物達だったが、得られた素材も相当数だったからだ。


ミスターT「お嬢、質問があるのだが良いか?」
受付嬢「あ・・はい、何でしょうか?」
ミスターT「これらの素材の売却は、ギルド会員にならないと不可能なのか?」

    全ての素材を出し終えつつ、気になっていた事を語った。冒険者ギルドに魔物の素材を売却
   する際、ギルド会員にならねばならないのかというものだ。カウンターの真上の掲示板を見る
   限り、特に目立った記述はなかった。

    この手の魔物の素材の売却は、冒険者ギルドでしか行えないだろう。先刻の街歩きをした
   限りだと、それらしい売却店はなかった。こういった魔物の素材の売却は、冒険者ギルドが
   独占していると思われる。

    まあ、どう考えても売買を行うには、一般の店舗では厳しい所があるだろう。そもそも、
   それらの素材を加工する事が難しそうだ。冒険者ギルドならば、各方面の加工屋と取り引きが
   可能だと思われるため、一括して行っていると見ていいだろう。

受付嬢「その様な事はありません。ですが、ギルド会員でない場合は、手数料を頂く事になります。
    よろしいでしょうか?」
ミスターT「なるほど、了解した。その取り引きで頼む。」

    予測した通りの返答があった。冒険者ギルドの会員ならば、手数料は掛からないらしい。
   逆に一般人だと一定額の手数料が掛かるみたいだ。地球でも存在する、会員による各特典も
   あるため、ここは致し方がないだろうな。

    逆に手数料のために、態々ギルド会員になる意味はない。異世界での俺の立ち位置は、完全
   なイレギュラー的存在だ。遂行者という警護者の役割上、“今は”この世界の流れに乗るのは
   得策ではない。


    本来ならば、冒険者ギルドの会員になり、冒険者のランクという概念の享受を受けるべきで
   あろう。ランクにより、様々な恩恵が得られるというのは、各作品でもある通りだ。

    だが、俺はどうもランク制度は取っ付き難い性質だ。完全に嫌いではないのだが、それらに
   縛られるのが苦手である。神経質と言うか何と言うか、そう言ったものがあると最後まで取得
   しようとする悪いクセがあるからだ。

    警護者になる前は、そう言ったランク制度にのめり込んだ事がある。それにより、ドエラい
   目に遭ったのも数多い。幸いだったのが、警護者にはランク制度が存在しなかった。己の実力
   がモノを言う世界だからな。

    ただ、何れ冒険者ギルドの会員を勧められれば、完全に断る理由はない。先にも挙げたが、
   “今は”ただ、普通の“流浪人”を演じれればそれでいい。


受付嬢「お待たせ致しました。全素材の金額は、合計で銀貨350枚となります。そのうち、手数料
    に35枚ほど頂く形になります。よろしいでしょうか?」
ミスターT「ああ、問題ない。できれば、銀貨3枚を銅貨3000枚に換金してくれないか?」
受付嬢「分かりました。少々お待ち下さい。」

    銀貨315枚、日本円で31万5千円相当の収入である。ギルド会員であれば、手数料で
   支払った銀貨35枚分が残ったのだろう。日本円で3万5千円相当だが、今は全く問題ない。

    むしろ、あれだけの魔物達の素材で、銀貨350枚とは驚きである。カウンターに乗せた
   素材群の数が、実に凄まじいものだったのもある。これを1つの目安としておこう。

受付嬢「お待たせ致しました。こちらが換金分の銅貨3000枚です。」
ミスターT「ありがとう。また何かあったら頼むよ。」
受付嬢「はい、ご利用お待ちしております。」

    銀貨312枚と銅貨3000枚が入った袋を受け取る。そのうち銀貨と銅貨を数枚だけ取り
   出し、空間倉庫へと袋を格納した。残りの硬貨は右胸のポケットに仕舞う。これで当面の資金
   は問題ないだろう。

    次は情報収集となるが、ここは“凄腕”の冒険者達にご享受を受けよう。既に目星は付いて
   いるため、後は向こう次第という事になるが。

    素材の売却を終えた後、冒険者ギルドのカウンターの右側、酒場カウンターに向かった。

    中半へと続く。

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