アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第3話 昇格試験への加勢1〜
    宿屋にて、リドネイの治療と解放を行った。トントン拍子と言うか、見事なまでのものだ。


    治療は、身体全体にあった傷と、不治の病とされる病気である。傷に関しては、彼女曰く
   切り傷などだったとの事。彼女の経緯はまだ伺っていないが、奴隷に至る前に受けたものだと
   言っている。筆舌し尽くし難い愚行である・・・。

    不治の病に関しては、これは彼女をしても不明だったとの事。ただ、元来から長寿命たる
   ダークエルフ族の力を阻害させていた事を踏まえれば、呪いの類だったのかも知れない。彼女
   自身は体力の低下もあると言っているが、恐らくそれだけではないだろう。

    前者は人為的なものなのは明白だが、後者は全く以て分からない。精神力が凄まじいまでに
   高いダークエルフ族に、こうした呪いの類を施せる存在がいるのかとも思う。

    ちなみに、ダークエルフ族の詳細に関しては、創生者ティルネアから伺った。また、身内の
   ネタなども大いに役立っている。ダークエルフ族の精神力が高いと知れたのは、これらの情報
   からである。

    ともあれ、これは今後の課題となるだろう。幸いにも今後は、リドネイの傍には俺や創生者
   たるティルネアがいる。リドネイに降り掛かる火の粉は、全部薙ぎ払ってやるわ。


    解放に関しては無論、奴隷の身分からの解放だ。本来ならば、それなりの手順を踏んでの
   解放との事だが、俺やティルネアが行ったのは超強引な感じだったらしい。

    奴隷の隷属化だが、物品と魔法によるものとの事。物品は簡単な標装もあるが、中には首輪
   に特殊な機構を施すものもあるという。デカい針が飛び出したり、際限なく締め付けるなどの
   類らしい。

    これだけでもエゲツナイ様相だが、魔法の方は更に酷いという。そもそも、首輪の機構は
   非常に高額になるとの事。貴族などの高貴な存在なら、そういったエゲツナイ仕様のものを
   使うらしい。用いる連中の性格が、嫌なほど窺い知れるわな・・・。

    それらの特殊な機構を持つ首輪を持てない人物のために、隷属化の魔法が存在するという。
   こちらは主人と奴隷との間で契約するようで、奴隷は主人に一切逆らえなくなるらしい。

    もし逆らった場合は、あの魔法陣から夥しい雷が奴隷を襲うという。末恐ろしい限りだわ。
   それはまだ緩い方で、凄いものでは精神面を破壊するものもあるらしい。

    ティルネアが曰く、リドネイに施された魔法陣は、雷が襲うタイプとの事だ。もしも、は
   なかったが、彼女にその雷が降り掛からなくて本当に良かったと思う・・・。

    まあ、彼女の気質からすれば、裏切り行為はまずないと確信が持てていたので問題はない。
   それに、既に取り外した首輪は、内在する能力を失っている。


    そこで、ここは一計を案じてみた。一応、任意鑑定能力にて首輪の状態を確認し、再度彼女
   に装着して貰った。できればこの行為はさせたくなかったが、外面的に彼女を奴隷に仕立てて
   見せる必要がある。一種のカモフラージュだ。

    今後、彼女が利用される可能性があるかも知れない。その可能性を文字通り覆す作戦だ。
   これの理由だが、彼女が高貴なる存在だと思ったからだ。

    それに、外面的に奴隷として見られれば、要らぬ横槍はないだろう。これに関してだが、
   ティルネアが言うには奴隷制度の力強さが挙げられた。

    何でも、他者の奴隷に横槍を入れた場合、恐ろしいまでの罰則があるという。これは各国が
   奴隷制度を合法的にさせるための処置らしく、内容は罰金や禁固刑、仕舞いには極刑に及ぶ
   らしい。奴隷商館にいた奴隷達が、それなりの扱いを受けていた理由がこれである。

    リドネイの場合は、何れ死去する事を踏まえての扱いだったらしいが・・・。彼女を救出
   する事ができたのは、本当に不幸中の幸いだったわ・・・。

    流石の罰則群でも、奴隷商には厳しい刑罰は与えられないという。国が彼らに全幅の信頼を
   置いているとも言われている。それ故に、奴隷商側も国を裏切る行為はないとの事だ。

    まあ、偶に例外があるらしく、その時は悲惨な末路に至るらしいがな・・・。


    ともあれ、仮奴隷という位置付けのリドネイならば、下手な横槍は入らないだろう。それに
   恐ろしい事に、彼女にはティルネアの分身が付与している。

    ティルネア自身、その精神体を複数に分割できるという。母体を俺に、分身体をリドネイに
   付与してくれている。これにより、俺とティルネアでしかできなかった念話に、リドネイも
   加入する事ができるようになった。

    この念話に関しては、秘密裏での会話には打って付けの能力としか言い様がない。今後の
   活動に十二分に活躍してくれるだろう。

    それに、もし現状のリドネイに横槍を入れようものなら、それは創生者に横槍を入れる事に
   なる。その後はまあ、お察し下さいと言うしかない・・・。


    それと、リドネイも既に個人スキルを取得していた。これは、俺が創生者ティルネアから
   受けたようなものではなく、異世界に根付く普通の啓示的なものになる。

    リドネイが取得したスキルは“叱咤激励”。周辺の味方に支援効果を与えるというらしい。
   ゲーム的に解釈するなら、命中率と回避率の激増である。そう、激増だ。

    実際にその効果を試してはいないが、彼女が浮かんだ効果内容では、力の入れ具合により
   20%から100%まで上がるらしい。と言うか、命中率100%に回避率100%とか、
   正気の沙汰とは思えない。

    確実に攻撃を与える事ができ、確実に攻撃を回避する事ができる。しかもこれ、効果範囲は
   個人からパーティー、そして軍団や国にまで至る規模と言う。権力者共が知ったら、喉から
   手が出るほど欲しがるに違いない。

    ちなみに、俺の金剛不壊も同じ様なものになる。個人からパーティー、そして軍団や国に
   その効果を拡げる事ができる。

    この様な絶大な力を持つスキルには、何らかの等価交換があると思ったが、ティルネアが
   言うには“完全なる無償”らしい・・・。何ともまあ・・・。

    どちらにせよ、俺とティルネアにリドネイのスキルは、異世界の権力者共が欲する力になる
   だろうな。十分注意しないといけない。



    治療と解放事変から翌日。今は冒険者ギルドの訓練場に訪れている。こちらだが、事前に
   予約さえすれば、ギルド会員でなくても使えるのがウリである。

    だが今回は、事前の予約はしていない。ところが、先日の魔物の素材を売却したのが功を
   奏した形だった。受付嬢のご厚意により、貸し出しには快く承諾してくれたのだ。

    それに、若干の下心があるのも感じられる。そう、俺やリドネイの身形を見てのものだ。
   上手くすれば、腕のある冒険者を新規に招く事ができる、そう取ったのだろう。まんまと餌に
   引っ掛かったカモになるが、今は彼女のご厚意に肖るしかない。


ミスターT「う〜む、いいねぇ〜。」

    訓練場にて、日本刀を構えるリドネイ。鞘から抜き放つ刀身が、日の光に照らされてキラリ
   と輝いている。そのまま、自分なりの立ち振る舞いをしだした。

    あれから伺った所、彼女は戦闘経験があると判明した。しかも、かなりのやり手だと言う。
   それを疑う余地は全くない。

    その理由だが、日本刀は構えの姿勢で、それを扱う人物の様相が判明される。異国の獲物
   ではあるが、彼女にとってみれば武器の1つなのだ。特に基本を忘れない彼女とすれば、基本
   に忠実になるほど獲物の真価が発揮される。彼女の体力や腕力も後押ししていると言えた。

    ただ、彼女の背丈からすれば、通常日本刀よりは太刀型日本刀の方が合うかも知れない。
   体躯の丈夫さに関しては、リドネイは十分過ぎるほど強者のレベルである。

リドネイ「おおぉ・・・この武器は素晴らしいものですね!」
ミスターT「ふふり、お前さんも分かるのか。」

    日本における武士道とは異なるが、その捌きは目を見張るものがある。これならば、彼女の
   獲物事情に関しては問題ない。

ティルネア(リドネイ様も魔法が使えるようですので、属性付与で火力増加も見込めますね。)
ミスターT(切れ味抜群の日本刀に属性付与とか、鬼そのものだわ。)
リドネイ(本当にそう思います。)

    本当である。唯でさえ切れ味が凄まじいのに、そこに属性付与となれば化け物と化すのは
   言うまでもない。しかし、騎士が持つ剣や大剣ほどの耐久力はないため、長時間の使用には
   適さないかも知れない。

    日本刀の真髄は、斬り付けである。騎士剣は叩き付けであり、完全に獲物の分野が違う。
   一応、突きこそ可能であるが、下手をしたら折れる可能性もある。


ミスターT「とりあえず、当面はこれらを使ってくれ。」
リドネイ「よろしいのですか?」
ミスターT「問題ない。俺にはこれがあるからの。」

    そう言いつつ、腰の携帯方天戟を展開する。更に、背中の携帯十字戟も展開した。異世界の
   獲物を見て、輝かしいまでに目を見開くリドネイ。

リドネイ「す・・凄いです・・・。まさか、そこまで大型の武器に変化するとは・・・。」
ミスターT「地球に居る、身内の逸品よ。」

    日本刀を鞘に収め、腰のベルトに差しつつ、俺の2つの獲物を見入ってくる。そんな彼女に
   携帯方天戟を差し出した。それを受け取ると、一瞬だけたじろいだ。

リドネイ「甘く見ていました・・・。ここまで重量があるとは・・・。」
ミスターT「ハハッ、何とも。」

    バツが悪そうに語る。リドネイの体躯をしても、携帯方天戟は重い部類に入るのだろう。
   まあその通りか。先程構えていた日本刀の重量からすれば、確実に数倍の重さになる。

    俺も携帯方天戟を初めて持った時は、その重さに驚かされた。ゲームを題材とする獲物に
   なるが、ここまで大振りの戟だったとは思いもしなかった。

    ただし、慣れてくれば問題なく扱える。身内が十八番たる、“力の出し加減の触り”次第で
   どうにでもなってしまうのだ。これは更に重量がある、携帯十字戟も全く同じである。


    体躯が優れているリドネイは、一応携帯方天戟を振るう事ができた。しかし、俺が片手で
   振るう事ができるのに対し、彼女は両手で重そうに振るっていた。

    更に携帯十字戟に関しては、まるで大盾を扱うかの如く振る舞っている。ただ、同獲物は
   クロスしている箇所から分離する事ができる。その場合は、両手に持って軽々と振り回して
   いた。見た目からすると、両手に両刃槍的な獲物を持っているように見える。

    この場合だが、携帯十字戟の本来の重さから解放され、両手にその負荷が分担されている。
   これの影響もあってか、彼女の場合は分離させて使った方が扱い易いみたいだ。

    この様相を踏まえると、彼女は身丈に近い槍か戟を使うのが無難か。何れ彼女専用の獲物を
   用意する際、今の立ち振る舞いは大いに参考になると思われる。


ミスターT「とりあえず、今は通常日本刀と太刀型日本刀の2つを使うといい。」
リドネイ「ありがとうございます。」
ミスターT「後々、お前さんに合った獲物を見繕わねばの。」

    彼女から携帯方天戟と携帯十字戟を受け取り、縮小して腰と背中に格納する。再び日本刀を
   鞘から抜き取り、構えの流れを取り出した。2つの重量獲物での振る舞いが功を奏したのか、
   先程以上に日本刀を華麗に振るっている。

    この太刀捌きを見る限り、彼女はレイピアなどにも相性が良いかも知れない。ただ、現状は
   射突タイプの立ち振る舞いではないため、どちらかと言うと直剣や大剣などが合うだろうな。

    それに痛感した事がある。彼女は無論、俺自身も盾を入手すべきだ。相手の攻撃が未知数な
   ため、それを受け止める獲物が必要になる。盾は獲物とは言えないが、殴り付ける事ができる
   ので獲物とも言えるだろう。

    一応、武器を使った受け止めも可能ではある。獲物同士の受け止めぐらいなら問題ないが、
   あまりにも隙間が有り過ぎる。特に弓矢や魔法に対しては無防備過ぎるのだ。ここは盾の恩恵
   を受けるべきである。

    日本刀を用いた立ち振る舞いを繰り返すリドネイ。その彼女を一服しながら見守った。



ミスターT「ありがとさん、助かったよ。」
リドネイ「ありがとうございました。」

    粗方の武器耐性の確認をし終わり、カウンターへと戻る。訓練場から戻ってきた俺達を、
   受付嬢がニコニコした表情で出迎えてくれた。物凄く嫌な予感がするが・・・。

受付嬢「いえいえ、構いませんよ。お役に立てて何よりでした。」

    そう言いつつ、明らかに瞳を輝かせている。魔物の素材を売却した際は、普通の流浪人と
   思われていたようだった。しかし今は、完全に冒険者を見つめるような雰囲気だ。特に傍らの
   リドネイに対して、かなりの好印象を抱いているようである。

    これに関しては、ホッと胸を撫で下ろすしかない。実の所だと、冒険者ギルドに来た際、
   ダークエルフ族の彼女に対して偏見があると踏んでいた。ところが、それは杞憂であり、無粋
   な考えそのものだった。

    そもそも冒険者には、多種多様な種族の人物達が在籍している。人格者と実力者こそが全て
   という世界であるため、そこには人種的な偏見は存在しなかった。いや、俺が偶々その場面を
   見ていないだけなのかも知れない。

    この世上、地球だろうが異世界だろうが、差別や偏見は絶対になくならない。多種多様な
   人物がいる限り、必ず愚行は発生している。それが世の常である。

    ならばせめて、俺達警護者サイドだけは、そういった愚行に走らないように律し続けねばと
   思う限りだ。これは己に対しての、永遠の戒めでもあろう。

    中半へと続く。

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