アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第3話 昇格試験への加勢3〜
ミスターT「こんちわ。」

    トレイに6人分のコーヒーと茶菓子を持ちつつ、酒場の奥のテーブルへと向かった。今も
   項垂れる4人の前に、カップと茶菓子を置いた。

ナディト「あっ・・・ミスターTさん、昨日振りです。」

    近場の椅子を持ち出し、彼らの傍に座り込む。リドネイにも椅子を勧め、俺の傍らへと座り
   込んだ。俺とは見知った顔同士だったが、彼女の存在に驚く4人。

エルフィ「そちらの女性の方は・・・。」
ミスターT「ああ、表向きは“何だが”、実際には戦友の1人よ。」
リドネイ「初めまして、リドネイと申します。」

    その場で深々と頭を下げる彼女。その美しさによる凛とした姿に、息を飲む彼らだった。
   と言うか、俺が挙げた“何だが”は、奴隷の意味である。当然だが彼女の手前、あえてそれを
   挙げなかった。今は後者の通り、戦友の間からである。

    それでも、彼女から発せられる闘気は、4人に相当な印象を与えたようである。体躯の方も
   彼らに引けを取っていない。十分戦える人物なのだと思ったようだ。


ミスターT「ところで、お前さん達には悪かったが、受付嬢から聞いたよ。大丈夫だったか?」
サイジア「ご存知だったのですか。」
ウェイス「お見苦しい姿を見せてしまったな。」

    現状を把握されて、バツが悪そうに苦笑いを浮かべる彼ら。しかし、今も落胆している姿を
   窺えば、相当ショックを受けたのだろう。

    それでも、五体満足を貫いた姿勢には、心から感服するわ。試験の遂行を最優先とせず、
   生命の方を選んだのだから。やはり彼らは、地球での身内の4人にクリソツである。

    その後、昇格試験の詳しい様相を伺った。コーヒーを啜りつつ、彼らの言葉に耳を傾ける。


    試験の内容だが、パワーベアーという名前だけはシンプルな大熊の討伐だった。討伐数は
   4体との事だったが、そこに不意の乱入者が現れた。

    相手は漆黒の巨大なオオカミで、名前はブラックハウンドというらしい。高ランクの冒険者
   が数人居ても太刀打ちできないレベルらしく、それを踏まえて撤退を決めたと言う。

    不幸中の幸いだったのが、ブラックハウンドはパワーベアーにも襲い掛かったらしい。相手
   のターゲットの変更が、撤退を迅速に進められたとの事だ。

    もしも、そのまま討伐を行っていたら、ブラックハウンドのターゲットは彼らの方に向いて
   いたのは言うまでもない。パワーベアーを囮にした事により、辛くも撤退できたのだから。


ミスターT「なるほど、ブラックハウンドか。」

    受付嬢からお借りした、メモ用紙とペンを使い、その状況を記載していく。俺の行動に驚き
   の表情を浮かべている4人。

    と言うか、それ以上にメモ用紙に驚いてしまった。今の異世界の様相だと、羊皮紙という
   羊の皮を使った紙を用いると思っていた。この出所は、地球の身内からである。

    それが、今の異世界の紙事情は、地球の藁半紙に近いものだった。これだけでも画期的な
   ものになる。羊皮紙よりは各段に高額になると言われているが、それを惜しみなく使う冒険者
   ギルドには、とにかく見事と言うしかない。

ミスターT「パワーベアーにブラックハウンド。現状はこれらが撃滅対象という感じだな。」
エルフィ「い・・いえ、そうとは限りません。仮に次回も同じパワーベアーだったとしても、不意の
     乱入者が訪れるとは決まっていませんし。」
ミスターT「俺の経験談からすれば、次の乱入も起こり得ると思うよ。」

    紅茶を啜りつつ、茶菓子を頬張る。エルフィが語った通り、次の討伐対象はパワーベアーに
   なるとは限らない。よって、ブラックハウンドに遭遇する事もないと思われる。だが、それは
   完全な油断そのものだ。

    地球での警護者の活動から推測すれば、この手の乱入者は執拗に追い掛けて来るのだ。一度
   ターゲットにされれば、倒さない限り逃げる術はない。この異世界の事情を踏まえれば、確実
   に現れるだろう。

    ならば、次の昇格試験でも、不意の乱入者が起こると踏まえるのが無難だ。予め準備をして
   おけば、要らぬ事態に右往左往をする事はなくなる。

    “常に余裕を持って行動する”。身内がプレイしていたゲームに登場する、とある人物の
   座右の銘だ。俺もプレイした事があるため、彼の事は知っている。まさかこの異世界で、彼の
   座右の銘が役に立つとは思いもしなかったが。


ナディト「・・・ミスターの口調からして、もしかすると・・・。」
ミスターT「ん? 約束通り、次の昇格試験には介入させて頂くよ。」
ナディト「やっぱり・・・。」

    懸念内容を語るナディトに、素っ気無く返した。それに呆れ気味に溜め息を付いてくる。
   他の3人も同じ様に溜め息を付いていた。

ウェイス「約束と仰られたが・・・こちらは約束した身に憶えがないのだが・・・。」
ミスターT「んー、あの時の情報料と取って貰えれば?」
サイジア「マジですか・・・。」

    ウェイスの疑問に、再び素っ気無く返す。そして再び呆れ気味に溜め息を付く彼ら。特に
   ウェイスとサイジアが一際呆れ気味だ。

    俺としては、異世界に到来してから初動に問題があった。そこに形はどうあれ、丁寧に応対
   してくれたのが彼らである。その彼らが昇格試験に挑むと伺った。しかも一度、失敗をして
   いる。

    この場合はもう、不意の来訪者に感謝すべきだろうな。こうして、切っ掛けを与えてくれた
   のだから。それに、異世界の強者とされる彼らや、各魔物の戦闘力を見定める良い機会だ。


ミスターT「次の昇格試験までは、どのぐらいの時間がある?」
エルフィ「1週間後までです。当日までに結果が得られれば、試験は合格となります。」
ナディト「既に筆記試験は終えているので、後は実技試験のみですよ。」
ミスターT「なるほど・・・。」

    2人の言葉をメモ用紙に記載していく。期日の時間内に、対象となる魔物を討伐すれば完了
   との事だ。昨日、実技試験を受けたとなれば、残り6日のうちに決着を着ければ良いらしい。

    冒険者は事前に下準備を行い、各討伐依頼を遂行していく。これは警護者の任務も同じで、
   とにかく事前準備は必要不可欠だ。それを踏まえての、1週間と言う期日なのだろうな。

ミスターT「・・・準備が出来次第、突入と言う感じになる、だな・・・。」
リドネイ「マスター、盾の準備も済ませた方が良さそうですか?」
ミスターT「だな・・・。」

    出揃った情報を見つつ、戦略を練っていく。その際、傍らのリドネイが語り掛けてきた。
   例の盾の件である。彼らが話した通り、相手はかなりの強さとなる。身を守る防具は必須だ。

    俺の方も、それなりの防御手段を考えた方がいい。5人を護衛するとなれば、大盾などが
   無難だろう。問題は、俺の腕力で持ち上げられるかどうかだが・・・。

    後半へと続く。

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