アルティメット
エキサイティングファイターズ
外伝9
〜覆面の苦労人〜
     アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝9 〜覆面の苦労人〜
    〜第1部・第05話 修行と武具作成9〜
テネット「ほ・・本当に申し訳ありませんでした・・・。」
ミスターT「気にしなさんな。」

    左手を掴み、深々と頭を下げてくる。数十分前、その左手にはテネットの二対のダガーが
   突き刺さっていた。しかし、その獲物を抜き取ると、直ぐに治癒を始めだす。ティルネアより
   与った、身体超再生能力の効果だ。

    対して、俺の方は7人に回復魔法を掛けて回った。軽傷であったにせよ、無傷では済まされ
   ていない。特に追加試合の女性陣は、半ば本気で格闘術を放っている。

    ちなみに、テスト試合を行う際、両手のグローブは取り外している。もし装着していれば、
   先程の左手の突き刺しにより破損していただろう。地球産の一品なので、破損した際は修理が
   不可能だしな。

トーラ「アレが・・・近接格闘術なのですか・・・。」
ミスターT「見様見真似のモグリ技に近いがね。」

    興奮冷めやらぬ状態の彼女。変則的な技を受けた事は、今回が初めてだったようだ。両肩を
   掴まれたと思ったら、次の瞬間には吹き飛ばされていたのだから。

    逆を言えば、彼女の腕力や体力を考えれば、そこから繰り出される格闘術は恐ろしいとしか
   言い様がない。獲物の火力に頼らない、己自身の力での攻撃だ。興奮するのは理解できる。

ナディト「ミスターの凄さは、獲物を使った時じゃないんすね!」
ミスターT「そうだな。肉弾戦の方が、相手を殺さず封じる事ができるし。」
エルフィ「見事なまでの業物ですよ。」

    こちらも、興奮気味に語る2人。近接格闘術を繰り出した事に、瞳を輝かせている4人。
   熱血的なナディトやエルフィは無論、寡黙なウェイスやサイジアすら興奮気味だ。

    そう言えば、地球の身内の4人は、大のプロレス馬鹿と言えるほどのマニアだ。その4人に
   似ている事から、そこに彼らがいる感じがしてならない。懐かしい気分である。

リドネイ「マスターの凄さを、思い知らされた感じです。」
ミスターT「お前さんほどじゃないよ。」

    他の面々に対して、非常に冷静な彼女。この場合、何処か悔しさが混じっている感じか。
   リドネイの基本戦闘力は、恐らくここにいる誰よりも高い。その彼女を一蹴したのだ、悔しさ
   が出るのは言うまでもない。

    ただ、逆を言えばそれが仇になったのだろう。傲慢さが生み出した、完全な油断である。
   そもそも、迎撃程度で繰り出した蹴りが、吹き飛びという致命的な一撃に発展した。それが
   何よりの証拠だ。

    もし、あのまま追撃を行った場合、彼女は相当なダメージを追っただろう。それに、俺も
   追撃ぐらいはできる。それをしなかったのは、傍らにテネットがいたからだ。タイマン勝負の
   流れだったら、あの後の結果は想像するまでもない。


    テスト試合を終えて、それぞれが色々な思いを巡らせている。これはこれで、良質な一時
   だったと言えるだろう。今後、彼らがこの結果をどの様に活かしていくか、である。

    まあ、彼らの気質からすれば、これで終わる事はない。絶え間ない努力の先に、更なる高み
   へと進む事ができるのだからな。その一役を担えた事に、盟友として感謝するしかない。



    その後、冒険者ギルドの訓練場は大盛り上がりとなった。6人の修行は無論、他の冒険者達
   も触発されたようで、一種の修行の場へと至っている。

    特に目立ったのがテネット、何と冒険者稼業に復帰したのだ。この場合は、職員を主軸に
   していたのを、冒険者に切り替えたと言うべきか。今でも受付嬢も担っている。

    人は、些細な切っ掛けで化けると言うが、彼女を見れば痛感させられた。まあでも、これは
   これで良いのだろうな。


ミスターT(大盛り上がりだわ。)
ティルネア(若いって、本当に良い事ですよね。)

    俺は、冒険者ギルドの屋内と屋外を掃除して回っている。ティルネアと念話を通して、雑談
   をしながらの作業だ。俺の方は、こうした雑用をしている時が非常に落ち着くわ。

    ただし、彼女からの念話が全てを物語る。次なるマイナス面の力を持つ存在が、現れたと
   いう証拠だ。先の男爵家の一件もあるため、次の行動を考えるべきだろう。

ミスターT(そのマイナスの力の感知能力は、お前さん独自のものなのか?)
ティルネア(そうなりますね。ただ、念話を通してなら・・・。)

    そう言いつつ、俺に念話経由で波動を伝えてくる。感じられた一念から、遠方よりマイナス
   面の力が放たれているのを感じ取れた。その波動には、怒りや悲しみが込められている。

ミスターT(なるほど・・・これがそうなのか。)
ティルネア(感度を上げれば、更に感知する事が可能です。)
ミスターT(となると、常にそれを感じている訳か・・・。)

    創生者の使命ではあるが、これはこれで非常に辛いとしか言い様がない。常にこの辛さを
   感じているとなれば、正気を保つ事ができなさそうだ。

    それでも、この道は彼女にしか担えないのだろう。俺としては、その負担を少しでも軽く
   できればと思う限りである。遂行者としての使命は、まだまだ始まったばかりだしな。


ティルネア(あの・・・何故、そこまでして気遣いを・・・。)
ミスターT(お節介焼きの世話焼きだしな、気にするな。)

    こちらの内情を察したのか、悲壮感を抱きながら語ってくる。俺の抱く一念なんぞ、彼女が
   感じ取っている複数の一念に比べれば、雲泥の差と言えるレベルだ。それだけ、凄まじい思い
   だという事である。

    それ故に、彼女を思っての一念だったのだが、そこに悲壮感を抱かれるのは参るしかない。
   まあでも、語った通り、俺からのお節介焼きの世話焼きである。間違った事ではない。

ミスターT(察してはいると思うが、俺の一念なんぞ微々たるものよ。)
ティルネア(地球での、不二の盟友と言われる、7人の方々ですか・・・。)
ミスターT(ああ、半端じゃない一念の持ち主達だしな。)

    掃除を中断し、一服をする。ティルネアが感じた俺の一念を、軽々と超えるのが身内達だ。
   お節介焼きの世話焼きを超える、ドギツイ感じのものだ。それを平然と行うのだから、心中の
   一念は相当な強さだろう。

    特にその中の1人が、逸脱したお節介焼きと世話焼きを発揮している。存在そのもので、
   周りを鼓舞激励をし続けているのだから。時には叱咤激励にも発展している。

    効果云々はさておき、リドネイの固有スキルたる叱咤激励の比ではない。尋常じゃない力
   としか言い様がないのだ。

ミスターT(俺は今も、彼らの一念を汲んで動いている。彼らの顔に泥を塗る真似は、絶対にしない
      ように心懸けているしな。)
ティルネア(そうですね・・・。)
ミスターT(今後も感謝を抱いてくれるなら、彼らに向けておいて欲しい。)

    周りへ感謝を抱いて欲しい。ただただ、そう願うばかりである。周りあっての俺である。
   今の俺があるのは、身内達の存在なのだと断言したい。

    人は1人では絶対に生きられない。持ちつ持たれつ投げ飛ばす、この気概にて進むしかない
   のだから。この一念を忘れてしまえば、忘恩の輩となって堕落するのは言うまでもない。

    逆に、周りへの感謝を忘れなければ、共々に勝ち進む事ができる。今もこうして、創生者
   ティルネアと共闘できるのは、その賜物であるとも断言したい。


ティルネア(・・・何時か必ず、貴方様に報います・・・。)
ミスターT(ハハッ、まあそう気重になりなさんな。)

    一服を終えて、再び掃除を再開する。ティルネアの一念は、本当に利他の一念そのものだ。
   自身の事より、周りの事を最優先としている。創生者ならではの生き様だ。

    そんな彼女だからこそ、こうして背中を支えたいと思うのだろうな。いや、それこそ先の
   持ちつ持たれつ投げ飛ばす、これだろう。そして、お節介焼きと世話焼きに至るのだと思う。

    異世界転移という、理路整然と解釈できない事柄に巻き込まれもした。だが、今は幸せだと
   断言したい。こうして、彼女や彼らと出逢う事ができたのだから。

    まだまだ膝は折れんわな。今後も奮起していかねば・・・。

    視点会話へと続く。

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