アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第11話 原点回帰1〜
    交流教室が終わり、各学園は学芸会・文化祭へと進んでいく。文化祭の開催日は11月だ。
   既に10月下旬へと進んでおり、表はすっかり冬に近い状態になっている。

    冬は油断すると風邪を引きやすいが、対処さえすれば過ごし易い気節でもある。まあ夏場に
   できた簡単な昼寝ができないのは辛いものだが・・・。

    俺の出で立ちも冬をベースとしている。これはこの上なくありがたい・・・。


    告白を終えたエシェツは凄まじいまでの成長を遂げる。本番での内気な部分が失せており、
   それでいてお淑やかさも出始めた。

    たった1回の告白が彼女をここまで成長させたのだ。その心中に抱いていた変革の心は、
   間違いなく凄まじく強かったのだろうな。


    本店レミセンはシンシア・デュリア・メルデュラが担当。俺はここに居座るオーナーという
   位置付けだ。ウェイターとして動く時はあるが、殆どメルデュラが担ってくれている。

    居場所がなくなったのは悲しいものだ・・・。まあ臨時の役割などは担えるため、完全に
   お役ご免という訳ではないが。



オヤジ「お待ちどう〜。」
    今はエリシェに食事に誘われ、公園前によく来る屋台でラーメンを食べている。俺もよく
   利用している場所だ。偶には別の食事もいいだろうという事らしい。お嬢様の彼女には全く
   似合わない組み合わせだ。

    このオヤジことマスターの名前はトム=モーヴルマイン。移動屋台を知る人物の中で、知ら
   ないのはモグリだと云わしめるほどの猛者である。
ミスターT「へぇ〜・・・バイオリン得意なのか。」
エリシェ「フェンシングや剣道を習いだす前からです。」
   やはりお嬢様だ。幼少の頃からバイオリンを習い、今ではプロも認めるほどの実力という。
   ラフィナの歌唱力も日に日に増している。以前歌ってくれた時よりも上手くなっているのは
   言うまでもない。

エリシェ「今回の文化祭でラフィナ様と一緒にペアの演奏を行います。」
ミスターT「凄いな。」
    2人で簡単な気持ちで考案したイベントが、ナツミYUの目に止まり実行される事になった
   ようだ。確かにこういった企画は大きな力になるだろう。
エリシェ「・・・見に来て下さいますよね?」
   真顔で詰め寄ってくる。これは行かないと竹箆返しが怖すぎる・・・。ここ最近の彼女の一念
   は尋常じゃないぐらい強くなっているからな・・・。
ミスターT「た・・楽しみにしてるよ・・・。」
   俺の応えに笑顔で頷くエリシェ。彼女にいいように弄ばれているようにしか思えない。特に
   彼女の内に溜め込む思いは計り知れなく、いざ爆発すれば大変な事になるのだから。

トムM「兄ちゃんも大変だねぇ〜。」
ミスターT「からかわないで下さいよ。」
エリシェ「フフッ。」
    一部始終を窺っていたトムMに茶化される。それに小さく笑っているエリシェ。周りから
   色々なアプローチを受けるのは、俺の持って生まれた定めだろうな。

    しかし今その瞬間を大切にという意味合いは事実だ。人生はこういった出来事の繰り返し
   なのだから。今を大切にしないとな・・・。



    翌日。今度はラフィナにカラオケに行こうと誘われる。自分の歌唱力を披露したいという
   もののようだ。最初に会った時よりも素晴らしいほどに上達している。

ラフィナ「・・・どうでしたか?」
    歌い終えて感想を聞いてくる。何も文句はない、上手すぎである・・・。初めて聞く人が
   いれば、プロと間違うだろうな。
ミスターT「歌姫の称号を与えたいぐらいだよ。」
ラフィナ「ありがとうございます。」
   どの様な歌を歌わせても様になる。女性曲や男性曲でも何でもござれ。何時の間にハスキー
   ボイスを会得したのだろう。不思議で仕方がない。

ミスターT「打ち合わせの方は大丈夫なのか?」
ラフィナ「毎日エリシェさんの家で練習していますよ。」
ミスターT「ふむ、抜け目がないな。」
    エリシェの自宅なら、完全に締め切れば防音は完璧である。それに最上階とあって、風など
   に掻き消されてもいるようだ。練習場所なら打って付けであろう。
ラフィナ「しっかり見に来て下さいね。来なかったらカラオケ連続100曲行きますから。」
ミスターT「ハハッ・・・。」
   凄みのある表情で押し迫る。最近のラフィナはエリシェに対抗して、より一層過激さを増して
   いる気がしてならない。嬉しいには嬉しいが・・・、何とも・・・。



ミスターT「そうか、国内を転々とか・・・。」
    カラオケを付き合ってから翌日。今度はアマギHとユリコYに夜食を誘われた。躯屡聖堕の
   活躍により、より一層忙しさを増したアマギH。今度は国内を移動しての行動という、更に
   ハードな展開となっているようだ。メンバーの激励と加勢に動き出すという事だ。
ユリコY「大丈夫ですよ。アマギHをしっかり支えますから。」
ミスターT「そうだな。」
   明日には地元を出発するという。この夜食には色々な意味が込められているのだろう。それに
   付き合えた事を誇りに思う。

アマギH「何かあったら地元のメンバーに声を掛けてくれ。最大限力になるよ。」
ミスターT「大丈夫さ。今では一騎当千の美女が4人もいるんだから。」
アマギH「ハハッ、違いない。」
    アマギHもユリコYも格闘術を得ている。柔道のみではあるが、連携は躯屡聖堕のウリだ。
   それにエシェラ・ラフィナ・エリシェ・シンシアの実力を直ぐに察知している。この四天王に
   掛かれば、泣く子も黙ると絶賛していた。

    アマギHとユリコYの背中を押せた事を光栄に思う。今後は2人の努力次第だ。負けずに
   頑張って欲しいものだ。いや、これは愚問だろうな。



    そうそう、トーマスCの紹介でリュウジNというトラック野郎と会う機会があった。彼は
   今時珍しい運び屋を営んでおり、多岐多様の依頼を請け負っているという。

    日本では動かすのが困難とされる、アメリカントレーラーヘッド。それを警察の許可を得て
   乗り回しているのだ。


    相方でもありライバルのアフィというパートナーも、同じくトラック野郎だ。彼女の補佐に
   シュピナーの妹であるデュレナが就いている。二人三脚で動く姿は、別名ジャイアントとも
   言われているようだ。


    2人を纏めるのはマツミという女性。何でも出会った切っ掛けが、恋人に会うために運び屋
   を利用したという。ラフィナの時のようにシドロモドロになり、結局相手を振ったのだとか。
   それ以来はリュウジNのパートナーとして、傍らで行動しているのだという。

    今では3人で運送会社兼運び屋をやっている。そこにデュレナが加わり、晴れて起業したと
   いう事だ。



    本店レミセンでの顔合わせ。発端の中心者はリュウジNだったが、今はマツミが社長として
   動いている。リュウジNやアフィ曰く、纏め役は苦手だという事だ。
   トーマスCが洩らした情報に嗅ぎ付けたようで、言わばこれは面接と言っていいだろう。

マツミ「貴重な人材を見つけましたよ。」
    俺の免許証を見つめて呟いている。魅力的なのが、大型自動車と牽引の免許だろう。彼らの
   運営方式から、トレーラーを使った依頼が数多いからだ。
マツミ「ミスターTさん、私達と働いてみませんか?」
   ニコニコしながら語る。それだけ人材不足という事なのだろう。しかし喫茶店のオーナーと
   いう役割もあり、迂闊に返事はできない。

    俺を取られやしないかと、シンシア・デュリア・メルデュラがハラハラしている。かく言う
   俺も非常に落ち着かない状態だが・・・。


ミスターT「この職業は国内だけのもので?」
マツミ「いいえ。規模は小さいですが、アメリカとカナダとも連携を取っています。必要に応じて
    遠征もしたりしますので。」
    海外か・・・。風来坊の経験上、日本中を回る事なら問題ない。しかし流石に海外は気が
   向かない・・・。
ミスターT「・・・トラック野郎には憧れますが、この場を取り仕切る役割もあります。そんな彼ら
      を裏切る事はできません。・・・申し訳ないですが、正式にお断りします・・・。」
マツミ「そうですか・・・、残念です・・・。」
   率直な答えを述べた。俺自身を信頼して申し出てくれる事には感謝している。しかしこの場を
   裏切る事はできない。

    だが彼女の落ち込み度を見ると心が痛い。それだけ期待して来たのだろう。こういった人物
   の期待に沿えられないのは、間違いなく俺の一生の恥だ。


マツミ「貴重なお時間を割らせて頂いて申し訳ありませんでした。」
ミスターT「こちらこそ、お力になれず申し訳ない・・・。」
    辛いな・・・。俺の原点回帰から離れている気がしてならない。だからといって、この場を
   放り出す事もできない。俺の戦場はここなのだ。



シンシア「・・・本当によかったのですか?」
ミスターT「君達を裏切る事はできない。」
    カウンターに座り、物思いに耽る。期待をしてくれたのを蹴ったのだ、非常に心が痛い。
   シンシアがコーヒーを差し出してくれる。それを徐に啜った。
シンシア「私達の事よりも、師匠がどうなさるかです。お引き受けすればよかったと思いますよ。」
ミスターT「君達には関係ないだろうがっ!」
   無意識に怒鳴りだす。それにビクついたシンシア達。滅多に怒鳴らないから、俺の別の一面を
   見て驚いている。
ミスターT「・・・すまない、言い過ぎた。少し頭を冷やしてくる・・・。」
   俺は徐に本店レミセンを出た。今は落ち着くべきだろう。感情的になる事など、滅多にないの
   だが・・・。それだけこの依頼が大きなものだという事か・・・。



    俺は逃げたに過ぎないのだろうな。大きな変革のチャンスを避け、今のままを維持しようと
   しているのだろう。

    俺自身の生き様は・・・、執念と信念は一体何なんだ・・・。今の今までは何を目標として
   生きてきたのだ・・・。

    道路を踏む一歩が物凄く重たい。心が重い。俺の・・・夢とは・・何なのだろう・・・。



エシェラ「あれ、どうしたのですか?」
    公園のベンチに座り煙草を吸う。物凄く不味い、これほど不味いと思った事はない・・・。
   帰りの最中だったのだろう、エシェラが俺を見つけてきた。普段のままの彼女で、俺の隣へと
   座り込む。
エシェラ「文化祭の準備、大賑わいですよ。今回は芸能界からも特別参加してくれる方がいるそう
     です。サプライズゲストというものでしょう。」
   今の現状を語る彼女だが、今の俺には雑音にしか聞こえない。正直独りになりたいが、彼女に
   心配は掛けたくない。

エシェラ「何か・・あったのですね・・・。ここまで上の空の貴方を見た事がありません・・・。」
    鋭く俺の心境を見抜いてくる。流石は女のカンだろう。それには恐れ入るが、今の俺には
   正直どうでもよくなりだしてる。いや、いけない・・・。しっかり聞いてあげないと・・・。



    嫌な沈黙が流れる。彼女の事を構ってあげたいが、今はとてもそんな気にはなれなかった。
   これこそ俺の生き様に相反するものだろう・・・。

エシェラ「・・・あ、そうそう。部屋を整理していたら、こんな写真が出てきたのですが・・・。」
    更に沈黙が続くと、徐に語りだし写真を手渡してくる。それを受け取り目を遣った。丁度
   この公園の中央噴水の部分。そこで幼い子供を抱きかかえる少年が写っている。
ミスターT「これは・・まさか・・・。」
エシェラ「多分、ミスターTさんの若い頃じゃないですかね。」
ミスターT「だが君とは4月に会ったのが初めてじゃないか・・・。」
エシェラ「私もそう思いました。でも・・・何度か抱きしめられた時の温もり、振り返ると懐かしい
     気分になるのです。」
   写真の裏を見ると、丁度今から18年前だ。俺が10の時だが、その時は孤児院にいたはず。
   この地域に訪れたのは16の時だ。それ以前に来た事はない。

ミスターT「もしかして、この抱いている赤ちゃんは・・・。」
エシェラ「多分私です。」
ミスターT「むう・・・。」
    全く見覚えがない。既に18年前にエシェラと会っていたのか。でも、写真に写る少年は
   間違いなく俺自身だ。
エシェラ「でも嬉しいです。18年前にも一緒だったなんて。ここに来たのは偶然じゃなかったと
     いう事ですから。」
   何時になく穏やかに語るエシェラ。俺は今だに信じられないが、彼女は必然だと信じている
   ようだ。

    確証させる証拠が掴めない以上、この写真を立証させるものがない。証拠か・・・。


ミスターT「・・・まだ16時か、間に合うな・・・。」
エシェラ「どうしたの?」
ミスターT「少し付き合ってくれ、確かめたい事がある。」
    俺はエシェラを連れて道路まで向かう。そこでタクシーを捉まえ、ある場所に向かう。彼女
   は何事なのかと不安げにしているが、彼女にも関係する事だろうからご足労願った。

    後半へと続く。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

戻る