アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第1話 風来坊1〜
    トラックの荷台で揺られる、そうして長い事旅を続けてきた。当てもなく旅を続ける。
   その先に何かがある事を信じて進んできた。


    俺の名はミスターT、セカンドネームはザ・レミニッセンス。周りからは俺の行動に原点を
   感じるという事からこの名前にした。

    それに鼻から額を覆う覆面、これが俺のトレードマーク。特に変に思われる事もない。それ
   以上な顔立ちの人物も数多い。それに比べたらまだまだ許せるものだろう。つまり罷り通って
   しまうという事だ。


    旅を始めたのは20歳の時、それから7年間日本中を飛び回った。資金が尽きれば旅先で
   稼ぎながら動く。

    本来は世界へと目を向けるべきだろうが、そこまで肝っ玉が据わっている訳ではない。俺が
   動ける範囲は国内だけだ。

    それに現状がどうあれ、俺はこの島国こそが故郷だからな。



ミスターT「ありがとう、助かったよ。これは生活の足しにしてくれ。」
運転手「こんなに貰っちまっていいのか?」
    手渡した金額は3万円丁度。これで今現在の資金源は2万円となった。稼ぎ場を探さねば
   マズいな。
ミスターT「トラック野郎には敬意を表したい。俺の生き様の原点にもなってるから。」
運転手「そうか、分かった。ありがたく受け取るよ。」
ミスターT「道中気を付けて。呉々も無理無茶しないように。」
運転手「分かってらぁ、あんたも気を付けなよ。」
   そう語るとトラックを走らせる運転手。本当にトラック野郎はいい。気前の良さと男臭さ、
   まあトラック野郎こそのものだろうが。

    俺はトラックを見送った後、スポーツバックを肩に背負い歩き出す。目的など特に持たず
   自由に歩き続ける。それがこの7年間のスタイルだ。



    とはいうものの参った。7年振りに東京へ戻ったはいいが、帰る場所は既にない。

    旅立つ前に住居だったアパートは撤去、家財道具なども一切売り払っている。手持ちである
   ものは大型自動二輪免許と大型自動車免許・牽引免許、そして古物商許可証ぐらいなもの。


    この旅をしながら取得した免許だが、資金調達ぐらいでしか活躍する機会がない。身分証明
   にはなるが、国内では働く時だけしか使わない。殆ど時下談判で交渉して勝ち取っている。
   その時は決まって人の良さを挙げられるが、俺は本当に人が良いのだろうか。謎だ・・・。

    とりあえず先ずは腹ごしらえか。今日は菓子パンで済ませたから、流石に腹が減っている。



マスター「いらっしゃい。」
ミスターT「こんちわ、焼肉定食を。」
    こじんまりとした喫茶店に入る。以前何度も通ったレストランに似ているが、ここはここで
   レトロ調の雰囲気がいい味を出している。

    カウンターに座って煙草を吸いながら待つ。と女子学生3人が入店してくる。丁度室内の
   中央の席に座った。年代的に2年か3年か。
女子学生1「でさぁ〜、中止になったのよ〜。」
女子学生2「そんなぐらいで中止になるのかね〜。」
   雰囲気で分かる。今時の突発的なコギャルに近いが、根は真面目な性格と。特にその中で1人
   目立った女の子が、凄まじいまでに大人しい。2人に付き合っているといった感じか。


マスター「今日は忙しいねぇ〜。まあ金曜だから仕方がないか。」
ミスターT「何時も金曜はこんなもんで?」
マスター「普段も忙しいさ。ここは女子高と大学が近いとあって、学生が大勢来るからね。」
    なるほど、だから客に学生が目立つのか。普通ならサラリーマンなどが多いはずだ。それに
   喫茶店に学生が入れる自体が珍しい。大体は学校側からダメだと言われるのだが。
ミスターT「注文聞いてこようか?」
マスター「おっ、わりぃ。手が離せないんだ、頼むよ。」
   厨房で1人料理と格闘するマスター。これではお冷とおしぼりを持っていく余裕もない。
   以前レストランで働いていた事もあったから、進んでウェイター役を買って出た。俺も何だ、
   お人よしと言えばそれまでだが。何とも・・・。



ミスターT「いらっしゃい、注文は何にするかい?」
    トレイにお冷とおしぼりを3つ乗せ、女子学生3人の所へ向かう。相変わらずきゃいきゃい
   騒ぐ彼女達。しかし周りを気にしているようで、それなりの控えはしているようだ。
女子学生2「あ〜、私グラタン〜。ターリュは?」
ターリュ「ミュックと同じでいいよ〜。エシェラさんはどうする〜?」
エシェラ「私はサンドイッチで。」
ミスターT「OK、もうちょっと待ってね。」
   この2人はターリュとミュックというのか。双子でしかも金髪ときた。どうやら染めている
   訳ではなく、素の髪の色のようだ。そして大人しい子がエシェラ。青色の髪の毛とまた、何と
   言うか珍しすぎる・・・。

    まあ何はともあれ、女性はいいものだねぇ。ニヤケこそはしないが、見ていて心が安らぐ。
   癒しの存在だというのは間違いない。


    注文を聞いてマスターに伝える。それを手際良く作り出した。他の料理は俺が3人に聞きに
   言っている間に届けたようで、既になくなっている。
マスター「ところで君、どこかの学生さんかい?」
ミスターT「もう27だよ。高卒の後に働き出した。」
マスター「ほ〜、今もどっかで働いてるのか?」
ミスターT「いや、20の時に旅に出てさ。今さっき東京に戻ってきた。」
   俺はマスターに風来坊の事を告げた。7年間旅先で経験した事などを簡単に語る。それに興味
   津々と聞いている彼。
マスター「へぇ〜、旅か〜。7年もあると色々と見てきただろう?」
ミスターT「国内だけさ。流石に海外までいく気はないよ。転々としながら働いて、そしてまた動く
      の連続で。」
マスター「すげぇな・・・。」
   顔で驚きながらも手を休めない。流石マスター、これで1人でやってのける技量もまた凄い。
   こういった喫茶店のマスターには非常に憧れる。

マスター「また旅に出ちまうのかい?」
ミスターT「いや、旅は当分いいよ。見つけられるものを見つけてきたから。」
マスター「極めの胸中か、なかなかなれるもんじゃないけどなぁ〜。」
    意味深に語るマスター。それだけ修羅場を潜っている証拠だろう。流石は年の功だ。この
   仕草には素直に感銘する。
ミスターT「故郷には敵わないよ。それが見つかっただけでも凄いと思うけどね。」
マスター「まあ確かになぁ。」
   ようやく完成した焼肉定食が出てくる。カウンター越しなので、直ぐに手渡してくれた。
   そして次の料理へと取り掛かっていく。



マスター「なぁ君、ここで働いてみないか?」
    焼肉定食を平らげて一服をした。久し振りに落ち着いた食事を食べてられたのは嬉しい限り
   である。そんな中、マスターが声を掛けてくる。どうやら俺をスカウトしたいらしい。
ミスターT「それは願ったり叶ったりだけど。」
マスター「さっきの子達とのやり取り、あれはウェイターをやった事がなければできないさ。」
   あの一瞬のやり取りを見て、俺の過去の経験を察知するとは。流石としか言いようがない。
   このマスターはかなりのやり手だ・・・。
ミスターT「ならお願いするよ。俺はミスターT=ザ・レミニッセンス、よろしく。」
マスター「凄い名前だな。」
ミスターT「マスターは?」
マスター「俺はトーマス=カードウェリオ。こう見えてもシークレットサービスやってたんだぜ。」
ミスターT「凄いな・・・。」
   何で元シークレットサービスが喫茶店のマスターなのか、う〜む・・・疑問だ。まあ雰囲気
   からトーマスCはかなりの強者だというのは分かる。

ミスターT「何時頃から働けばいい?」
トーマスC「何時でもいいよ。風来坊という性格は、一度浸かると抜けられないものだ。1つの場所
      に縛られると、ストレスでぶっ倒れるからさ。」
ミスターT「何か凄いな・・・。」
トーマスC「俺の友人の何人かが風来坊でね。臨時で雇ったりしたんだけど、見事にぶっ倒れてさ。
      それで縛るのは懲りたよ。」
    なるほど。友人に風来坊がいるから、俺の性格も分かってくれるのか。というか別に1つに
   縛られるのは気にはしないが、落ち着かなくなるのは確かにある。これも自由奔放に生きて
   来たツケなのだろう。
トーマスC「よし、グラタン2つとサンドイッチできたから頼むわ。」
ミスターT「了解。」
   完成した料理をトレイに乗せて3人の元へと運んだ。しかし・・・覆面を被ったウェイター、
   何だか異様だ。
   


    相変わらず会話しているが、完全に浮いているエシェラが可哀想でもある。でも表情は暗く
   はなく、この2人の勢いに付いて行くのがやっとという具合だろう。
ミスターT「お待たせ。ターリュ君とミュック君がグラタンで、エシェラ君がサンドイッチだね。」
ターリュ「すご〜い、何時私の名前覚えたの〜?」
ミスターT「さっき話してたでしょうに。はい、どうぞ。」
   それぞれの食事を手渡していく。満面の笑みを浮かべて料理を見る様は、まだまだ子供だと
   思ってしまう。こんな事を言ったら張り倒されるだろうな・・・。
ミュック「ありがと〜。」
エシェラ「ありがとうございます。」
ミスターT「ゆっくり食べなよ。」
ターリュ&ミュック「あ〜いっ!」
   とにかくどこまでも元気な2人だ、逆に勇気を貰っちまう。お転婆娘タイプ間違いなしだ。
   エシェラも笑顔で頭を下げている。彼女はお嬢様タイプだろうな。



    カウンターの端にあるテレビを見ながら一服する。ここ最近テレビは見ていないので、どの
   番組も様変わりしている。

    その最中思った。雇われるなら、しっかりとした応対はしないといけない。一応マスターに
   聞いた方がいいか。

ミスターT「履歴書を書いて面接も受けた方がいいかね?」
トーマスC「なに堅苦しい事言ってるんだ、そんなのないない。気に入ったら誰でも採用するさ。
      それがここの流儀だよ。」
ミスターT「・・・了解、よろしくお願いします。」
トーマスC「気兼ねなく動いてくれよ〜。」
    本当に頭が下がる。7年振りに東京に帰ってきて草々、嬉しい限りだ。それだけ俺の事を
   理解してくれたという事だろう。まあ悪い事も多々あったが、色々な人に恵まれてきたのも
   事実。誠意ある対応は万事に通ずる、正しくその通りだろう。


ターリュ「あ〜、時間だ〜。」
ミュック「悪い〜エシェラさん〜、あとおねが〜い。」
エシェラ「分かりました、気を付けてね。」
    持って行って数分もしないうちにターリュとミュックが慌ただしく出て行く。本当にこの手
   の女の子は強すぎる。まあその2人に順応しているエシェラも凄いが。
   対する彼女は落ち着いてサンドイッチを頬張っている。落ち着いた仕草は、正しくお嬢様その
   ものだろう。俺と目が合うと、そそくさげに視線を逃がす。可愛いものだ。



    暫くマスターと雑談していると、凄まじい爆音が表に響く。これはアレだ、暴走族だろう。
   しかもその度合いも凄い、昼間だというのに大音響で走っている。
トーマスC「また躯屡聖堕か。」
ミスターT「へぇ、そんな暴走族がいるんだ。」
トーマスC「3年前からかな、突如現れた暴走族さ。とはいっても乱暴するわけではないし、交通
      規則はしっかりと守ってはいる。爆音はどうしようもないが、普通の族とは全く異なる
      異端児さ。」
   珍しい暴走族もいるもんだ。普通なら所構わず暴れ回り、迷惑の限りを尽くしているんだが。
   どうやらこの躯屡聖堕は一味違うようだ。
トーマスC「面白い逸話があるよ。その暴走族のヘッド、東山天城ってんだが。仲間に滅茶苦茶信頼
      されているって話だ。普通なら内部抗争などあるんだろうが、この東京や関東を完全に
      掌握し切っている。いや、多分今だと日本中かも知れない。」
ミスターT「・・・族にしておくのが惜しいな。」
   これだけ人望が厚い人物、道が変われば凄まじい事になる。そのカリスマ性は人を導き、限り
   ない信頼で周りを引っ張る。これほど優れたリーダーはいないだろうな。

    これはアレだ。躯屡聖堕が解散したら凄まじい組織の出来上がり間違いなしだろう。悪道に
   走っているのが本当に惜しい。

    後半へと続く。

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