アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第1話 風来坊2〜
エシェラ「ご馳走様でした。」
トーマスC「ありがとね、3人分で1200円だよ。」
    どうやらエシェラも食べ終わったようだ。先に出て行ったターリュとミュックの分の料金も
   持つんだから、食費代も大変だろうに。まあ割り勘なら問題ないか。食器を下げてくるかな。

エシェラ「あ・・あれ・・・・財布がない・・・。」
トーマスC「落としたのか?」
エシェラ「え・・・ど・・どうしよう・・・。」
    食べ終わった食器をトレイに乗せて戻ってくると、エシェラが会計場所で慌ててる。話の
   内容から財布が見当たらないようだ。
トーマスC「ここに来る前はあったのかい?」
エシェラ「学校にいた時はあったのですが・・・。」
トーマスC「となると校舎に置いてきたかねぇ。」
エシェラ「す・・・すみません・・・。」
   物凄い焦っている。無理もないか。頼る人物は既に出て行っていない。でも彼女の事、その場
   で払い切らないと納得がいかない様子。

    ・・・俺もお節介焼きだな。


ミスターT「マスター、俺が彼女達の代金を出すよ。」
トーマスC「おいおい、いいのか?」
ミスターT「お節介焼きの世話好きだ、俺に免じて勘弁してあげてくれ。」
    そう言うとコートのポケットから1200円を取り出す。それをトーマスCに手渡した。
   エシェラは更に慌てて焦っている。
エシェラ「あ・・わ・・・悪いですよ・・・。」
ミスターT「困った時はお互い様だよ。」
エシェラ「あ・・ありがとうございます・・・。」
   泣きそうな顔で頭を下げる。エシェラの事だ、どうやって対処するか悩んでいたのだろう。
   だが直ぐに落ち着く所を見ると、彼女の心は据わっていると言ってよい。

トーマスC「やっぱり只者じゃないな君は。機転の良さといい、流石風来坊って奴か。」
ミスターT「経験といって下さいよ。」
トーマスC「まあどっちにしろ、君が立て替えなくてもツケにしようと思ってたんだがね。」
    ニカッと笑う。どこまでも心が広いのか、このマスターにも敵わない。過去にシークレット
   サービスを担っていたというのが嘘のようだ。
エシェラ「あ・・あの・・・、お金どうしましょう・・・。」
ミスターT「今手元に財布がないとなると、教室に置いてきたのかね。」
トーマスC「取りに行ったらどうだい。7年振りの東京の町並みを見てみるのもいいものだ。」
ミスターT「了解。ついでに彼女を家まで送りますよ。」
トーマスC「おっ、エスコートか。頼もしいねぇ〜。」
   エスコートか。以前稼ぎ先のウェイターで、ドレス姿の女性をエスコートした事もあった。
   俺は背が高い分、充分なエスコート役になれるとお墨付きだったしな。それがこのような時に
   役立つとは、何とも言い難いものだ。



    荷物をマスターに預かって貰い、エシェラと一緒に高校へと向かった。辺りは夕焼け色に
   染まりつつある。それでもまだまだ暖かい。4月初旬だというのにポカポカ陽気だ。
エシェラ「あ・・あの・・・。」
ミスターT「どした?」
エシェラ「先程は・・・ありがとうございました。」
   俺より首1個分背が低い彼女。上目づかいで礼を述べてきた。茶色の瞳が輝かしい。真っ直ぐ
   にこちらを見つめている。この瞳を見て直感する、肝っ玉はかなり据わっていると。
ミスターT「ああ、気にするなよ。」
エシェラ「何時もは必ず財布持参で動くのですが、今日に限って忘れてしまって。」
ミスターT「まあ余り気にしない。俺なんかしょっちゅう忘れ物するからさ。」
   気遣いついでに嘘を付いてしまった。生まれてこの方、忘れ物などした事がない。徹底的に
   チェックをし、念入りに下準備をする。それで行動するのだから、忘れた例しがなかった。
   まあ相手は女の子だし、このぐらいの気遣い嘘は大丈夫かな。

エシェラ「7年振りってマスターが言っていましたが、どこかに行かれていたのですか?」
ミスターT「20の時から日本中旅をして回ってるよ。もう7年になるんだが、すっかり町並みも
      様変わりしてる。」
エシェラ「凄いなぁ・・・。私なんか学業だけで精一杯です。」
    まだまだ若いというのに、まるで悟り切ったような話をしてくる。しかし彼女の雰囲気から
   事実だと感じ取れる。
ミスターT「機会があれば出かけてみるといいよ。自分探しの旅というのも面白い。」
エシェラ「尊敬しますよ。」
   何か凄い憧れの視線を感じる。まるで遠くにいた偉人を見るかのように。何だかなぁ・・・。
   しかし・・・彼女の表情、どこかで見た憶えがあるんだが・・・。う〜む・・・。



    数分後、エシェラが通う高校へと着く。流石に校舎まで入る訳にはいかない、校門前で待つ
   しかないな。
ミスターT「待ってるから取っておいで。」
エシェラ「はいっ!」
   走って取りに行くエシェラ。若い娘はいいねぇ〜・・・、心が落ち着くわ。それに一時の彼女
   のようで実に嬉しい。



女性「貴方、こんな所で何をしているの?」
    校門の石垣に寄り掛かり、煙草を吸いながら待つ。出てくる女子生徒が変な目で見るが、
   一服中は全く気にしない。言わば自分の世界へと入り込んでいるからだ。
   そこに不意に声を掛けられる。相手はスーツ姿の女性。出で立ちからここの教師かな。傍らに
   2人の女の子が一緒だ。
ミスターT「あ、すみません。連れが財布を忘れたって事で取りに行っています。」
女性「怪しいわね、ちょっと校長室まで来て。」
ミスターT「え・・・怪しくなんかないですよ。」
女性「出で立ちからして怪しすぎるわ、ツベコベ言わずに来なさい。」
   う〜む、ここは素直に従った方がいいかも知れない。7年振りの帰郷だ、いざこざは参る。
   仕方がなく女性の言葉に従った。


    校門を潜って校舎内に入ろうとした時、エシェラが中から出てくる。自分まで校舎に入った
   事に驚いているようだ。
女性「こんばんは、エシェラさん。」
エシェラ「あ、校長先生。どうしたのですか?」
女性「不審者を見つけたので問い質そうと思ってね。」
エシェラ「彼は不審者じゃありません、私の命の恩人ですっ!」
   また凄い解釈をしたなぁ。食事代を立て替えただけで命の恩人か、何とも・・・。しかし彼女
   に助けられたのは事実だ。素直に感謝するしかない。
校長「と・・とにかく詳しい話は中で聞きます。ここじゃ色々と面倒になりそうだから。」
ミスターT「ハハッ、任せます・・・。」
   もう苦笑いを浮かべるしかないな。今はとにかく流れに身を任せよう。男子禁制の女子高に、
   全くの部外者である俺が入る様。正しく不審者そのものだ・・・。



    その後俺は校長室に案内され、ソファーに座らせられた。エシェラも同席している。彼女に
   事の次第を説明してもらった。今の俺は彼女が助け船だろう。エシェラは喫茶店での借りが
   返せそうだ。
校長「ごめんねミスターT君、早とちりしちゃって。」
ミスターT「ミスターTでいいですよ。」
エシェラ「ビックリしましたよ。表で待ってると言っていたのに、ナツミYU先生と一緒に校内まで
     入ってきたので。」
   ここは彼女が担当する女子専門高等学校、つまり女子高だ。その女子高の校門の前で見知らぬ
   男がいるのだから、不審者と思われても仕方がない事だろう。
   それに俺の出で立ちは明らかに浮浪者に見える。これは必然的な流れだった。

ナツミYU「それにしても風来坊ねぇ〜・・・、何か見つけられたの?」
ミスターT「原点回帰ができたくらいですよ。やはり故郷からは離れられないという事を再認識して
      きました。でも今までの経験は無駄にはなっていません。」
    経験こそが生き様の全て。それが分かっただけでも凄まじい収穫だ。人生を根底から覆す
   ものなのだから。
ナツミYU「確かに。日本中を働きながら回るなんて、私でもそこまではできないわ。」
ミスターT「そうでもありませんよ。ナツミYUさんは気が強そうですので、信念と執念は絶対に
      曲げない筈。それに真女性には敵いません、野郎なんか足元にも及びませんよ。」
   校長ながらも二児の母親のナツミYU。肝っ玉母さんとは全く違う。今までの努力の証が切々
   と滲み出ている。
ナツミYU「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいわ。今まで努力してきた甲斐があるからね。」
ミスターT「旦那さんが羨ましいですよ。」
ナツミYU「ごめん、主人はこの子達が生まれる前に。」
ミスターT「・・・申し訳ない・・・。」
   むう・・・マズい事を言っちまった。これは忘れていた苦節を掘り返してしまったな・・・。
   俺は直ぐさまナツミYUに詫びを入れる。風来坊で培った即座の対応の1つだ。
ナツミYU「気にしないで。辛いけど色々と教えて貰った事もあるし。今があるのは主人のお陰なの
      だから。」
ミスターT「流石強いですね。」
ナツミYU「君もよ、気遣いありがとう。」
   何でこうも憧れの視線を送られるのか。ナツミYUもエシェラと同じく、真っ直ぐな瞳で俺を
   見つめている。まあ嬉しい事には変わりないが、ちょっとねぇ・・・。



エシェラ「アサミさんとアユミさんも一緒という事は、今日はお出掛けですか?」
ナツミYU「家に誰もいないからね、一緒にいるのよ。今日始業式だったでしょう、そのまま待って
      貰ったの。」
    校長室を後にした俺達。まだ下校前の女子生徒が校内にいるだけに、異端児である俺への
   目線が痛い。
ミスターT「アサミ君とアユミ君もエシェラ君と同じで?」
アサミ「はい。」
アユミ「お世話になってます。」
   この2人もターリュとミュックと同じく双子。だが全く対極的にお淑やかだ。エシェラより
   大人しいといった方がいいか。


    校舎を出て校庭の側道を歩く。その最中携帯の着信音が響く、それに応対するナツミYU。
   また彼女の着信音は凄い。WWEというプロレス団体に所属するレスラーの入場テーマだ。
   実にマニアックすぎる・・・。
ナツミYU「はい・・・はい、分かりました。直ぐ向かいます。」
   話の内容から臨時連絡のようだ。校長という重役から、こういった応対が必要なのだろう。
ナツミYU「ごめんアサミ・アユミ、先に帰ってて。臨時職員会議が入ったみたい。」
アサミ「分かった。」
アユミ「無理しないで。」
   そう語ると走って校内へと戻っていく。ワイルドウーマンとはこの事だろう。だが双子は何か
   淋しそうな表情をしている。

エシェラ「今日もダメだったね。」
アサミ「仕方がないですよ。仕事が仕事なだけに、無理強いはできません。」
アユミ「食事は私達で済ませます。」
    なるほど。母親との一時の時間を過ごそうと思っていたのか。これは可哀想だな。ここは
   一肌脱ぐのが正解かな。
ミスターT「俺でよかったら付き合うが。」
アサミ「わ・・悪いですよ。」
アユミ「家族の方とか心配しますよ。」
ミスターT「大丈夫、孤児だったから家族はいないから。自由に動けるから心配しないでくれ。」
   俺の話した言葉を聞いた直後、凄まじいまでに暗い表情になる3人。孤児という現実が彼女達
   を落ち込ませたようだ。
エシェラ「・・・ご家族誰もいないのですか・・・。」
ミスターT「あ・・ああ、でもこれも現実さ。だからこそ今の自分がある。今も見ぬ両親だが感謝
      してる。」
   今度は驚きの表情を浮かべている3人。暗くなったり驚いたりと、3人の感情表現は凄まじい
   ものだ。
アサミ「凄いですよミスターTさん。」
アユミ「目標を明確にもっている。私だったら悲しくて動けません。」
エシェラ「喫茶店のマスターが言ってた通り、只者ではないですね。」
   何だかなぁ。まあ明るくなってくれたならいいか。暗い表情の女性ほど辛いものはないし。
   彼女達には明るい笑顔こそがお似合いである。



ターリュ「あ〜、エシェラさ〜んっ!」
    校門へ向かおうとした時、一際明るい声が響く。お転婆娘のターリュとミュックだ。合流
   してから学校を出て、そのまま喫茶店へと向かいだす。
エシェラ「終わりましたか?」
ミュック「うん〜、しっかり入部してきたよ。」
ターリュ「私達バスケット部に入ってきた〜。」
   この幼い言動で高校生とは怖ろしいものだ。まあムードメーカーとしては最強であろうが。
   それにしてもエシェラやアサミ・アユミと同学年というのには驚きだ。
ターリュ「あれ、喫茶店の小父ちゃんじゃん。」
ミスターT「・・・どうも。」
ミュック「小父ちゃんも入学しに来たの?」
   一体どこからそういった事が浮かぶのか、天然的な発想には恐れ入る。それに彼女達と10歳
   前後しか離れていないのに、小父ちゃんはないだろう小父ちゃんは・・・。


    事の次第をエシェラが説明する。財布を忘れた事に驚き慌てて謝りだした。そりゃそうだ。
   2人があのままいれば、何事もなかったのだろうから。
ターリュ「ごめんなさい・・・。」
ミュック「何時も迷惑掛けてばかりで・・・。」
エシェラ「2人とも気にしないで。それに全てがマイナス面だけじゃなかったので。」
   そういいながら俺を見つめるエシェラ。その表情に一瞬ドキリとしてしまう。確かに財布を
   忘れなければ、あのまま別れていたのだろう。それに例え財布を忘れていても、ターリュと
   ミュックがいればそのまま帰っていただろうから。偶然が重なり合っての今がある、これは
   紛れもない事実だ。だからこそ人生は楽しいのだ。
ターリュ「な〜に〜、また一目惚れ〜?」
ミュック「小父ちゃんに惚れたんだぁ〜?」
エシェラ「ち・・違いますっ!」
ミスターT「何なんだか・・・。」
   ターリュとミュックにからかわれ、頬を染めるエシェラ。あたふたしながら否定する彼女を
   見て、アサミとアユミが微笑んでいる。


    一時の幸せ、か。彼女達にとっては大切な思い出の1つになるのだろう。

    そう、大切な一時。その瞬間を大切に・・・。



    賑わう5人を見つめながら、俺は煙草を吸う。帰郷してよかったと心の底から思える。
   安らぎの一時をくれた5人に感謝した。

    第2話へと続く。

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