アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜 〜第2部・第1話 育ての親1〜 3年振りに故郷に戻ってから1ヶ月が経過した。周りは何も変わらずに過ぎ去っている。 変わっているのは、4人の今まで以上の俺に対する一念だろう・・・。何とも・・・。 帰郷してから殆ど毎日、本店レミセンでのマスター役を担っている。エシェラ・ラフィナ・ エリシェ3人は仕事や勉学もあり、殆ど毎日が修行の日々を送っている。シンシアだけが唯一 フリーであり、俺と一緒に行動をしているぐらいか。 日々が平凡と言えるのだが、4人からのアプローチは凄まじいものだ・・・。 そうそう、マツミからの依頼は来なくなった。丁度半月前に1度、国内の運送業に携わった 事があった。それから彼女直々に解雇命令が下ったのだ。 無論これはブラックリストなどに載るなどという類ではない。急激に成長を遂げ、国内や アメリカ・カナダのトラック野郎の仕事の場を作った事にもなる。仕事がなく苦しんでいた ドライバーが沢山いたという事だ。 今は凄まじい人数の社員が所属しており、それだけでかなりの大規模な企業へと発展して いる。つまりは俺の仕事は終わったという事であった。 まあ3年前の企業開拓時に携われた事は非常に嬉しい限りだ。俺の生き様が彼女達の背中を 押した結果になる。俺の存在も決して無駄ではなかったという現れである。 今後は喫茶店の総合マスターとして君臨するしかないかな。まあ4人の事もあるし、地元 から離れる訳にはいかない。 正しくこの地元が、俺の骨を埋める永住の地だ。 そんな中、ヴァルシェヴラームから連絡が入る。久方振りの連絡もあり、内容は直接聞いた 方がいいと孤児院へ向かった。 彼女とは地元へ戻ってから初めて対面する事になる。3年振りに母たるヴァルシェヴラーム との顔合わせだ。 ちなみにバイクでは来るなという事で、ここはタクシーを使い現地へと赴いた。 数十分後に孤児院へと到着する。しかし・・・何年経ってもここの風格は全く変わらない。 どこか重々しさはあるが、全てを暖かく見守ってくれるような雰囲気である。 これもヴァルシェヴラームが成せる業物なのだろうな・・・。 ヴァルシェヴラーム「いらっしゃい。」 ミスターT「どうしました?」 到着して直ぐに院長室へと入室する。すると直ぐに目に留まったのが、ソファーの上に置か れたバスケット。その中には生まれて間もない赤ちゃんがいた。 ミスターT「・・・まさか捨て子?」 ヴァルシェヴラーム「ええ、ついさっき保護したのよ。」 スヤスヤと眠るその子は、まるでどこにでもいそうな普通の赤ちゃんだ。こんな子供を捨てる とは・・・。それなりの理由があっての捨て子だろうが、それが絶対的に許される今の世の 中ではない。 ヴァルシェヴラーム「実は君にお願いがあって呼んだの。」 ミスターT「・・・大体掴めました、この子のお守りを頼みたいと。」 ヴァルシェヴラーム「いいえ、育ての親になって欲しいのよ。」 予想を覆す発言をしてきた。一時的な育ての親なら分かるが、彼女が指摘するのは長期に 渡っての育ての親だった。 ミスターT「でも・・・シェヴさんが担えばいいと思いますが・・・。」 ヴァルシェヴラーム「これを見ても担えると思う?」 そう言うと赤ちゃんを抱きかかえようとする。直後まるで蓋を開け放ったかのように大泣きを しだした。どんな子供からも慕われるヴァルシェヴラームには在り得ない現実だ。 ヴァルシェヴラーム「例しに抱いてみて。」 言われるままに自分が赤ちゃんを抱く。すると何と今まで大泣きしていたのがピタリと泣き 止んだ。これにはただただ驚くしかない。 ヴァルシェヴラーム「やっぱりね、思った通りだわ。」 ミスターT「・・・こうなると知っていたのですか?」 ヴァルシェヴラーム「そうか、憶えていないんだっけ。エシェラさんとの件は知っているとして、 それ以外にも何度も赤ちゃんを泣き止ませた事があるのよ。」 ミスターT「そうだったのですか・・・。」 記憶を失ったのは15の時。それ以前に何度かあったのだと告げる。泣き続けていた初対面 の赤ん坊エシェラを、ただ抱くだけで一発で静めたというのだから。 ヴァルシェヴラーム「男女問わず、赤ちゃんなら必ず懐いていたわ。貴方なら十分適任よ。」 ミスターT「しかし・・・俺に担えますかね・・・。」 ヴァルシェヴラーム「担えますか、じゃないわ。担うのよ、分かった?」 ミスターT「わ・・分かりました・・・。」 う・・・凄みのヴァルシェヴラームになってる。この状態だと俺の言い分は一切通らない。 しかし俺を信頼して依頼してくれたのだ、ここは応じるのが野郎としての誠意ある対応だな。 ヴァルシェヴラーム「それとその子、まだ名前を決めていないのよ。貴方が決めてくれるかな。」 ミスターT「そこまでしていいのですか・・・。」 ヴァルシェヴラーム「我が子のためよ、親として当然の責務だわ。可愛い名前にしてあげてね。」 う〜む・・・俺が名付け親か・・・、いきなりの展開に焦るばかりだ・・・。しかも可愛い 名前ったってなぁ・・・。・・・って・・まてよ・・・、まさか・・・。 ミスターT「シェヴさん、もしかしてこの子・・・女の子?」 ヴァルシェヴラーム「もちろんっ!」 そこを何で笑顔で答えるのだろう、この人の性格は到底理解できない・・・。同性だからと いう意味合いでの嬉しさなのか、喜ぶ姿は尋常じゃないぐらい明る過ぎる・・・。 しっかりとした身支度を済ませる。赤ちゃんの衣服は白いちゃんちゃんこみたいなもの。 保護されて身体検査を行ってそのままだという。まあこの施設には医療部門もあるからな。 ヴァルシェヴラーム「育児用の道具はこちらで用意するわ。」 ミスターT「いえ、自分で揃えますよ。」 ヴァルシェヴラームが育児用の道具の件を切り出してきた。だが自分が育てるようになるの なら、ここは全て俺自身の手で行いたい。 ヴァルシェヴラーム「いいの?」 ミスターT「さっき言ったじゃないですか、我が子のためと。例え血が繋がっていなくても、無責任 な育て方をするぐらいならやりません。」 そうだな。今後はどうあっても、このぐらいの決意がなければ子供は育てられない。一瞬の 歴史をこの子に与えるのなら、俺の身を投げ打ってでまで担うのが当たり前だ。 ヴァルシェヴラーム「・・・やはり私が愛した人だね。貴方なら必ずいいお父さんになれるわ。」 ミスターT「天下のシェヴさんに頼まれて、断る訳にはいかないでしょうに。」 ヴァルシェヴラーム「フフッ、ありがと。」 ヴァルシェヴラームが俺を育ててくれたのだ。彼女は俺にとって恩師そのもの。その師恩に 応えずにどうするというのだ。この子を育てる事こそ、彼女に対しての恩返しでもある。 それにこの地域に骨を埋める覚悟を決めたのだ。このぐらいの決意を抱けないようでは、 伝説の風来坊としての名が廃るというものだ。 という訳でヴァルシェヴラームに託された女の子を、俺が育ての親として引き取る事に。 以前の俺ならアタフタして担えないだろうが、今年で31になるのだ。親としては充分な年齢 だろう。 俺の胸の中で眠る女の子。この思いはエシェラを抱いていた時と同じ感覚か。当時を鮮明に 思い出す事はできないが、懐かしい心情のこれは過去の思い出だろう。育ての親として恥じる 事がない父親にならねばな・・・。 しかし・・・、何と言えばいいのか・・・。帰った後の第一声が怖ろしくて、考えたくも ないわ・・・。 後半へと続く。 |
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