アルティメットエキサイティングファイターズ・外伝 〜覆面の風来坊〜
    〜第1部・第7話 海水浴2〜
    夜になる前にホテルへと引き上げる。汗をかいた身体を巨大風呂で流した。流石に混浴では
   ない。それに例え誘われても断る。本心は実に嬉しいが・・・。

    娯楽施設も完備しているここには、コインで楽しむカジノもある。無論金銭が絡むものでは
   なく、息抜きに近いものだ。


    卓球台を目撃したエシェラは、ラフィナとエリシェ相手に試合を展開している。反射神経が
   強い3人、凄まじい試合に周りを驚かせている。

    3人と言ったが、それにはエリシェも含まれる。彼女は何とフェンシングと剣道を極める
   までに至っていた。まあプロには遠く及ばないが、俺からすれば充分強いだろう。反射神経の
   強さも充分頷ける。


    俺はというと、パチンコ台があったので勤しんでいる。これが本当に換金できれば最高なの
   だが、遊び程度にした方が無難だな。



    時間は夜の12時を回っている。遊びすぎて時間を忘れるほど楽しめた。激闘を繰り返した
   3人はグロッキー状態だ。夜食を取った後に部屋へ戻り、そのまま深い眠りに入っている。
   頑張りすぎだよ、まったく・・・。

ミスターT「また煙草がない・・・。」
    バルコニーに出て一服しようとしたが、またまた煙草がない事に気が付く。確かパチンコを
   やってる時にエラい吸ってたのを思い出す。手持ちの煙草を全て吸っていたからなぁ・・・。
   この時間だと近くのコンビニが一番手っ取り早いか。



    表は海風に吹かれ凄い涼しい。バルコニーでもそうだったが、夜の風は最高にいいな。
   近くのコンビニに行き、煙草を買った。深夜での煙草購入は身分証明書の提示を催促される
   場合がある。幸いにも俺の体格から疑われる事はなかったが。


シンシア「あ、お兄さん。こんばんは。」
    一服しながら海岸を歩く。昼間は人でごった返していたが、夜ともなると殆どいない。偶に
   カップルがいちゃついているが、それは黙認しよう。
   突然声を掛けられ驚くが、その声には聞き覚えがあった。昼間会ったシンシアだ。
ミスターT「よう、散歩かい?」
シンシア「はい、何だか眠れなくて・・・。」
ミスターT「なら少し付き合うか。」
シンシア「あ・・はい・・・、ありがとう・・・。」
   人気が少ない海岸を歩く。波が押し寄せる音だけがするこの場、心が洗われるようだ。無言で
   歩き続ける俺とシンシア。何も話さなくても心が通えるようだ。


シンシア「明日・・・出発します。」
ミスターT「そうか、今までお疲れ様。コーヒー美味しかったよ。」
    不意に抱き付いてくるシンシア。一瞬何だと焦ったが直ぐにその心境が分かる。俺もソッと
   彼女を抱き締めた。

シンシア「・・・やはりお兄さんに運命を感じる、最後に・・お会いできてよかった・・・。」
ミスターT「フフッ、ありがとな。」
    表には出していないが、心では怯えているのだ。彼女の背中を押せる事を願いつつ、俺は
   心の底から労いの抱擁を続けてあげた・・・。



    海の家まで彼女を送る。そして彼女に握手を交わした。精一杯の笑顔で応えるシンシア、
   少しは力になれたのだろう。嬉しい限りだ。

シンシア「本当にありがとう・・・。」
ミスターT「気にするな。お節介焼きの世話好きだから。」
シンシア「ううん、お節介ではこんな事できないよ。お兄さんが優しいから・・・。」
    幾分か大人びいたように見える。些細な切っ掛けで人は成長するのだ。あの一瞬で先へと
   進めるのなら、俺の存在は無駄ではない。

シンシア「じゃあ、またどこかで・・・。さようなら・・・。」
ミスターT「あ、待った。1つ忘れ物が・・・。」
    彼女を呼び止めると、静かに抱き寄せる。思いっ切り焦った表情を浮かべているが、俺の目
   を見た彼女はその理由を知ったようだ。瞳を閉じ身を委ねる彼女、俺はソッと唇を重ねた。
   俺ができる心からの甘い一時をプレゼントしてあげた。俺にできる精一杯の慰めだ・・・。


    長い間、唇を重ね合う。意外と積極的にアツい口づけをしてくる所を見ると、それだけ愛情
   に飢えているという表れだろう。

    涙を流しながら唇を重ね合わせるシンシア。まるで今生の別れとも言わんばかりに・・・。
   それを感じ取ると、無意識に抱き締める手に力が篭る。口づけをしながらも、お互いに熱い
   抱擁を繰り返し続けた・・・。



    落ち着いたシンシアとガッチリと握手を交わし別れた。彼女が住み込みで働いている弁当屋
   まで戻っていくのを見守る。本当は送り届けたかったが、別れが辛くなると断られた。まあ
   確かにそうだな。

    彼女が見えなくなると、俺はホテルに戻る。心中で彼女に勇気と希望が沸くよう、俺は強く
   願った・・・。



    翌日。朝食を取ると一泳ぎする3人。俺は帰宅の準備も兼ねて、既に普段着で付き合った。
   海の家でコーヒーを頼んだが、既にシンシアの姿はなかった。

    彼女に一時の安らぎを与えられた事に感謝した。俺の存在も決して無駄ではない・・・。



    正午に昼食を取ってから、お土産を大量に購入する。全て自分の知人に渡す物だ。手当たり
   次第に買い捲っていたエシェラには恐れ入るが・・・。

    そして俺達は東京へと帰った。僅かながらの夏の日は終わりを告げる。しかし生涯忘れえぬ
   大切な思い出となったのは言うまでもない。



エシェラ「ただいま〜。」
    帰ると喫茶店へと戻った。キャンピングカーをトーマスCに返さなければならないのと、
   お土産を渡すためでもある。
トーマスC「おかえり。う〜む・・・見事に日焼けしたなぁ〜。」
ラフィナ「充分楽しめました〜。」
エリシェ「これお土産です。」
   すっかり日焼けした3人に驚くトーマスC。無理もない、俺も驚いているぐらいだ。しかし
   焼き過ぎという程ではなく、並という部分だろうか。現にシャワーや入浴をしても痛まないと
   言っている。実際に大きく日焼けした事がないから何とも言えないが・・・。

トーマスC「そうそう、働きたいという新しい子が来る。応対を頼むよ。」
ミスターT「OK。」
    駅前と大学前の店も大繁盛している。流石に2人だけでは厳しくなっており、新たに募集を
   呼び掛けたようだ。


エシェラ「どうこれ、店先に飾るといいよ。」
トーマスC「おう、ありがとな。そうだな・・・そこの冷蔵庫の上に置いてくれ。」
    色々と購入したものを配りまくる。エシェラもただ我武者羅に買ったのではなく、一応は
   考えて購入したようだ。ラフィナもエリシェも色々とお土産を手渡す。僅か1日の滞在だと
   いうのに、ここまでする必要はあるのかね・・・。まあこれも彼女の優しさだろう。

    俺は店内の掃除を行いつつ、雑用に明け暮れた。新しい人物が到着するまでの間の時間潰し
   である。まあ仕事には変わりないが、何もしないよりはマシだ。



    一服しながらコーヒーを飲む。今もプレゼントの配置に困っているエシェラ。徹底した行動
   には恐れ入る。まあ好きにさせよう。

ラフィナ「あ、いらっしゃいましたよ。」
    暫くしてラフィナが俺を呼ぶ、候補者が到着したようだ。俺は一服を終え、出入口の方へと
   目をやった。ボストンバッグを片手に、背中にリュックを背負った女の子。今時被る地味な
   野球帽が印象深い。

    まてよ・・・、野球帽・・・まさか・・・。

シンシア「あ・・・。」
    ハ・・ハハッ・・・。運命とは正にこの事なのだろう・・・、偶然にも程があるな・・・。
   俺に分かると顔が見る見るうちに泣き崩れていく。そのまま俺の胸へと飛び込んできた。
シンシア「・・・やっぱり・・・気のせいじゃなかったんだ・・・。また必ず会えるって・・・、
     そう信じてた・・・。」
ミスターT「ああ、そうだね。」
   最大限の真心を込めて彼女を抱きしめる。他のみんなと同じく、彼女もまた心の深層では強く
   繋がっているのだ。

シンシア「・・・シンシア=ドゥガと・・言います・・・、ここで・・働かせて下さい・・・。」
ミスターT「承諾するよシンシア、これは認め印だよ・・・。」
    徐に彼女の顎を持ち上げ、静かに口づけをする。それに静かに応じたシンシア。みんなが
   見ている中での行為だが、彼女の言動を見ればその意味を理解してくれるだろう。


    実際の面接をせずにシンシアを採用した。このアツい口づけが何よりの証である。それに
   今まで見た事がない笑顔で接してくる彼女。

    これからは共に戦える。彼女の背中を一緒に押して行けるのだ。これがどれだけ幸せな事で
   あるか計り知れない・・・。



    強く思う願いは必ず叶う。それを感じさせた瞬間だった・・・。

    こうして再会は果たされた。シンシアもまた、俺達の大切な友人の1人となる・・・。

    第1部・第8話へと続く。

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