アルティメットエキサイティングファイターズ 〜集いし鋼鉄の勇者達〜
    〜第49話 新しい流れ〜
    ミスターTが休憩で離脱した現在、一同全員が一丸となって動き出した。そうする他に動く
   手段がなかったからだ。それだけ彼が担っていた重役を身を以て知った一同。

    臨時創生者となったエシェラは引っ切り無しに駆け回っていた。自分が思い浮かべる創生者
   像を思い浮かべ、一同を沸かすための先陣を切っている。

    一同抗争は行うものの、どうしても本気になれない。率先して動いていたビィルガ達も裏方
   の雑務に明け暮れており、表立っての流れを掴めずにいた。


    ちなみにエシェラの本気を知った悪陣営は意気消沈している。ミスターTは一応は弁えて
   動いていたのだが、彼女の場合は問答無用で黒いカードなどの力を多用するだろう。
   つまりは下手に無謀な事をしようものなら、間違いなく粛清を受けるのは目に見えていた。


    今の一同は6陣営から5人を輩出する抜粋ロイヤルランブルを行う事に焦点を合わせた。
   悪陣営のみ5人を抜粋したが、他の5陣営はまだ決めかねている。特にマジブレ陣営は初めて
   の大規模イベントに四苦八苦している。これが彼らにとっていい経験になるだろう。



ディルヴェズ「マスター、ユキヤM氏とのケージチャンプに挑みます。」
    GMテーブルにて諸々の資料を見つめるエシェラ。補佐にシルフィアTLが付きっ切りで
   サポートに回っている。
   そこにディルヴェズとユキヤMが現れる。かねてから名乗りを挙げていたケージチャンピオン
   に挑むためだ。
ユキヤM「一同が決めかねている間のいい余興になるでしょう。」
エシェラ「了解です。試合設定などはリングサイドにいるビィルガさん達に言って下さい。」
   ディルヴェズもユキヤMも自分達以外の名乗りを待っていたようだが、全く現れない現状を
   見かねて動き出したようだ。1対1の戦いになってしまうが、これも仕方がないのだろう。

    ディルヴェズとユキヤMはリング近くにいるビィルガ達を訪ねに行った。やはり2人が思う
   のは、ミスターTがいないだけでこれだけ下火になるのかというものだ。


ルデュファス「エシェラさん、サブミッションチャンプを行います。許可をお願いします。」
    今度はルデュファスとヴュオリーアが駆け付けた。こちらはサブミッションチャンピオンに
   名乗りを挙げており、ディルヴェズとユキヤMみたいに名乗りがないため動き出したようだ。
エシェラ「許可も何も、否定する事はしません。思う存分戦って下さい。」
ヴュオリーア「おうよ、頑張るぜ!」
   まるで男のような言動をしてリングへと向かって行くヴュオリーア。それにトボトボと付いて
   行くルデュファス。その姿に小さく笑うエシェラだった。



シルフィアTL「これで試合まで至っていないチャンプバトルは、ファーストブラッドとウーマンズ
        の2つか。」
エシェラ「前者は男性オンリー、後者は女性オンリーです。選ぶのも厳しいものがあるかと。」
シルフィアTL「だねぇ。」
    シルフィアTLが挙げた2つのチャンピオンバトルは、男女別れる形になる。この世界の
   設定上、出血ができない女性陣にファーストブラッドは担えない。必然的に男性限定という
   流れになってしまう。これでは女性陣だけチャンピオンバトルが少ない事になり、不公平と
   なるだろう。
   そこでミスターTが決めたのが、ウーマンズチャンピオンというものだった。女性陣限定の
   チャンピオンバトルを設ける事で、この埋め合わせを図ったのだ。

シルフィアTL「大丈夫よ。彼なら不死鳥の如く復活するわ。」
エシェラ「はい・・・。」
    率先して雑務などに明け暮れるエシェラだが、表情は何時になく落ち込んでいる。それを
   察知したシルフィアTLがその理由を知り、落ち込む彼女を激励しだした。
シルフィアTL「一時期色々な事があったわ。例の事変後に努力するという事を忘れて、私に頼って
        来たのよ。あまりにも一方的に頼りすぎるから、彼の元から離れたわ。そうでも
        しないと彼自身がダメになるからね。」
エシェラ「そんな事があったのですか・・・。」
シルフィアTL「事変を思い出しては引退引退とか騒ぐから、いっその事私の傍らに置いた方が安心
        できると思ったのよ。でも彼は古巣の友人を取った、私の告白を蹴ってまでね。」
   エシェラはシルフィアTLが言っていた告白の内容を知った。それは恋愛に関するものでは
   なく、不安定なミスターTを擁護するという意味合いが強いだろう。それでも旧友を選んだ
   彼は無謀と言うのか何と言うのか。
シルフィアTL「皮肉よね。あの事変がなければ、この場は有り得なかったかも知れない。あったと
        しても、彼のセカンドネームは別のものになっていた筈。今も彼が突き進む心の
        拠り所、それもなかったでしょう。」
エシェラ「逃げるな・負けるな・諦めるな、でしたね。」
シルフィアTL「正直、言った憶えはないんだけどねぇ〜。でもそれが彼の励みになるのだから、
        間違ってはいないでしょう。生きて進みさえすれば間違いなく勝者よ。」
   見定まった発言、据わった原点回帰。シルフィアTLの生き様を窺い知ったエシェラ。それは
   正しくミスターTの生き様と何ら変わらない。師弟とはこの事だろう。

シルフィアTL「でもさ〜、私は彼より3歳ぐらい年下なんだけどねぇ〜。それでも先輩格として
        扱われるのは何とも言い難いわ。」
    急に本題から反れた話をしだした。同じ会話に執着しない彼女なりの息抜きでもあろう。
   しかし現実の事実を知ったエシェラは驚いた。どう見てもミスターTより年上としか見えない
   からだ。
エシェラ「でもマスターは貴方を心から慕っています。落ち込みそうな時や悩んだ時など、必ずと
     言っていいほど貴方の名言を口にしますよ。」
シルフィアTL「嬉しいねぇ〜。今もしっかりやっているという事だからね。」
エシェラ「シルフィアTLさんが羨ましいです。」
   ポツリと本音を漏らすエシェラ。現実での付き合いの彼らを知って、非現実の自分とは釣り
   合いがないと落ち込んでいる。
   その彼女の肩にソッと手を置き、軽く肩をマッサージしだしたシルフィアTL。
シルフィアTL「現実・非現実、そんなの関係ないわよ。この場では存在そのものが事実だからね。
        それに貴方は普通の男女間の付き合いをしている、実に羨ましい事よ。」
エシェラ「でも・・・貴方もマスターの事が・・・。」
シルフィアTL「それはないわ。気の合う仲間同士という間柄よ。それに彼は惚れっぽい性格でね、
        異性だったら誰でも声を掛けたがるのが本音らしいわ。」
   今までの異性に対する言動を見てきたエシェラは苦笑いを浮かべる。素のミスターTの性格を
   しっかりと熟知しているのだ。

シルフィアTL「貴方が羨ましいわ。仮に貴方が現実に存在したのなら、彼は間違いなく貴方の虜に
        なっているでしょうね。」
    更に意外な事を告げられ、顔を赤くして俯くエシェラ。自分の方から一方的に好いていると
   思っていたが、その真逆のケースを考えもしなかったからだ。
シルフィアTL「今のは言い過ぎだとしても、現実で対等に勝負した場合は貴方には敵わないわね。
        小説から・本編からの受け売りだとしても、貴方が彼を思う心は尋常じゃないわ。
        でも貴方に独立した意思があって、ゼロからスタートするなら話は別かも知れない
        けどね。」
エシェラ「私は・・・どのような状態になっても、何度でもマスターを好いてみせます。」
シルフィアTL「ご馳走様。」
   本気にも取れるエシェラの発言に、シルフィアTLは呆れ気味に答えた。両肩に置く手に力を
   込めて礼をしだす。それに悲鳴を挙げて降参するエシェラだった。


    僅か短時間でのコミュニケーションで、エシェラとシルフィアTLはお互いを理解し合う。
   なかなかできるものではないが、それだけ心が通じ合えるという事だろう。

    それにミスターTが心から敬愛するシルフィアTLを気に入れないのは、エシェラにとって
   恥ずべき事だろう。彼女の存在こそが彼の生き写しとも言える。それを直感したエシェラで
   あった。


    その頃同時刻では、ケージチャンプとサブミッションチャンプが始まった。シングル対決な
   だけに白熱度は低そうである。しかし試合に賭ける意気込みは両者とも凄まじいものだった。


ケージチャンピオンバトル登場+試合動画



    (ケージチャンピオンバトル終了)
    試合はケージ、形式はシングル。ルールはなく、リング設定はインサレクションだった。
   勝者はユキヤM。運の要素が絡むだけに、どの面々でも勝利者になれるだろう。
   試合は終わったが、その次のサブミッションチャンプが同リングである。試合を終えた2人は
   そちらの観戦をしだした。


サブミッションチャンピオンバトル登場+試合動画



    (サブミッションチャンピオンバトル終了)
    試合はサブミッション、形式はシングル。ルールはギブアップ・ロープブレイク・DQ、
   リング設定はヴェンジェンスだった。
   勝者はルデュファス。これは純粋に力と力とのぶつかり合いで、技量が物を言う内容だった。


    2つの試合を終えた勝者の2人は、ビィルガからチャンピオンベルトを受け取る。すっかり
   毒牙が抜けた彼は誠実そのもので、重役が彼を純粋な紳士へと覚醒させていると言っていい。

    ベルトを受け取った2人は勝利のアピールをする。そして次からは挑戦者を待つ形になる
   のは言うまでもない。



ヴェアデュラ「チャンピオンバトルもいいものですね。」
アーディン「正直足枷にしか思えないが、試合回数が多くなるのはいい事だろうな。」
    チャンピオンバトルを初めて見た新陣営の面々。その気迫篭った試合内容に圧倒され、次は
   自分達もと画策しているようだ。
アーディン「俺達がいくら戦闘力が強くても、その場に順応しなければ全く意味がない。その場合は
      明らかにイレギュラーと化してしまう。全ての面において一同とリンクできる行動が
      できるようになるのが、本当の巨大な流れだろう。」
   アーディンが語る言葉は今の新陣営に必要なものだった。それに頷くヴェアデュラ。彼女も
   戦闘力は凄まじいものだが、他の陣営とのリンクがなっていない。
   唯一面識があるのはミスターTだが、今彼は休息中である。それを踏まえると面識がある人物
   は所属する陣営しかなかった。
ヴェアデュラ「コミュニケーションを取りましょう。力が強くても孤立してしまっては意味がない
       ですから。」
アーディン「そうだな。他の面々には俺からアポを取るよ。お嬢は独自で動くといい。」
ヴェアデュラ「分かりました。」
   まだ本編も定まっていない流れではあるが、ヴェアデュラとアーディンは親子の関係に近い
   だろう。またアーディンもフリハト系列のディーラに似ており、頼り甲斐のある兄貴分として
   慕われやすい。リーダーシップを取るには打って付けの人材であろう。



ターリュS「こんな所かな。」
    ターリュSとミュックSが14人の娘達を引っ張り、アルエキファイタの世界観を教えて
   回った。一通り語った双子は、14人の娘達とお茶を楽しんでいる。
リュア「姉ちゃん達の人気度は凄いねぇ〜。」
ミュックS「これも全部マスターが施してくれたお陰だよ。」
ターリュS「偉大だよね。」
   紅茶やジュースなどを飲み合いながら語る。ターリュSとミュックSの凄さは、その明るさ
   以外にもあった。それは一度首を突っ込んだら、徹底的に付き合い続けるという事だ。
   この14人の娘達とのコミュニケーションが顕著に表れているだろう。

ヴェアデュラ「私も雑ぜて貰っていいですか?」
エシェア「あ、姉さん。」
シェラ「どぞどぞ〜。」
    賑やかに会話が弾むそこにヴェアデュラが現れる。早速コミュニケーションを開始したよう
   である。それに風来坊本編では彼女の存在は14人の姉的存在だ。断る理由などないだろう。
ターリュS「ヴェアちゃんも所属はみんなと一緒だよね。」
ヴェアデュラ「そうですね。抜粋されての風来坊の世界観ですから。」
ミュックS「うちらもオリジナルが参加してるじぇ。」
   存在感では圧倒的にターリュS・ミュックSが強い。確かにヴェアデュラの雰囲気は強いが、
   この双子には到底及ばないだろう。


    ヴェアデュラが参加した事で、より一層賑やかになるこの場。そこから少し離れた場所を
   エシェラとシルフィアTLが駆け抜ける。資料片手に右に左へと動く様は、臨時の創生者役を
   最大限担っている証拠だ。
リュオ「エシェラさん頑張ってるなぁ・・・。」
エシェア「父さんが休んでますからね。」
ヴェアデュラ「そう言えばマスターは今どちらに?」
ターリュS「多分表の庭園かと思いますよ。」
   あれから結構時間が経過している。そろそろ立ち直ってもいいだろうが、今だ姿を現さない。
   それだけ彼の心の傷が大きいという事だ。
ミュックS「行ってみるかな。」
ターリュS「そうだね。」
   徐に立ち上がるミュックSとターリュS。有言実行を信条としている2人は直ぐに動き出す。
   それに便乗する15人の娘達。やはり中心者たるミスターTがいなくては話にならなかった。



    会場外にある娯楽施設。一部の面々が息抜きに施設を利用している。全員が試合を行って
   いる訳ではなく、こういった場があるのだから最大限活用しているようだ。

    その中にある庭園にミスターTはいた。大木の根元に座り、その幹に寄り掛かっている。
   瞳を閉じて物思いに耽っている姿は、誰も近寄り難いものであった。


    そこに17人の娘達が訪れる。最大限足音を消して近付いてきたが、徐に瞳を開けて彼女達
   の方を向くミスターT。それに17人は飛び上がらんばかりに驚いた。
ミスターT「・・・もうそんな時間か。」
   一同が目にした彼の不安定さは一切ない。心から休めたという事が窺える。その一面を窺い、
   彼女達はホッと胸を撫で下ろしていた。
ヴェアデュラ「大丈夫ですか?」
ミスターT「大丈夫じゃないにせよ、これ以上停滞しては彼女に怒鳴られる。膝は折れないよ。」
   徐に起き上がり身体を解しだす。どうやらエシェラに創生者役を任せてから、今の今まで休息
   していたのだろう。身体から発せられるボキボキ音が凄まじいものだ。
ミスターT「現地はどうなってる?」
ターリュS「エシェラさんとシルフィアTLさんが走り回ってますよ。」
ミュックS「みんな各自で頑張ってます。今までマスターに頼りっ切りだったと反省してますよ。」
ミスターT「悪い事をした、すまなかったな。」
   徐に懐から煙草を取り出し一服をするミスターT。凄まじいまでに落ち着きを取り戻した彼を
   見て、もう大丈夫だと安心した彼女達だった。


    ミスターTと一緒に試合会場へ戻って行く17人の娘達。以前よりも成長した娘達を見て、
   実に嬉しそうな顔をする彼。そして彼女達の面倒を見てくれたターリュSとミュックSに感謝
   をするミスターT。お礼とばかりに抱き寄せ口づけするスタイルは変わっていない。

    初めてのキスを一番好いている彼にされた2人は骨抜きにされる。だが今までにないほど
   嬉しい表情を浮かべてもいた。
   エシェラ達が病み付きになる理由を改めて知ったターリュSとミュックS。この2人も彼の
   より一層の虜になったのは言うまでもない。


    その後試合会場へと戻ったミスターT達。彼が姿を現した事で、一気に盛り上がる面々。
   やはり主役は彼なのだ。それを改めて思い知った一同であった。



    再び活動を再開しだした一同。今度は異なる流れを行いだす。それはコミュニケーションを
   踏まえた、戦い以外のものだ。

    当然スパーリングなどは欠かさず、己の腕の鍛錬は忘れない。しかし会話による鍛錬も必須
   であり、これを欠いてしまっては場の流れが停滞してしまう。

    ミスターTが一時離脱した事で、それを思い知った一同。彼の休息は決して無駄ではないと
   言えるだろう。

ミスターT「迷惑を掛けたね。」
エシェラ「創生者役は大変ですが、やり甲斐はありますよ。」
    雑務をしながら会話をするエシェラ。サポートにはシルフィアTLが付きっ切りで、もはや
   二人三脚は言うまでもない。
シルフィアTL「少しは落ち着いた?」
ミスターT「ええ、今の所は。」
シルフィアTL「創生者役は私達に任せて、君は他のみなさんとコミュニケーションを取りなさい。
        重役から降りている今なら、一介のレスラーと同じ位置付けだから。」
ミスターT「了解、そうします。」
   エラい座っている2人を目の当たりにし、ミスターTは一言返事で今後を任せた。


    気苦労な雑務を繰り返すうちに、エシェラとシルフィアTLは完全に創生者役に目覚めた。
   自分達の思い描く世界観を作るのだと活動し続け、更に一同からの要望も取り入れている。

    ミスターTよりドギツイやり方はご愛嬌だが、それでも一同を沸かせる展開を全力で担って
   いる事。これには一同から大きな評価を受けていた。
   これがミスターTが望んでいた流れであり、新たな流れとも言えるだろう。



ミスターT「今の所はお役ご免みたいだね。」
ダーク「皆さん頑張っておいでですから。」
    陣営の流れをエシェラ達に報告したダーク。その帰りにミスターTと出会い、その安否を
   気に掛けた。陰ながら心配していた人物の1人でもある。
ミスターT「君にも心配を掛けたね。」
   その心中を察知し、徐に彼女を抱き寄せる。すっかり定着したスキンシップに慣れた彼女も、
   一時の甘い時間を満喫していた。
ダーク「本当に落ち着きます・・・。」
ミスターT「暖かいよな。」
ダーク「はい・・・。」
   色々な意味を込めての発言に、ダークは一言返事のみにした。彼の心中は色々な事で一杯で
   あろう。彼女の長所でもある相手とのリンクにより、その心中の思いを直ぐに察知できた。
ダーク「あの・・・、私でよければ何でもします。だから皆さんには心配を掛けないで下さい。」
ミスターT「大丈夫だよ。俺も馬鹿じゃない、テメェの生き様は崩さないから。」
ダーク「でも・・・貴方の心は今も泣いているじゃないですか・・・。」
   ダークが指摘したミスターTの心境、それを彼は力強い抱擁で返してきた。どんな状況でも
   相手を敬い激励する。自らが心に抱えている苦悩すらも押し殺し、笑顔で相手を癒すのだ。
   それにダークは居ても経ってもいられない状態だった。

ミスターT「エシェラや恩師が頑張ってくれている。それに一同だって頑張っている。それなのに
      俺だけ膝は折れないよ。動かないにせよ一同とのコミュニケーションは大切にしたい。
      それが俺の揺ぎ無い信念と執念だ。」
    ふとダークの顔を撫でるミスターT。その瞬間彼女の顔に施されている黒いペイントが一瞬
   にして消え失せた。これには見えなくても直感で感じ取った彼女は驚愕する。
ミスターT「シェガーヴァHと同じく、悪陣営の中で唯一のノーマルフェイスにするよ。」
ダーク「そ・・そんな恐れ多い事を・・・。」
ミスターT「大丈夫さ、君ならどんな環境であれ戦っていける。」
   彼女の顎を右手で持ち上げ、徐に唇を重ねる彼。しかも今までとは異なり、心の篭った力強い
   口づけだ。それに心の底から骨抜きにされるダーク。前以上に彼に身体を支えて貰わねば、
   完全に卒倒するのは言うまでもない。


    心と身体の芯まで骨抜きにされ、彼の胸の中に寄り掛かり余韻に浸るダーク。その彼女を
   優しく抱きしめ続けるミスターT。お互いの心臓の鼓動だけしか耳に入らない両者は、完全な
   2人だけの世界に浸っている。
ミスターT「ごめんな、ちょっと度が強すぎたね。」
ダーク「い・・いえ・・・。」
ミスターT「でも君を心から癒したいと思ったのは事実さ。俺にできる事を最大限したまでだよ。」
   休憩する前の彼とは段違いだとダークは思う。底知れぬ優しさは更に深みを増しており、取り
   込まれれば抜き出る事は不可能だと直感した。

    今も胸中で余韻に浸るダーク。しかし気になる事があった。それは自分の顔を変化させた
   事である。それを徐に尋ねだす。
ダーク「マスター、ご質問が。」
ミスターT「顔の変化の事か。」
ダーク「あ・・はい。先程顔を変えて頂きましたが、創生者たるアイテムはエシェラさんがお持ちの
    筈です。今のマスターには不可能のような・・・。」
   正論だった。黒いカードが入ったレザーケースと手帳はエシェラが所持している。今の創生者
   は彼女なのだから。それなのに自分に変化をもたらしたと、ダークは不思議で仕方がない。
ミスターT「彼女に渡してあるものは実物だ。しかしそれは一同が持って初めて効果を現すアイテム
      でもある。私のは元来から備わっているものだからね。」
ダーク「つまり手帳とカードがなくても変化は可能という事ですか。」
ミスターT「この場限りでは不可能はないよ。」
   そう言うと彼女の背中を優しく撫でる。直後ダークの衣服がミスターTと同じ出で立ちに変化
   した。これには驚愕するしかない。
ミスターT「生かすも殺すも俺の一念次第になる。こうやって癒しを与える事もできれば、その場で
      瞬殺も可能だ。だが後者の考えは無粋な考えだがね。」
   再びダークの衣服を元に戻すミスターT。そして彼女を優しく抱きしめる。今まで以上に癒し
   が込められた行動に、ダークの感性は恐怖を感じずにはいられなかった。
   しかし彼の顔はどこまでも優しく自分を見つめてくれている。それを見ると頬を染めてしまう
   のだが、心は瞬時に落ち着きを取り戻していく。


    近くの椅子に座るミスターTとダーク。今までの心の気怠さが一気になくなる彼女だった。
   インパクトあった言動だったが、全ては目の前の人物を支えるためのもの。それを改めて思い
   知ったダークである。
ミスターT「課題は山積みだ。私達が私達でいられる証を立てねば意味がない。」
ダーク「そうですね。」
   普段のミスターTに戻ると、別の気さくな彼が出現する。一服しながら語る姿は、今までの
   優しさはカモフラージュだったのかと思わざろう得ないダークだった。
ミスターT「まあ今の私は創生者じゃない。お前さん達と同じ一介のレスラーだ。この場合も大いに
      羽を休めるのがいいだろう。」
ダーク「はい。」
   心には苦悩を抱えているものの、すっかり元に戻ったと確信したダーク。それだけで彼女の
   心は癒される。自分も彼の虜になった事を改めて思い知り、もはや彼なしでは生きていけない
   と思うほどになっていた。

ミスターT「ヴァスタール、暫くこの場を離れると伝えてくれ。」
ヴァスタール「大丈夫ですか?」
ミスターT「な〜に、心配いらんよ。散歩に行ってくるだけだからさ。」
ヴァスタール「了解です。」
    近くにいるヴァスタールを呼び寄せて訳を語るミスターT。彼女達も量産されし人物では
   あるが、自分達の生みの親である彼をどこまでも心配していた。
   そんな彼女の肩を軽く叩き、ダークの手を引いてその場を去っていく。何処へ行くのかと心配
   になるダークだが、手を引かれるシチュエーションに頬を染めるしかない。



ダーク「あの・・・どちらへ?」
ミスターT「以前報酬はデートだと告げたよね。それを実行するのさ。」
ダーク「ああ、なるほど。」
    再び休息に入るのかと思っていたダークは、彼が告げた別の内容にホッと胸を撫で下ろす。
   しかしその内容から顔を赤くしてしまうのは言うまでもない。
ダーク「でも・・・エシェラさんや他の方々が頑張っているのに、悪い気がします・・・。」
ミスターT「俺は俺の約束を守るまでだよ。俺に付き合わされるというのなら問題あるまい。」
ダーク「それはそうですが・・・。」
ミスターT「素直に認めなよ、お嬢様。」
   この現実を受け入れ難いダークを抱きかかえる。お姫様抱っこに赤面してしまうが、その心地
   良さに心を奪われていく。

ミスターT「意外と軽いんだな。」
ダーク「まあっ、失礼な。私も一応は女ですよ。」
    体重の事を指摘され、顔を膨らませて拗ねるダーク。本編から兵器として誕生した自分では
   あるが、この場で女性として覚醒した彼女は女らしい態度を取った。それに小さく笑う彼。
ミスターT「大丈夫さ。原点回帰さえ見失わなければ、何度でも立ち上がれる。否、這い付くばって
      でも立ち上がってみせる。そう彼女に約束したのだから。」
   徐に自分の額をダークの額に当てる。そこから感じ取れる複雑な感情が直に流れ込んでくる。
   だが一番強い感情は底知れぬ優しさだ。それだけは直感できたダークだった。



ミスターT(エシェラ)「またスキンシップですか・・・。」
    突如ミスターTが語りだす。しかしそれは会場にいるエシェラが遠隔により彼の体内に入り
   込んでのもの。声色は彼のものだが、口調はエシェラ自身のものである。
   これにダークは驚くが、一番驚いたのはミスターTであろう。
ミスターT「ごめんな。」
ミスターT(エシェラ)「分かりますよ、ダークさんの心がマスター一色で染まっているのが。」
ミスターT「でもこれも俺の生き様だ、曲げるつもりはないさ。」
ミスターT(エシェラ)「フフッ、貴方らしい。」
   まるで1人ごとを語っているように見えるミスターTに、ダークは可笑しくて仕方がない。
   それを感じ取ったエシェラも同じく笑っている。己の身体ではなく彼の筐体を利用してだが。
ミスターT(エシェラ)「ダークさん、彼の事をお願いします。」
ダーク「あ・・は・はい・・・。」
ミスターT(シルフィアTL)「徹底的に骨抜きにされなさい。その方が幸せよ。」
   突然別の人物が入り込んできた。それは彼の恩師であるシルフィアTLだ。この場合は1人
   3役と言えるだろう。
ミスターT「今度は恩師もですか・・・。」
ミスターT(シルフィアTL)「偶には息抜きもいいものよ。」
ミスターT(エシェラ)「そうですね。」
ミスターT「まったく・・・。」
   言動からして2人との会話には特別な一念が込められている事を感じ取るダーク。これには
   到底敵わないと思ったが、心なしか淋しくなる自分であった。

ダーク「お2人が羨ましいです。心からマスターと接している。やはり私には本当の会話が成されて
    いないですから。」
ミスターT(シルフィアTL)「何を馬鹿な事を言うの、その瞬間の癒しは本物よ。彼が心から貴方
               を思ってくれている。それは間違いないわ。」
ミスターT(エシェラ)「だから水を差したのですよ。一応私もヤキモチを妬いているのですから。
            そこの所をお忘れなく。」
ミスターT(シルフィアTL)「その瞬間を大切に、彼が何度も語る言葉。だから貴方もそれに甘え
               なさいな。」
ミスターT(エシェラ)「悔しいですけど、創生者役は疎かにできませんから。マスターへの癒しは
            貴方に任せます。」
    声色はミスターT自身なのだが、発せられる声はエシェラとシルフィアTLのもの。何とも
   言い難い現状だ。しかし語られる内容はダークを納得させるには充分のもの。それを素直に
   受け止める彼女だった。
ミスターT(エシェラ)「襲われないように注意してね。」
ダーク「な・・何を仰るのですか・・・。」
ミスターT(シルフィアTL)「見境なくなると何をするか分からないからねぇ。」
ミスターT「酷い言われようだな・・・。」
   そう彼が語ると小さく笑う2人。その後彼から2人が離れていき、普通のミスターT自身に
   戻った。


ミスターT「ごめんな。」
ダーク「い・・いえ・・・。」
    素の彼に戻った事を確認し、ホッと溜め息を付くダーク。他の女性が絡むと口論になりそう
   な自分を抑えての会話故に、今の彼女は全力疾走の後のような脱力感に襲われている。

    ダークを抱きかかえるのを止めて地面へと下ろすミスターT。その場に座り込み、徐に一服
   をしだした。彼女もそれに付き合い、同じく地面へと座り込んだ。
ダーク「何だか風来坊の内容に近くなっています。」
ミスターT「一同がコミュニケーションを始めたのも、切っ掛けは風来坊の世界観だよ。目の前の人
      を大切に、正しくその通りさ。」
   そんな語る彼が手に持つ煙草を取り上げるダーク。何とそれを吸い出したのだ。案の定初の
   喫煙とあり、大きく咳き込み咽せる彼女だった。
ダーク「煙草って・・苦いのですね・・・。」
ミスターT「無茶しやがる。」
   それでもなお喫煙を続ける彼女。適応能力は凄まじく、直ぐに彼と同じように一服しだした。
   これには流石のミスターTも驚くしかない。
ミスターT「負けられない執念があり、膝を折れない理由がある。それを見失わない限り、俺はどこ
      まででも突き進める。大丈夫さ。」
ダーク「はい。」
ミスターT「お前さんには色々と迷惑を掛けるよ。」
ダーク「何を仰いますか。貴方がいらっしゃらなかったら、私達は存在すらしていません。貴方と
    私達は物体と影、水と魚の関係です。ご迷惑をお掛けするのは私達の方ですよ。」
   喫煙しながらも語るダーク。力強い発言は確信論であり、ミスターTの生き様そのものだ。
   それを彼女から伝えているようなものである。

    感無量といったミスターTは、ダークの頭を優しく撫でる。そこに込められた一念を深く
   感じ取った彼女は、最大限の笑みで微笑み返した。


    デートと豪語していたミスターTであり、その行動が何なのかと不安でもあったダーク。
   しかし蓋を開けてみればコミュニケーションだった。先読みし過ぎた彼女は反省する。

    こういった流れもいいものだと痛感したダーク。一時の安らぎを大いに満喫するのだった。
   それを感じ取ったミスターTは嬉しそうな表情を浮かべている。


    この感情は他の全員にも即座に流れていく。ミスターTの創世者を超越した力が最大限発揮
   されており、臨時の創世者であるエシェラやシルフィアTLも驚くほどである。

    以前よりも増して優しさが膨れ上がった彼に、より一層虜にされていく一同であった。

    第50話へと続く。

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