〜第10話 彼の姉〜
     バニッシュブレイダー 〜見えざる悪魔〜
    〜第10話 彼の姉〜
   (バジョンの視点)
   不思議だ、実に不思議だ。今しがたウイングマンの依頼があり、共に同行をしてくれと連絡が
   入った。相手は女性レイヴン、話を聞くだけでかなりのやり手だと直感できた。
   名前はエヴューナ。彼女の名前のどこが不思議か、それはセカンドネームにあった。名前を
   聞いて驚いたぜ。
   リンビィルクウォート、これは今は亡きターウェンのセカンドネーム。つまりは彼女は彼の縁
   の者となる。ルクビュの嬢ちゃんに話したら絶対に驚くな。

エヴューナ「・・・・・。」
   その後暫くしてガレージに見知らぬ機体が来る。どうやらそれはエヴューナの愛機だったよう
   である。メカニック案内の元、俺様は彼女を自室へと招いた。
   だが会ってから殆ど話さない。無口なのかそれとも俺様を信用していないか。まあ外見上、
   悪役に見えるしな。仕方がないか・・・。
バジョン「あのよ〜、黙ってたら何も分からない。何か話してくれ。」
エヴューナ「・・・倒したい相手がいます。名前はフォックス、私の弟を殺した憎き男。」
   やはりそうだった。彼女はターウェンの縁の者、しかも姉といっている。しかし他の奴なら
   そう名乗っているだけだと思うだろう。それを決定づけさせるのは、底知れぬ殺気にあった。
   とても女性から発せられているものではないぐらいに強い。それにフォックスの事を口に出し
   たら、一段と殺気が上がった。まず事実だと取っていいだろう。
バジョン「そうか、あんたがターウェンの姉さんか。」
エヴューナ「弟に会ったのですか?」
バジョン「実際には会っていない。俺様の知人で彼に一番親しい人物がいる。今は彼の意思を受け
     継ぎ、お前さんと同じフォックスを追っている。」
エヴューナ「・・・変わりましたね、ターウェンも。以前は殆ど話さず、誰も信用しなかった。その
      親しい人物とは女性ですね。」
バジョン「あ・・ああ。ルクビュ=カーセレント。アリーナでは雷神トールとして恐れられている
     猛者だ。」
エヴューナ「ゼブさんの娘さんでしたか。」
   エヴューナの口調が変わりだした。初めて会った時より、今の彼女は輝いている。というか
   身内を話しだしたら止まらなくなるのが家族というもの。エヴュ嬢は正真正銘のターウェンの
   姉さんだ。
バジョン「今までの彼女の行動などを見ると、彼を好いているようだ。」
エヴューナ「そうですか、可哀想に・・・。なら尚更フォックスを倒さなければならない。」
バジョン「そうだな。」
   その後エヴュ嬢から詳しい事を聞き出した。本格的にフォックスを追う事にした彼女だが、
   戦力が足りないという事で共に戦う人物を探していたようだ。
   俺様は間隔空けずに話した、フォックスに因縁がある人物が大勢いると。エグザイルやRを
   始め、多くのレイヴンが奴を追って行動している。
   彼らなら必ず力になってくれるだろうと、エヴュ嬢に話題を提供した。
エヴューナ「了解です。ネヴァに相談しましょう。彼女なら一緒に動いてくれるでしょう。」
バジョン「知り合いなのか?」
エヴューナ「ネヴァは妹のような間柄です。彼女を守るイレイザーとは戦闘訓練学校の後輩の間柄。
      野心はありますが、善の心を忘れていない。信用できます。」
バジョン「了解。早速皆に連絡を入れる。場所は・・・ネヴァ嬢のオフィスでいいか。」
エヴューナ「お願いします。」
   顔なじみのレイヴン全員に連絡を入れ、ネヴァ嬢のオフィスへ集まって貰う事にした。実は
   全員が集結しないだろうと思っていた。個々人の信念があるからな。あまり期待せず、俺様と
   エヴュ嬢はネヴァ嬢のオフィスへと向かった。

   驚いた・・・、全員集結している。どうやらルクビュが招集をかけたらしく、今まで出会った
   人物全員がオフィスに集結していた。
   一同がネヴァ嬢のオフィスに集まっている所に、俺様とエヴュ嬢が訪れる。既にエヴュ嬢の
   事を話していたので、他の連中は俺様よりは彼女に視線を集中させていた。
エヴューナ「お久し振り、ネヴァ・イレイザー。」
ネヴァ「エヴュー姉さん。」
イレイザー「相変わらずですね。」
   ネヴァとイレイザーの口調を聞いた一同は、当然驚きの表情をする。このような大物人物と
   知り合いというのは、そう滅多にいるものではない。
   久し振りの再開を味わっているところに、ルクビュが恐る恐るエヴュ嬢に近づく。
ルクビュ「あ・・・あの・・・。」
エヴューナ「貴女は・・・バジョンさんが仰っていたルクビュさんですね。」
   不思議と笑顔がこぼれるエヴューナ。それを見たターウェンを知る者は、彼そっくりだと心中
   でそう呟いた。
ルクビュ「あの・・・申し訳ありませんでした。私が不甲斐ないばかりに・・・ターウェンをこの
     手で殺してしまった・・・。」
   今まで押さえていた感情が解き放たれたのか、大泣きしながらエヴューナに詫びだす。それを
   見た俺様を含めた一同、ルクビュ自身が本当にターウェンを愛しているのだと直感した。
   間隔空けずにエヴュ嬢は泣き続けるルクビュを抱き寄せ、その頭を優しく撫でる。
エヴューナ「気にしないで。彼は彼で仕方がなかったのよ。貴女と対峙したと思うけど、殺したく
      ない一念から自分を殺させた。ターウェンは貴女を恨んではいない、当然私もよ。」
   しっかりした女性だ。会った事はないが、ターウェンもこのような落ち着きを見せた男性で
   あったのだろう。俺様も会ってみたかったな。

   落ち着いたルクビュは指定の場所へ戻り、エヴュ嬢は一同に今回の作戦を話しだす。
エヴューナ「皆さんが共通する憎き敵、フォックス。私は奴を倒すべく戦い続けていました。愛する
      弟を殺された者、騙され殺害されそうになった者。皆さんの力を合わせ、奴を倒しま
      しょう。」
エグザイル「ちょっと待った。協力してもいいが、奴が現れる保証はあるのか?」
クスィー「そうですよ。今まで奴を追っていましたが、殆ど姿を出さない。」
リーブリル「前にルクビュと対戦した時も、音声だけで本人は出てこなかった。」
   そうなのだ。一同は個人でフォックスを追っている。しかしターウェンが殺された時以来から
   一度も姿を出していないという。狩る者の相手から音声としてはその声を聞く事はあっても、
   姿を出した事はなかった。
エヴューナ「私の古い友人、ラムダという人物が奴の詳細を突き止めています。実際に相手側に潜入
      し、内部から情報を提供しています。」
R「敵じゃないのか?」
エヴューナ「それはありません。彼はターウェンの命の恩人でもあり、師匠的人物。それにラムダも
      親しい友人をフォックスに殺されています。」
シールドファイア「なら信用できるな。それで・・・敵の戦力は分かるかい?」
エヴューナ「以前対戦したと思われますが、人工知能AC数百体。それに機械として蘇った4戦士、
      狩る者と言われる者。そしてフォックス自身です。」
エグザイル「4戦士・・あいつらか・・・。」
アズクロフト「ブロウもいるのですね。」
   面々はそれぞれの戦略を頭の中で練り出し始める。特にシールドファイアは手持ちのハンド
   コンピューターを使い、精密な戦略を練りだしている。ここにいる一同、この戦いを決戦と
   思っているようだ。
アビス「作戦時間は?」
エヴューナ「明日の早朝。場所はネオ・アイザックから西に向かった場所にある、古い研究施設跡。
      ここにいます。」
マリア「まだ時間がありますね。それぞれの行動に移っても宜しいですか?」
エヴューナ「構いませんよ。ただし早朝5時前にはネヴァのオフィスまで集まって下さい。」
   一同は頷くとオフィスから解散した。作戦開始時間まで、あと10時間はある。それまでに
   色々と準備が必要だろう。
   俺様は行く当てもないので、ネヴァ嬢のオフィスで待機する事にした。他に同じく待機して
   いる者はエヴュ嬢だけだ。

   数時間後、俺様は夜食を取りエヴュ嬢の自室まで向かう。何か考え事をしているようで、食事
   すら取っていなかった。俺様は食堂から食べられるものを手配し、彼女の部屋まで運んだ。
   今まで妻と子供を養っていたおかげで、料理などは得意である。こういった場合は非常に役に
   立つな。
バジョン「ようエヴュ嬢、入るぜ。」
   俺様が室内へ入ると、エヴュ嬢が机に伏せていた。倒れでもしたのかと思い、食事を投げ出し
   彼女の側まで駆け寄る。
バジョン「大丈夫か?!」
エヴューナ「・・・・・。」
   肩に手を乗せると、徐に頷く。別に倒れてはいなかったようだ。
バジョン「全く・・・心配させるなよな。」
エヴューナ「・・・私の事を・・心配して下さっているのですか?」
バジョン「当たりめぇだ。どんな時でもお互いを助け合う。あんたの自慢の弟さんが言っていた、
     今の世界に必要な事じゃないか。」
エヴューナ「・・・・・。」
   その後彼女は泣き出す。俺様は慌てふためいたが、どうやらターウェンの事を思い出して泣き
   出したようだ。気丈に振る舞っている女だと思っていたが、やっぱこういう一面もあったな。
   俺様は肩を軽く叩き、出来る限りの慰めをした。もっとも俺様にはそんな資格はないだろう。
   しかし今の場ではその行動が彼女を立ち直らせる切っ掛けだからな。それに大切な人を失った
   思いは、俺にもあるからな・・・。
エヴューナ「・・・ありがとうございます。」
バジョン「しっかりしなよ。明日のリーダーとなる人物なんだからな。」
エヴューナ「そうですね・・・。」
   俺様は彼女の安否を再確認すると、放り投げた夜食を片づける。その後彼女と共に食堂へ
   向かった。まあ俺様が誘ったにすぎないんだがな。
   何はともあれ暗いのより明るいのが一番。俺様の亡き妻が口癖のように話していた事だ。

ネヴァ「これで行動に移れるわね。」
イレイザー「そうですね。」
ネヴァ「問題は・・・フォックスがどう出るか・・・。」
   オフィスではネヴァ嬢とイレイザーが作戦を練っている。そこに俺様とエヴュ嬢が入室する。
バジョン「よう。何なんだ、相談事とは?」
ネヴァ「バジョンが日々アリーナで戦っているから聞くけど、風の剣士に会った事はある?」
バジョン「か・・・風の剣士・・・。今も実在するのか・・・。」
イレイザー「はい。情報によると、ルクビュ君が一度会っているそうです。確かその時エグザイル君
      も一緒だったとか。」
   おいおいおい、伝説のレイヴンが何でいるんだよ。信じられん・・・。
バジョン「そ・それで・・、一体何を聞こうとしたんだ?」
ネヴァ「一応雇おうかなと思ったのよ。もしかしたらイレギュラー要素が出るかも知れない。その時
    のための保険よ。」
バジョン「俺様は会った事すらない。一度会った事があるルクビュとエグザイルの方が詳しいんじゃ
     ないか?」
ネヴァ「それもそうね。ごめんね、無理な相談して。」
   しかし・・・風の剣士が実際に手を貸すかな。噂によると殆ど表舞台には登場しないという。
   その奴がこちらの要望に応えてくれるだろうか・・・。
   また伝説のレイヴンを保険呼ばわりするネヴァ嬢も凄い。肝っ玉が据わった嬢ちゃんだな。
   それを見透かしてか、直後にオフィスに通信が入る。イレイザーが徐に通信機を手に取り、
   相手と会話をしだした。
イレイザー「・・・本当か?!」
ネヴァ「どうした?」
イレイザー「表に見知らぬACが2体、こちらと会見を求めているそうです。」
バジョン「それがどうして驚かなきゃならねぇんだよ。」
イレイザー「・・・相手は風の剣士と風の盾と名乗っているそうです。」
   当然ながら一同驚く。今しがた話し合っていた内容が現実のものとなったからだ。
ネヴァ「・・・ここへ通して。」
イレイザー「了解です。」
   再び通信機に応答し、相手側をここに招き入れるよう指示を促した。しかし・・・本当か、
   風の剣士が直接現れるとは・・・。
   ・・・身体の震えが止まらない。フッ、俺様ともあろう者が・・・。

受付嬢「こちらです。」
   扉が開き、受付嬢と見知らぬ2人の人物が入室してくる。2人を招き入れると、受付嬢はあた
   ふたしながら去っていく。やはり彼女も威圧感を感じているのであろう。
ウインド「初めましてかな、ネヴァ=リンシア。それにイレイザー・バジョン=グラヴァリス、
     ターウェンの姉のエヴューナ=リンビィルクウォート。もう既に知っていると思うが、
     ウインドという。こっちは連れのエシェル=ミルフェイリア。」
エシェル「よろしくお願い致します。」
   驚かざろうえない。名乗っていないのにこちらのフルネームをしっかり当ててきた。それに
   エヴュ嬢がターウェンの姉だという事も知っている。
   ・・・こいつは本物かも知れない・・・。
   その後俺様達は震える声で自己紹介をしだす。どうしようもない、心の底から震え上がって
   いる自分がいるのだからな。
ネヴァ「と・・ところで・・・、ここには何のご用でいらっしゃたのですか?」
ウインド「お前が一番知っているだろう。力を借りたいと言っていたはずじゃないか。」
イレイザー「しかし・・・どうやって知ったのです。まさかここに盗聴でもしていたのですか?」
エシェル「感ですよ。誰かが助けを必要としている場合、直感で分かります。それに貴方達は野心家
     のようですが、今回はそのような感情は一切感じ取れません。」
ウインド「彼女の直感と洞察力は凄まじい。俺より凄い力を持っているからな。」
   ・・・冗談じゃない、それじゃまるで神みたいじゃないか。それとも超能力者なのか・・・。
ウインド「言っておくが、俺達は人間だよバジョン。長年生きていれば、そういった感情などが研ぎ
     澄まされていく。そんな異常者などこの世に存在しない。」
エシェル「相手の言動などを知れば、大凡の事は察知できます。」
バジョン「は・・ははは・・・。」
   ・・・負けたよこの2人には。俺の常識を遙かに覆している。しかしどこか安心感を覚える。
エヴューナ「では単刀直入で聞きます。フォックスはどこにいますか?」
ウインド「なんだ、知っているのではなかったのか。お前が言った通り、ネオ・アイザック西の研究
     施設跡。そこが奴等の塒だ。」
エシェル「敵は大部隊でこちらを待ち受けています。それなりの準備がなければ、返り討ちにあい
     ます。」
ウインド「ネヴァ、得意の力で人員を集めろ。今のお前達では、奴らは倒せない。」
ネヴァ「しかし・・・そのような者はこれ以上いません。それにフォックスを恨んでいる者は、これ
    以上はいませんよ・・・。」
ウインド「そうか・・・。ならこちらで4人手配しよう。俺のよき相棒で死線をくぐり抜けた猛者。
     博識のお前なら、誰かは見当が付くだろう。」
ネヴァ「・・・・・シェガーヴァ・レイス・デュウバ・レイシェム、ですか?」
ウインド「その通りだ。」
エシェル「しかし私達は表だっては行動はしません。主役は貴方達です。我々はサポートに回ります
     ので。」
エヴューナ「・・・感謝します、ウインドさん・エシェルさん。」
   ・・・・・とんでもない事になってきたな。伝説のレイヴンである、四天王が現れるとは。
   俺様でさえその名はしっかり記憶している。
   シェガーヴァ=レイヴァイトネール・レイス=ビィルナ・デュウバ=ドゥヴァリーファガ・
   レイシェム=ウインド。どれも最強のレイヴンで人としてもかなりの強者。悪は徹して滅する
   信念を貫き通す。そして弱者は必ず守り通す。目に映る困った人々を助け歩いているという、
   他のレイヴンからしたら変わり者。しかしその生き様は真の人間だ。俺様みたいな腐った奴
   とは格が違う。
   いや・・・もしかしたら俺様にもそういった事ができるだろう。しかし現実に振り回される
   惨めな自分がいやがる。これほど純粋で優しく動く人間は、そう滅多にいないだろう。
   改めて感心する。この優男のウインドが、どれほど優れた人間なのか。格が違う俺様でも、
   その凄さは手に取るように理解できる。
   そして・・・目指すべき人間は、このような人なのかもな・・・。
〜キャラクター&機体投稿者〜
渋谷無双殿 ナグツァート殿 ナパーム殿 えのき殿 トーン殿 ワタル殿

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