〜第01話 雷神トール〜
     バニッシュブレイダー 〜見えざる悪魔〜
    〜第1話 雷神トール1〜
   (ターウェンの視点)
   何年前からだろうか、無意味な戦いを始めだしたのは・・・。
   戦っては生活するの繰り返し、その流れる毎日が引かれたレールを辿るかの如く。
   だが生きる為には戦わなくてはいけない、それが無意味な行動をしようともだ。
   生きる事が何よりの強者の証、それは今の世界の常識だからだ・・・。

   俺の名はターウェン=リンビィルクウォート。レイヴンになってから9年、15歳の時から
   レイヴンの道を歩みだした。今はネオ・アイザック近郊を中心に地道な活動をしている。
   火星の争乱・地球の未踏査地区での戦い。そういった出来事があったが、俺には直接的な関係
   は一切ない。どこぞのレイヴンが解決に導いたのだろうな。それにどうでもよかった。
   最近はアリーナを脱し、ソロ活動をするレイヴンが後を絶たない。理由は様々だが、俺もその
   中の一人であろう。群れをなして生活するのは性に合わない。
   しかし人を糧にして生きるレイヴンは、所詮一人では生きてはいけない。アリーナにしても
   観戦する人がいてこそ成り立つものだ。観戦しないアリーナなどただの下らない戦い。
   俺も人を糧にして生き続けているのだろう・・・。

アリーナ係員「では場内アナウンスがあったらここに来て下さい。」
ターウェン「分かった。」
   俺は今ネオ・アイザック最大のアリーナにいる。今から数分後に試合があるからだ。
   相手は俺と同じく地道な活動をしている女性レイヴン、ルクビュ=カーセレント。その戦い方
   からトール=雷神の異名を持つ。熟練した戦い方ではないが、猪突猛進の一心となる決意は
   ランカーに引けを取らない。
   試合まで俺は受付近くのベンチに腰をかけ、先程自動販売機で購入した紅茶を飲む。ほんの
   僅かな時間、どこかに行く事もできない。時間潰しにはもってこいだろう。

   天井を見つめ放心状態にしていると、徐に歩み寄る人物がいた。
レイヴン「ねぇあなた、もしかしてバニッシュ?」
   バニッシュ、これは俺の異名だ。相手の武装を正確に叩き徐々に行動不能にする戦術を得意
   としている俺は、他のレイヴンからイレイザー=消去と言われている。
   それを聞いた俺はハンドルネームをバニッシュにした。俺と戦ったか俺を知るレイヴン達は
   バニシングブレイダーとも言っているらしい。
   実の所俺はバニッシュブレイダーの方が好ましいがな。ブレイダーの異名はレーザーブレード
   の名手としてのもの。だが実の所それほど上手くないのが現状、俺は射撃の方が性に合って
   いる。
   バニッシュブレイダーよりバニッシュガンナーの方が合っているのかも知れない。
ターウェン「ああ。」
レイヴン「へぇ〜若いのね。私てっきりおっさんだと思っていたわ。」
ターウェン「あんたか、ルクビュは。」
   雷神トールの異名を持つルクビュ、実は幼い風格をしている事に驚いた。もっとしっかりした
   女性だと思っていたのだが。
ルクビュ「そうよ。でも雷神トールと言ってほしいわね。」
ターウェン「それは俺を負かしてから言いな。」
ルクビュ「言ってくれるじゃないの。でも気に入ったわ、初対面の私に堂々と話したのはあなたが
     初めてよ。」
   俺はルクビュの発言に偽りがない事を知った。それは俺と初めて会った時の厳しい表情が、
   明るく穏やかになったのが伺えたからだ。
ターウェン「それで、俺に何の用だ?」
ルクビュ「アリーナを制したければ、まずは敵を知るのが鉄則。」
ターウェン「なるほどな。」
ルクビュ「余計なお世話だとか追い返したりはしないの?」
ターウェン「好きにすればいい。」
   俺は再び紅茶を飲む。この世界での個人の主張はその大多数が通る。要はその者の力の差だけ
   である。住民であれば住民の力まで、レイヴンであればレイヴンの力まで。前者と後者では
   全く力の差がありすぎる。そうレイヴンは自由な職業、そして敵う者はいない。同じレイヴン
   同士なら互角に渡り合えるが。合法非合法の依頼を請け負い、冷徹なまでに任務を遂行する。
   友と呼べる人物は殆どいない、レイヴン同士いつ敵になるかすら分からない。またその場の
   状況において主義主張を変えるのもまたレイヴン。裏切りは日常茶飯事であった。
ルクビュ「じゃあ好きにさせてもらうわ。」
   そう言うとルクビュは自動販売機で缶コーヒーを購入、そして俺の隣に座り込む。
ルクビュ「とにかく私は敵の観察をさせてもらうわよ、バニッシュさん。」
   コーヒーを飲みながらそう話す。全くとんでもない奴に目を付けられたものだな。だがこれが
   本来あるべき姿なのかもしれない。
   かつて実在したというロストナンバーレイヴンズ。彼らは今の人類から消え去った友情という
   ものを信じ、お互いを分かり合い助け合う。レイヴンには考えられない事を同じレイヴンが
   成し遂げたのだ。彼らの存在は今や伝説的存在である、俺も彼らを憧れてレイヴンになった。

ルクビュ「本当に無口ね・・・何か喋ってもいいんじゃない。」
   さすがのルクビュも俺がダンマリするので、イラついた口調で話してきた。俺は一応の機嫌を
   取るために会話しだす。
ターウェン「・・・なぜ雷神と呼ばれるようになったんだ?」
ルクビュ「誰からか知らないけど、私の闘い方を見て雷神と呼ぶようになったそうよ。だから私も
     それを利用したの、雷神トールとしてね。」
ターウェン「アリーナは長いのか?」
ルクビュ「1年になるわね、16の時からよ。」
ターウェン「俺は3年だ。」
ルクビュ「24かぁ〜・・・私より8つ年上か。」
   20代のレイヴンはそれほど珍しくはない。これもロストナンバーレイヴンズの活躍があった
   からこそだが。
   それ以前まではレイヴンの推定年齢は20代前半を指し示していた。年齢に達しない者は試験
   をクリア出来ず、途方に暮れる事が多かった。つまりレイヴンは20代後半からの限定された
   職業と認識されており、ガキだった15の俺からは後10年はレイヴンになれなかった。
   しかしそれを強引に切り開いた奴がいた。名前まで走らないが、何でも10代前半でレイヴン
   になったという。そのレイヴンが大深度戦争の発端となったとも。
   ロストナンバーレイヴンズの面々は殆どが20代のレイヴン。殆どが青年の集まりであった。
   だからこそ無理に近い事を成し遂げられるパワーがあったのだと確信している。
   だが全員が20代ではなく、30代・0代・50代の面々もいたようである。

アリーナアナウンス「バニッシュさんとトールさんは第1アリーナ場へ向かって下さい。」
   城内アナウンスが流れ、俺達の事が話された。俺は紅茶を飲み干した空き缶をゴミ箱へ捨て、
   徐に立ち上がる。
ルクビュ「それじゃあよろしくね。」
   ルクビュが握手を求めてくる。俺は右手を差し出し彼女の右手と交わした。俺の手より一回り
   ほど小さいこの手が、雷神と呼ばれるほどの操作をするのかと思うと不思議で仕方がない。
ターウェン「手加減はなしだぞ。」
ルクビュ「当たり前よ。」
   お互い小さく微笑むと、それぞれのガレージへと向かって行った。交わす言葉など、戦場で
   対決すれば済む事だ。
   ルクビュ=カーセレント、手強い女性レイヴンだ。俺は心中でそう呟く。

   暗闇の中に点灯する数々のインジケーター。俺はヘッドパーツのセンサーアイから送られて
   くる画像を見つめていた。見つめているものはルクビュのAC、トールサンダー。まだ試合の
   合図は下されていない。
   俺の愛機ブリューウェアはトールサンダーとの一定距離の間合いを保ちながら、試合合図を
   待ち続けた。もうどれだけコクピットに搭乗した事だろうか・・・。
   そんな中レイヴンなり立ての時期を頭に思い浮かべる。俺は生きる為にレイヴンになった。
   今の世界力が無い者はただ生きるだけに近いが、唯一レイヴンだけは違った。絶大な戦闘力を
   誇るACを動かせるからだ。ACがあればミッションからアリーナへと参加する事ができる。
   あとはレイヴンの腕次第だが、そうやって数々のレイヴンが強者となり消えもしていった。
   レイヴンほど自分の存在価値が露呈される職業は他にはない。生きるか死ぬか・・・、これが
   レイヴンにとっての最重要かつ最低の条件であった。
アリーナアナウンス「レディ・・・。」
   メインモニターに試合開始のシグナルが点灯する。これが消えれば試合開始。
アリーナアナウンス「ゴー!」
   モニターから合図が消え、試合開始となった。
   トールサンダーはオーバードブーストを発動、凄まじい勢いでこちらへ突進してくる。俺は
   ブリューウェアを左へブースターダッシュさせると同時に、8連装ミサイルランチャーへ武装
   を切り替えた。モニターに映るロックオンのカーソルが最大になるまで移動をしながら回避。
   ロックオンカーソルが8ロックで埋まると、即座にミサイルを発射する。8発のミサイルは
   美しい軌道でトールサンダーを迎撃しようとした。
   だが機体に着弾する瞬間、後方へと向かっていく。ミサイルを引き付けるインサイドパーツの
   デコイだ。8発のミサイルをデコイに任せると、トールサンダーは右腕主力武器のレーザー
   ライフルを連射してくる。放たれたレーザー弾は左移動しかしていない俺のACに直撃し、
   後方へと吹き飛ばされる。トールサンダーはレーザーブレードを発生させオーバードブースト
   の勢いを利用した斬撃を見舞おうとしてきた。
   俺は愛機を立て直すと、肩武器のレーザーキャノンを構えた。どう考えても無謀としか思い
   つかない行動。だが相手はオーバードブーストの火力により機体が地上より浮かんでおり、
   そのまま俺の機体へ斬撃を繰り出す。だがキャノンを構えているブリューウェアは通常身長の
   半分であり、繰り出された斬撃はヘッドパーツ上部を掠めた空振りに終わる。だがそれだけ
   では終わらなかった。
   オーバードブーストの火力を纏ったトールサンダーは凄まじい勢いで俺の愛機にぶつかった。
   俺の機体は構えの姿勢を取っていたため僅かだが後方へ動いただけだが、トールサンダーは
   ぶつかった勢いで後方へと思いっきり吹き飛ばされたのだ。トールサンダーは吹き飛ばされた
   勢いで地面へ倒れ込むが、すぐに機体を起き上がらせる。
   だがこのチャンスを俺は逃さなかった。既に構えていたレーザーキャノンのチャージを最大
   まで高めたエネルギー光弾を、起き上がろうとしているトールサンダーに放つ。起き上がった
   直後にレーザー光弾が直撃、レッグパーツが粉々に吹き飛んだ。
   この瞬間コクピットモニターにWINの表示が現れ、俺の勝利が確定した。猪突猛進の相手の
   性格を利用した戦闘であった。

ルクビュ「凄いじゃない。」
   試合後ガレージに愛機を待機させると、俺はベンチに座り缶紅茶を飲む。対戦の後の束の間の
   休息みたいなものだ。
   そこにルクビュが駆け付けてきた。最初に彼女と会った時と全く印象が違う。顔は殆ど堅苦
   しいものであったが、試合後では明るい表情をしていた。
ターウェン「さすが雷神トールの異名も分からなくはない。だが無駄な動きがあったぞ。」
ルクビュ「猪突猛進と言いたいんでしょ、分かっているわ。でも私はこの戦闘スタイルが性に合って
     いるからね。勝っても負けてもこのスタイルは貫き通す。」
ターウェン「フフッ、お前らしい。」
   俺はもう1つの缶コーヒーをルクビュに手渡した。彼女はそれを受け取り、俺の隣に座る。
ルクビュ「雷神トールも形無しね。」
ターウェン「あれだけ軽量の機体だ、滞空時間も俺のACよりも高いだろう。なら上空からの攻撃も
      やってみな。」
ルクビュ「了解、先輩のアドバイスはしっかり役立てるわ。」
   コーヒーを飲みながらそう答えるルクビュ。意外と素直な面もあるんだなと思った。
ターウェン「これからもよろしくな。」
ルクビュ「こちらこそ。」
   俺は右手を差し出す。ルクビュも右手を差し出し、握手を交わした。
   雷神トールの異名を持つ女性レイヴン、ルクビュ=カーセレント。面白い人物と知り合った。
   またこれからも何度か一緒に戦いそうな気もする。
〜キャラクター&機体投稿者〜
トーン殿

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