〜第07話 受け継がれし者〜
     バニッシュブレイダー 〜見えざる悪魔〜
    〜第7話 受け継がれし者〜
   (バジョンの視点)
   俺様の名前はバジョン=グラヴァリス。以前はプロレスラーという格闘技選手だった。だが
   現役を退いた俺は、レイヴンとなる。ACに乗れば格闘技をやっているみたいだからな。
バジョン「いや〜実に楽しいぜぇ〜。」
   俺様はアリーナで火星だ資金を数えていた。もっとも数えると言っても計算だがな。自室の
   コンピューターを操作しながら、今まで稼いだ金額を纏めていく。
バジョン「そういえば・・・ルクビュ嬢ちゃんはどうしたかな。」
   以前とあるミッション遂行中に、破壊されそうだったACを助けた事があった。アリーナの
   中核クラスで、雷神トールの異名を持つルクビュ=カーセレント。相方を間違って殺して
   しまった事から、一時はレイヴンの活動を止めていたと聞いている。まあ女だから仕方がない
   と言えばそれまでだが、それで止まってしまうと弱い奴でもある。
バジョン「さてと・・・またアリーナにでも行くかな。」
   この頃殆どアリーナに出場を繰り返している。俺様のかみさんもアリーナの係員として活躍
   している。まあ双子の子供を養うには仕方がない事で、俺様も進んで資金稼ぎの毎日だな。
   自室を出ると、俺様は愛機アイズレイクターに搭乗。一路アリーナへと向かった。

   俺様が家内と結婚したのは2年前。子供達は約半年前に生まれた。双子というのが驚きだ。
   俺様に全く似ていない部分が、家内の凄さなのだろうか。
   その後とある事情から離婚。しかし養いはしっかりしている。ただ単に夫婦生活が出来なく
   なったといった方がいい。今も俺様は家内を愛している。当然可愛い我が子達もだ。
   俺様が戦う信念、それは家族の為でもある。

バジョン「嬢ちゃんが今回の対戦相手か。」
レイヴン「馴れ馴れしいわねあんた。」
   アリーナで俺様は対戦相手のレイヴンと会った。何でも現役のプロレスラーらしい。それを
   聞いた時、心の中で戦いたいという闘志が燃えだした。
バジョン「フッ。俺様に敬語を使わせたければ、実力で勝つ事だな。」
レイヴン「言ってくれるじゃないのおっさん。あたいはマレーネ=グローブマスター。覚悟しときな
     おっさん。」
バジョン「おっさんおっさんってうるせぇんだよ。俺様にはバジョン=グラヴァリスっていう名前が
     あるし、こう見えても二児の父親だ。文句あっかっ!」
   俺様がそう言い放つと、彼女は辛そうな表情を浮かべる。俺様は直感した、子供に関して何ら
   かのトラウマがあるとな。
マレーネ「・・・ないわ、ごめんなさい。」
   やはり直感した通りだ。マレーネ嬢ちゃんは子供に関してトラウマを持っている。それが何か
   までは分からねぇが、何か力になってやりてぇな・・・。
バジョン「・・・とりあえずよろしくな、マレーネ嬢ちゃん。」
マレーネ「よろしくバジョンさん。」
   俺達はガッチリと握手を交わした。これはプロレスラーなら誰でも行う挨拶代わり。彼女も
   それなりの腕の持ち主らしい。そしてその手を通して、彼女の意志の強さを感じ取った気が
   した。

   (シェルーナの視点)
   あたいはシェルーナ。師匠マレーネ=グローブマスターの元で修行をしている女レイヴン。
   師匠とバジョンというおっさんが試合を開始しようとしている頃、隣接するアリーナで頂上
   決戦ともいうべき戦いが行われている。名うてランカーレイヴンのネヴァ=リンシアと、その
   相方のイレイザー。そして対戦側は一匹狼レイヴンのブルースと、更に一匹狼レイヴンの
   アインストのペア。つまりはつい最近開始となったバトルロイヤル戦法の対戦だった。
シェルーナ「面白い戦いがやってるじゃない。」
レイヴン「ここには初めてか?」
シェルーナ「そうよ。」
   馴れ馴れしいわね、誰なのこいつは・・・。でも私好みの美形だわ、案外いい奴かも。
シェルーナ「あんたは誰よ。」
レイヴン「失敬、アズクロフトという。アリーナでしか生計を立てていない。」
シェルーナ「もしかして賞金首?」
アズクロフト「ああ。」
シェルーナ「ふ〜ん・・・。ま、私には関係ないわ。他人と干渉する事が嫌いだからね。」
   アズクロフト、賞金首なんだ。どう見てもそうは考えられないけど、人は見かけによらずって
   訳かな。
アズクロフト「さてと、これから依頼だ。また機会があれば。」
シェルーナ「よろしくっす。」
   一瞥すると、アズクロフトは去っていった。その後ろ姿はどこか悲しげだ。彼の過去に何か
   あったのかも。しかし彼のレイヴンとしての強さ、それは強く感じられた。やり手の男という
   わけかな。
   その後も私は頂上決戦を視聴した。この戦いに何かを感じ取ったから。

   (マレーネの視点から)
   ・・・子供か。私は13の時に異性とのトラブルで、子供が産めない身体になった。これは
   私の罪。その男性を殺してしまった、私の消えない罪・・・。
   バジョンのおっさんは私の心中を見抜いているのかも。話し方などからそんな気がする。
アナウンス「レディー・・・ゴー!」
   試合開始のシグナルが消え、対戦が開始される。私は愛機デイズピースを前方に動かし、相手
   の行動を見た。しかしおっさんはとんでもなく無謀な行動に出る。
   モニターに映し出されたのは、バジョンのACアイズレイクターがオーバードブーストの火力
   を纏い突撃してくる姿だった。そして両肩のリニアキャノンを連射し、こちらの行動を止めに
   掛かってくる。彼は強化人間、これは非常に厄介だわ。
バジョン「おらおらおらぁ〜!!!」
   まるで獰猛な猛獣、猪突猛進で何も考えない。しかしそれだけに強く対処が取りづらい。全く
   理解できる行動を回避する事が、時には難しくなる事もありうるのだ。回避行動をとる私の
   ACに堂々と接近し、左腕のレーザーブレードを繰り出してくる。
   私も負けじとブレードを繰り出し、ほぼ同時に斬撃が繰り出された。私が放った斬撃はアイズ
   レイクターのコア第1装甲を切り落とし、第2装甲を露出させる。
   しかし彼が放った斬撃は愛機のヘッドアイを切り裂き、完全に視界が遮られた。
バジョン「降参しろ。」
マレーネ「バカ言うな、まだ終わってない。戦える状態ならギブアップはご法度だっ!」
バジョン「フッ、いい度胸してる。」
   その後私は再びレーザーブレードを繰り出しバジョンの愛機アイズレイクターへ斬り付ける。
   ムーンライトと謳われる最強のレーザーブレードは、強力な分2度目の斬撃に時間がかかる。
   しかしこちらのブレードはその約2倍近い早さでの行動が可能。繰り出された斬撃は、アイズ
   レイクターのコア第2装甲を切り裂き、致命的なダメージを与える。
   しかしその後相手から第2撃が繰り出され、青い刀剣は愛機デイズピースのヘッドパーツを
   粉々に切り刻んだ。つまりはレーザーブレードをヘッドパーツに突き刺しなぎ払ったといって
   よい。
   私のACは完全に戦闘不能に陥った。私は相手の戦術が読めなかった。まさか頭部だけ狙って
   くるとは・・・。
   頭部を狙う・・・。まさか・・・バジョンのおっさんは・・・。

バジョン「やるな嬢ちゃん。」
   ガレージへと引き上げた私。機体はヘッドパーツ以外殆ど軽傷だが、ヘッドパーツだけは殆ど
   大破寸前状態だ。そういえば・・・レスラーからレイヴンになった者の噂を聞いた事がある。
マレーネ「・・・もしかして、ヘッドクラッシャーのバジョン=グラヴァリスって貴方の事?」
バジョン「前はそう言われていた。今は現役じゃない、レスラーから忌み嫌われる存在だ。」
   驚いた・・・私の憧れのレスラーがこのおっさんだったなんて。だから何となく、どこかで
   会った気がしていたのか。
マレーネ「そうだったのですか。まさかヘッドクラッシャーだったとは。ですがレイヴンとしての
     道があるのですから、まだまだ現役ですよ。」
バジョン「いや、今日限りでレイヴンを辞める。」
   辛そうな表情で答えるバジョン。あの明るい表情が全く伺えられない。
   私はどうしたのかと、彼に問いただした。レスラーが引退する場合は、それなりの強い理由が
   あってこそだ。ただ単に飽きたやつまらないといった感情で戦う者は、ここまでの強者には
   なれない。
マレーネ「ど・・どうしてですか?!」
バジョン「・・・試合中に病気がちの妻が死んだ。そのため幼い双子を引き取る事になったからよ。
     もうレスラーもレイヴンも終わりだ。」
   奥さんが死んだ・・・。これでは辛い表情をする訳だわ。でも私なら両立させて生きていく
   事が可能な気がする。なぜおっさんはそれが出来ないんだろう・・・。
マレーネ「辞めなくてもいいのでは?」
バジョン「じゃあ誰が子供を養うんだ。それに俺は不器用だし、仕事と養育を両立させる事はかなり
     難しいんだ。ただでさえ・・・ヘッドクラッシャーと言われた俺だ。誰よりも愛している
     子供でも、その目を失明しかねない・・・。」
マレーネ「・・・では私が代わりに育てます。貴方はその子達の分まで戦って下さい。」
   気が高ぶっている。私がこんな事を言うなんて・・・。それにバジョンは赤の他人、なぜに
   ここまで首を突っ込むのか・・・全く分からない。
バジョン「お前・・・本気か?」
マレーネ「・・・バジョン=グラヴァリス、私がレスラーになった切っ掛けは貴方です。私に波乱の
     人生を与えてくれたのも貴方、その恩返しをしたいんです。」
バジョン「・・・なるほど。10代の時に問題を起こし、一時はレスラーの道を進むのを止めた奴は
     お前だったか。それに覚えている、俺様の熱狂的なファンの中で唯一純粋に憧れて付いて
     来た奴を。あの時の嬢ちゃんがお前だったとはな。」
   バジョンは暫く考え込み、何も話さなくなる。私はただ黙って次の発言を待った。
バジョン「了解だ。お前に任せる。ただし育てると言ったからには、その命を懸けて行えよ。それ
     さえ守れば何も言わない。お前流の子育て法を楽しみにしている。」
   彼は私に待つように言うと、その場から去っていった。私はガレージのベンチに腰をかけ、
   ただ待ち続けた。今考えるととんでもない事を言い出したのかも知れない。赤の他人の子供を
   命を懸けて育てるなんて。
   ・・・身体が震えだしてきている。やはりとんでもない事を言ってしまったのだろう・・・。
   しかし・・・過去の私の罪滅ぼしができる絶好のチャンスかと、心中で無意識に直感もした。
   今は・・・とにかく待つだけだ・・・。

バジョン「連れてきたぜ。」
   両腕に双子の子供を抱きかかえ、バジョンは今までにない笑顔で登場した。どんなにヒールを
   演じようが、二児の子供である事には変わりはない。そして2人の子供をどれだけ愛している
   かが、子供を持たない私でも痛いほどよく理解できる。
   彼は子供を私に託すと、辛そうな表情を浮かべつつ語り出す。
バジョン「・・・とにかく立派な大人に育ててくれれば何も言わない。マレーネ、お前さんを信じて
     いるぜ。じゃあな。」
   そう話すと、彼はその場を去っていった。何だかもう二度と会えない、そんな後ろ姿である。
   しかし私は子供達を見つめると、なぜか胸が熱くなる。あの過去が私から母親を奪ったのは
   事実。しかしバジョンがこのような形で母親のチャンスをくれた。
   バジョン・・・ありがとう・・・。

シェルーナ「どうしたのその子っ!」
   ガレージにて子供達をあやしていると、観戦を終えたシェルーナが帰ってくる。私達を見るや
   否や血相変えて怒鳴りだした。まあ普段生活を共にしている彼女だ。それに極端すぎるほど
   ではないが子供が嫌いでもある。
マレーネ「そう怒るな。大切な方から預かった、私の子供だ。」
シェルーナ「師匠、何考えているのよ。今それでも生活が苦しいというのに、そんなガキの面倒を
      誰が見るのよっ!」
マレーネ「私が面倒見る、母親だからな。」
   可哀想なシェルーナ。子供が嫌いな人物に優しい者はいない。今の世界は子供が好きか嫌いか
   で相手の性格が分かる。ここまで子供を毛嫌いしているとは。
シェルーナ「・・・分かったわよ、師匠がそう言うのなら。でも私は絶対に面倒は見ないからね。」
マレーネ「はいはい。」
   彼女の先の行動が目に見えている。実際には子供嫌いと叫んでいるが、子供を見つめる瞳は
   輝かしいものである。
   女性なら母親という道は、誰もが通る。極度な子供嫌い以外では、自然とあやしてしまうのが
   女の性だ。
   シェルーナもいい母親になるな。・・・羨ましい限りだ。
〜キャラクター&機体投稿者〜
渋谷無双殿 ナグツァート殿 エース殿

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